第28話 奇襲

 空に上がった黒い点は徐々に大きくなり、やがてその黒光りした球体の姿が晒された。まるで砲弾のようなそれは轟音を鳴らしながら落下しており、このまま何もなければ間宮に直撃コースである。


「この距離から撃てるのかよ」


 全身に魔力を込め、体の重心を下げて走り出すポーズを取る間宮。


「ナイア、しっかり付いて来いよ!」

「もちろんよ!」


 地面が破裂すると同時に間宮は走り出す。以前よりも増えた魔力量によって強化された間宮の身体は、弾丸のように突き進む。

 しかし相手も黙ってはいない。大砲の発射音が再び響くと、およそ3倍になったのではないかと思われるほどの物量の砲弾が打ち出された。もはや絨毯爆撃とほぼ同じである。


「俺を狙う気ゼロだろこれ」


 城門と思われるところまで残り1キロメートルほど。辺りはほとんど草原のため隠れられない。間宮に求められているのは短期決戦だ。砲弾が大量に打ち出されたため、もし躱せたとしても、地面に落ちた衝撃によってやられてしまう危険があった。

 そのため、間宮は砲弾を迎え撃つ。


「『氷獄』!」


 間宮は爆走しながら魔法を使う。空中に浮かんだ数多の青白く光る魔法陣から、無数の氷の鎖が射出された。それらは空中で砲弾と衝突し、破裂させ、地上に到達させることは無かった。


「上手くいったな」

「アンタほんとに魔法使うの上手ね」


 間宮の魔法によって第二波は防ぎきることができた。城門までは残り500メートルと言ったところ。まだ何かあるだろうと、間宮は警戒し続けた。

 そしてその予想は的中する。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」

「ヤバい魔法が来るわよ!」


 強大な魔力の流れを感じ取り、間宮らは足を止めてしまう。二人が見上げると、城壁の上には巨大な魔法陣が作られていた。赤く輝くそれはまだ未完成のように見えるが、いずれ完成したらとんでもないことになることを、二人は簡単に予測できた。


「逃げられないよな、これ」

「もう目の前まで来ちゃったもの。ここから走っても同じよ」


 遂に魔法が出来上がる。地面に水平に現れている魔法陣の上には、太陽を思わせるような巨大な火球が出現していた。その熱はすさまじく、間宮らにも熱さが伝わってくる。空気が割れるような音と共に、太陽は地面を目掛けて落下を始めた。


「そこまでするかよ普通!?」


 城壁の内部にいる敵の行動原理が全く読めない間宮。あんな強力な魔法を使ってしまったら、自分らが作った壁もろとも壊してしまいそうなものである。

 城門まで走りきるにはまだ少しだけ距離がある。凌ぐしかなかった。


「......やるしかないか」

「やるしかないわね」


 決意を固めて間宮は歩き出す。身体強化を解除し、全神経を自分のもう一つの能力に捧げる。心の奥底から力を引き出すようにし、その現象を完成させる。

 創られた太陽は落下を続ける。その熱は徐々に強まり、間宮が肌が炭化してしまうのではと思うほどである。落下地点と思われる場所に間宮は立つと、両手を空に掲げた。


「『断界』!」


 空間が割れる。今までにない規模の空間平面が断ち切られ、その連続性を失わせる。500メートル四方に及ぶ空間の亀裂は太陽の落下を受け止めるが、それで終わりでは無かった。


「重すぎだろ......!」


 間宮は『断界』を隔てた状態で攻撃を受け、衝撃というものを感じていた。今までは何の感触もなく、受け止めている手応えさえ無かったというのに対し、今回は少し気を抜けば突破されてしまうのではないかと思わされていた。

 熱気によって汗が滝のように流れ出てくる。太陽から飛んだ火の粉が草原に降りかかり、辺り一面が焼け野原になり始めていた。


「がんばってぇ......!」


 ナイアの力によって間宮の体力は何とか保つことができている。しかし受け止めているだけでは埒が明かない。このとんでもない魔法を破壊するため、間宮は目を閉じた。


(集中......)


 空間へと意識を伸ばす。魔法の大きさを把握し、それを切断しようと試みた。しかし、


(硬え......切れないな)


 今までの魔物などとは比べ物にならないほどの強度に、いつもの『断絶』ではどうも上手くいかない。切断しようとしても、魔力の密度が高すぎるため、間宮の力が干渉できる余地が一切存在しなかった。


(もっと、深くまで)


 ただ魔法の大きさを把握するだけではない。魔法の内部構造まで踏み込み、魔力の流れを認識しようとする。魔法を構成している魔力の流れを断ち切ってしまえば破壊できるのではないか、と間宮は考えていた。

 深くまで探ろうとする間宮の意識も灼熱の中に埋もれていく。『断界』の維持はほぼ無意識で行い、脳が焼かれるような感覚を味わいながら、魔力の流れをがむしゃらに辿っていく。


(あ......あった......)


 吐き出す息はほぼ熱気と化し、両目の焦点はまるで合わない。間宮の瞼の裏には、魔力の流れを示すニューロンのような回路が映っていた。それがある一点で収束している。まるで魔法の核のように。

 それを破壊するために間宮は手を伸ばす。平面空間を断ち切ることはできない。さらに影響範囲を小さく、破壊能力はそのままに。掲げた手を握りつぶし、間宮は宣言した。


「『破界』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る