第31話 説教
「と言うと?」
間宮が聞き返すと、ナイアは若干説教をするように指を立てる。
「確かに抵抗感があると、この後大変かもしれないわ。それでもなんか、その感覚って、人として大事な感覚なんじゃない?」
「ま、まあ確かにそうだな。何かを殺すのに躊躇しないってのは良くないな」
「そうそう!限度ってものを考えなさいよね」
ナイアは間宮の周囲をクルクルと飛び回りながら話す。
「アタシね、正直何でこんなところに居るのか分からないわ」
「そう言えばナイアから聞いたこと無かったな」
間宮が奈落に落ちた時、助けたのがナイアだった。間宮はナイアに対して事の経緯を話してきたが、ナイアについては謎である。
「仕方ないもの、何にも覚えていないんだから。でも、アンタのちょっと危なっかしい所を見てると、ちゃんとアタシがついてないとって思うのよ」
「すまん......」
間宮自身も自分の行動についてかなり積極的、悪く言えば向こう見ずであることは自覚していた。それでも行動を止めなかったのは、この奈落において「全く行動しないこと」、そして「自分の力を把握していないこと」が非常に危険だと考えたからである。
「確かに前のめり過ぎたってのはあるけどさ、そうするしか――」
「限度ってもんがあるのよ。アンタいっつも危険な目に遭うたびに”次は気をつける”って言うじゃない。それでまた大怪我するんだから、こっちの身にもなりなさいよね!」
しっかりと間宮を叱るナイア。今回ばかりはしっかりと怒っている。
「アンタにはちゃんとこの奈落の最下層まで行ってもらうんだから、無茶されるとアタシも困るのよ!」
「ハイ......」
「焦る気持ちも分からなくもないけど、アンタもうこんだけ強いんだし、ちょっとは慎重になりなさいよね!」
「ハイ......」
気づけば間宮は冷たい石床に正座させられていた。間宮の頭上に浮かびながら説教をするナイアの話を気まずそうに聞いている。
「まじで気をつけます......」
「はい!分かったならよろしい!」
言いたいことは言えた様子のナイアはスッキリしたような表情を浮かべる。反面間宮は痛いところを突かれ過ぎたせいで、戦闘よりも疲れたような様子になった。
「じゃあ”慎重に”進むぞ」
「ええ!”慎重に”ね!」
その後間宮とナイアは城中を回り、兵士に遭遇するたびに全員を倒していった。特段強力な敵が出ることもなく、探索は至って順調だった。また一人、間宮が槍兵を短剣で切り裂いた。ミノタウロスの角から荒削りに作られ、魔力を込められた刃はフルアーマーを簡単に貫通した。
「ここの敵、思っていたより強くないな」
「数が多いっていうのはあるかしらね」
出会い頭に能力を使うことで兵士は瞬殺できる。槍による攻撃もそこまで鋭いものではなく、能力を使わずとも十分自前の短剣術で捌くことができていた。
「兵士の練度も高くない。まじでここは何なんだ」
魔法使いもいるが、その殆どは魔法を発動する前に間宮による攻撃でやられている。どのような魔法を使う人がいるのか、それの確認すら間宮はできていない。敵の力を見るために確認はしてもよかったが、先ほどのナイアとの約束があるため、わざわざ敵の魔法発動を待つことも無かった。
「外から見た時はあんなに強そうだったのにね」
「だよな、というかあんな魔法を見せられたんだ。流石にこの程度じゃ終わらないと思ってるぞ」
ここに来る際に砦から飛んできた巨大魔法。太陽のように大きな火球を生み出す魔法など、相当な実力者でなければ発動させることはできないと間宮は踏んでいる。少なくとも、現段階ではそのような実力者とは遭遇していない。
「まだ本番じゃないってことよね」
「そうだな。城と言えば王がいる部屋がありそうなもんだが」
城の中を歩き回る二人だったが、一般的な居住用の部屋や倉庫などは見つかるものの、重要そうな部屋は未だ見つけられていない。既に3階に来ているため、そろそろ見つかってほしいと二人は思っていた。
「お、また階段があるぞ」
室内を照らすものは壁に掛けられる松明のみ。それも不気味な色をしているため、まるでお化け屋敷かのような雰囲気を出している。赤紫色の明かりに照らされながら、二人は階を上った。
「ん?」
階段を上りきると、一本道の廊下の先に巨大な両開きの扉が鎮座していた。石造のそれの表面には悪魔のような細かい彫刻が多く刻まれており、この先に何が存在するのかを思い起こさせる。手すりに彫られた悪魔の顔面の意匠が、無機質な瞳で間宮とナイアを見つめた。
「......よし、この先だな」
「いよいよね」
二人とも、この扉の先が正念場であることは当然理解していた。であるからこそ、準備確認は怠らない。
「魔力は......練れる。能力も問題ない。短剣も刃こぼれ無し。ってかミノタウロスの角ってまじで頑丈だな」
「そりゃそうよ、ここは十二階層中の十階層よ。どんな魔物も生半可な奴らじゃないわ」
準備は済んだ。扉に手を掛ける。不意打ち対策のために身体強化を忘れずにかけておいた。
「よし、やるぞ!」
「やっちゃいましょ!」
二人は重い扉を開いた。
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