第30話 蹂躙

 城門を『破界』によって粉砕した後、間宮とナイアの二人の目の前に現れたのは、正に城と言える建物だった。長閑な草原には全く似つかわしくない何の装飾もない灰色の建造物は、異様な威圧感を二人に与えた。周囲には無数の足音が鳴り響いている。門を無理やり破壊したのだ。当然騒ぎになる。


「金属の足音が多いな。鎧を着ているのか?」

「魔物もちゃんと用意してるってことね」

「何か魔物ってよりも、人を相手にしてるみたいだ」


 そう言いながら間宮は能力行使の準備をする。


「全部ぶっ壊しても大丈夫だよな?」

「大丈夫、もうここまで来たらどこまでやっても同じよ」


 砦をくぐり抜け、城の入口まで掛かっている桟橋を渡る。堀の下には水が張られており、確かに構造は城らしいと間宮は感じていた。


「にしても何で城があるんだ?奈落の中で国みたいな集団があるのか?」

「そんなのは無いはず、アタシもよく知らないわ」

「そんなもんか。じゃ、始めるぞ」


 間宮は手をくぐり抜けてきた砦に向けた。砦の上には鎧を纏った兵士のようなものが何体も存在しており、間宮らに向けて弓を向けていた。


「『断絶』」


 宣言と同時に壁が斜めにずれる。その歪は時間と共に大きくなり、やがて大きな音を立てて瓦解していく。兵士の呻き声と落石する音が混ざり合い、未だ攻撃されていない砦からもどよめきの声が間宮に届いてくる。


「まだまだ、『断絶』」


 間宮は認識する空間を自分を中心として少しずつ広げていく。認識範囲に入った砦を次々に破壊していき、そのたびに断末魔が戦場に響いた。気づけば城を囲む砦の三分の一が粉々になっていた。


「まずはこんなもんか」

「......アンタホントに強くなったわね」

「この力のお陰だな」


 砦の断面からは間宮の様子を窺うように兵士が覗いている。しかし既に誰も弓を引く者はいなかった。狙いを定めれば、次は自分たちであると理解したためである。


「さて、城内に行くか」

「行きましょ!」








 桟橋を渡り、入口を塞いでいる巨大な鉄格子を破壊して内部に入る二人。内部は控えめであるが丁寧な装飾が為されており、上品な印象を見る人に与えるものとなっている。しかしそれでいて壁に掛かっている松明は赤紫色の炎に揺れており、不気味な印象も植え付けるものであった。二人は城の奥へと続く石畳の廊下の上を歩いていく。


「ホントに城じゃない。どこかの王様が住んでるのかしら」

「妙にリアルだよな。いやリアルの城をあんま知らないけど」


 現代に生きる間宮は、当然この西洋式の城について実際に見たこともなく、知識としても素人同然である。それでも、ここにはどこか生き物が生活しているような息吹を感じることができた。

 周りを観察しながら歩いていると、依然として周囲からは人が走る足音や、何かを話している声が聞こえてくる。そしてその足音の一部は間宮らに近づいて来ているようであった。


「誰か来る」

「気をつけてね」


 間宮が足を止めて警戒していると、廊下の脇道から5人の兵士が現れ、間宮の前に立ち塞がった。5人中3人はフルアーマーに槍を持ち、残りの2人はローブのようなものを羽織り、背丈ほどの長い魔法の杖のようなものを間宮らに向けている。


「......やるか」

「縺薙%縺ッ騾壹&繧」


 何かを兵士が喋ったようだが、間宮は全く聞き取ることができなかった。


「ナイア、意味分かるか?」

「ぜんっぜん」


 ナイアであればと思う間宮だったが、ナイアも聞こえないようではどうしようもない。短剣を構えつつ、間宮は自分の力の発動準備をする。


「縺九°繧鯉シ」

「『断絶』」


 3人の槍兵が間宮に向けて走り出した瞬間、空間が物質ごと切断され、上半身と下半身が完全に分断されてしまった。慣性の乗った上半身は間宮の正面に投げ出され、血飛沫をまき散らす。


「......」


 魔法使いと思われる2人の兵士は、顔がローブによって覆われているため、その表情を伺うことはできない。しかしそれでも、彼らがを目の当たりにしたということは、その動揺から感じ取ることができる。

 魔法使いの内の片方はその震える右腕で杖を掲げると、間宮に向けるようにして魔法陣を出現させる。青白く光る魔力が集結して成したのは、全長1メートル、直径30センチにも及ぶ巨大な氷の槍であった。


「縺上?∝眠繧峨∴?」

「『氷獄』」


 魔法使いが何かを発声して氷の槍が射出されるより速く、間宮は魔法陣を作り上げて数十本の氷の鎖を正面に顕現させる。氷の鎖は互いに絡み合い、一つの巨大な楔となって射出され、氷の槍をいとも容易く破壊してしまった。


「縺ェ縲∽ス輔′......」


 魔法使いは何かを言い切る前に氷の楔によって貫かれ、もう一人も串刺しにされてしまう。楔は廊下の壁に突き刺さり、2人の胴体に巨大な風穴を開けた。


「......よし」

「こんなもんかしらね......どうしたの?」

「いや、顔の分からない人型を殺すのは初めてだったからな。若干精神にきた」


 今までの人型は牛頭などの明らかな異形であったが、今回間宮が殺したのは顔が隠されていたことで、見掛けは完全に普通の人である。これが想像以上に間宮の心に響いていた。


「もう大丈夫だ、割り切る」

「えー......それ、あんま割り切んなくてもいいんじゃない?」

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