第35話 不意打ち
飛び込んできた魔力の塊に対して、魔法使いは反射的に手を向けて魔法を発動する。白炎球は魔力の塊に寸分違わず直撃し、衝撃音と爆風を引き起こした。氷の鎖は消し飛ばされ、宙には氷の破片が無数に散り、光を乱反射している。
魔力の塊を飛ばしてきた主を仕留めようと、新たな魔法を発動しようとしたが、それは急に現れた背後からの気配によって中断される。
「......!?」
「くそっ!」
間宮が短剣を突き出し、超高速で魔法使いの背中に突っ込んできた。弾丸のように鋭い一撃は、しかし魔力の壁によって阻まれる。なおも間宮は止まらず、短剣を壁に突き刺して削り始めた。およそ人間とは思えない膂力によってかけられた一点への圧力は、少しずつ凶刃を魔法使いへと近づけていた。
「邏?譎エ繧峨@縺?↑」
「どこいっ......」
「気をつけなさいよ!」
またも間宮には分からない言葉を発すると、魔法使いは瞬時に消えてしまった。魔力の壁が急に消え失せ、勢い余って間宮はつんのめってしまう。飛んできたナイアに支えられながら魔力の気配を辿ると、またも魔法使いは空中に浮き、杖を間宮らに向けていた。
(今のは、転移したのか?)
初めて見た時は混乱したが、改めて体感すると気づくことがある。間宮は空間への干渉ができる能力を持っている。その副産物と言うべきか、間宮は今回の転移を見ることで、空間の微小な揺らぎを感じ取っていた。
(魔法使いの現在地と目的地の空間に揺らぎが見えた。これに干渉すれば転移は防げるか?)
今間宮に必要なものは決定打。魔法の打ち合いは流石に魔法使いに分がある。しかし先ほどの近接攻撃を経て、近距離であれば勝機があるのではないかと考える。魔法使いが近接戦に弱いというのもイメージしやすい。問題はどうやって接近戦に持ち込むかということである。
(いや、今の手札でどうしようもないなら、手札を作ってやる)
ナイアの治療によって能力も少しだけであれば使えるまでには回復した。この余力を使って一手を作り上げる。転移に対応するためには、
(俺も転移ができるようになればいい)
相手が移動するのであれば、それに着いていくまでである。
間宮が考えていると、魔法使いが奇妙な動きを見せ始める。深くかぶっていたフードを外し、その素顔を晒したのだ。影の下に隠されていたのは、端的に表現すると真っ黒な山羊であった。捻じ曲がった二本の角と、全てを見透かすような赤と黒の瞳があまりに特徴的である。所謂”バフォメット”と呼ばれるような怪物に酷似していた。
「縺ゅ?縲......あー、これでよいだろう」
「え!?」
「話せるのか」
「この程度造作も無い。今までは貴様らが話す価値もない雑魚だと思っていたのだがな」
急に話し始めた魔法使い。よく見ると、話している日本語と口の動きが合っていなかった。実際に日本語を話している訳ではなく、何らかの能力によって元の言語を間宮らが理解できるようにしているようである。
「我はメトデフ、火炎を極めた者である。ただの雑魚だと思っていたが、何やら妙な力を使うようなのでな。話してやることにした」
その態度は正に傲慢。圧倒的強者の振舞いであり、実際にそれができるほどの実力を持っていることを間宮は理解していた。メトデフは値踏みをするように間宮の方を見つめる。
「魔法は粗末もいいところだ。魔力の無駄も多く、碌に最適化もできていない。まるで魔法陣をそのまま取り込んだような状態だな」
「魔法陣を......取り込む?」
「......ふむ、魔法に対する理解自体が全く無いな、貴様」
嘲笑されるが、全くもってその通りであるため何も言えない間宮。魔力を使いこなすというよりは振り回していると言った方が正しいだろう。魔法書に記述してある魔法をそのまま取り込んで利用しているに過ぎない。それと比較して、メトデフの魔法に対する理解は非常に高いものだと、今までの戦闘で理解していた。
「何故その状態で魔法が使えるのか疑問はあるが、問題は別だ。貴様の”空間に干渉する力”、とでも言えば良いのか。貴様程度の魔法使いが、そのような高度な技術を扱えるはずがない。どのようなカラクリで使えているのか、吐け」
「吐け、なんて言われても......俺自身、何で使えているのか分からないんだ」
「は?そんな訳があるか。空間魔法は......いや、魔法について無知であるならば無駄だろう」
メトデフは軽く頭を抱えつつ、改めて間宮を見下すと杖を構えた。今までで最も莫大な魔力の奔流がメトデフの周りに発生し、集まる魔力が魔法陣を形成していく。
「貴様を瀕死にした後、脳を割って直接調べてやろう」
「誰が進んで死ぬかよ」
メトデフの脅しに間宮は啖呵を吐く。力の差は見えているが、それでも黙って死ぬわけにはいかない。ナイアとの約束を破る気は毛頭無い。
しかし、メトデフの正確な実力というものを、まだ間宮は測り損ねていた。メトデフが作り上げた魔法陣は五つ、全てあの白炎球を創造するものだった。
「ちょっとやばいか......?」
「見るがいい、第一等級魔法『
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