第27話 根城

 魔熊を倒したのち、さらに塔の方向へ進んでいく間宮とナイア。食料は魔物の肉を食べ、幾らかは干し肉として鞄の中に入れている。それを齧って魔力を補給しながら、引き続き魔物を倒して歩いていた。


「魔水の湖、見つからないな」


 かれこれ1時間は歩いているが、一向に見つかる気配が無かった。魔水が無いと魔力の補給が瞬時にできないため、強敵に出くわした時のために早めに備えておきたいものだが、ここまで見つからないと、間宮も少しずつ不安を抱き始めていた。


「最初の場所の運がよかったのか?」

「そうかも。そもそも、あんなに魔力が強い湖があったら魔物も引き寄せられるはずでしょうし、あの場所は色々変だったわね」


 間宮らが魔水を飲むと回復できるのと同様に、魔物にとっても貴重な回復源の一つである。あれほど大規模な湖があったにも関わらず、最初に魔物に鉢合わせることがなかったのは、間宮にとっては本当に幸運だった。


「というか、相変わらずここは広いな」


 かなりの時間を歩いているが、湖も見つからなければ、最終的な目的地である下層への塔までも、ほとんど近づいている実感が無かった。


「一つの階層がこれだろ?一層目からだとどんだけ時間かかるんだ」

「どの階層もだいたいここと同じくらいの広さよ。上層に繋がっている塔と下層に繋がっている塔の間は、だいたい一週間歩きっぱなしで何とか到着って感じかしら」

「まじで広すぎだろ......」


 神の御業を感じる間宮。神の試練という名は伊達ではない。


「神の試練なだけはあるな。規模が違い過ぎる」








 しばらくまた歩き続け、道中では魔物を狩り続けている間宮だが、そこで少し違和感を持ち始めていた。


「魔物、なんか強くなってきていないか?」


 今までであれば魔牛などの、間宮からしたらすでに雑魚である魔物がよく出現していた。しかし先ほどから魔熊やそれに類する巨大な魔物など、明らかに魔物として上位である者の出現が増えて来ていた。


「確かに、様子がおかしいわね」

「おかげで練習にはなるんだけどな、っ!」


 短剣を片手に、魔物をすれ違いざまに切り裂く間宮。練習を重ねてきたためか、短剣術という面においても、我流ながら技術の向上が見られていた。


「やっぱ調子良くなっていってるな、短剣に慣れてきたか」

「それもあるでしょうけど、やっぱ魔力量が増えたことも大きいんじゃないかしら」

「ん?」


 その辺りの知識はゼロの間宮。


「というか、アタシがちゃんと教えるべきよね。えーと、魔物を倒すと魔力が増えるのよ」

「どういうことだ、いや、感覚では何となく分かるんだよ」


 疑うも何も、その効果を実感しているのが間宮である。最初、湖に居たときよりも魔力量は確実に増えており、それによって魔法や身体強化を使っても余裕が出てきている。ゲームやファンタジーでも、魔物を倒せば強くなるのは定番であるため、感覚での理解はそう難しくない。


「でも現実、そんなことにはならないでしょっていう」

「うーん、そこまで踏み込んだことはアタシも知らないのよね」

「そうなのか、まあ神様のお陰ってことにするか」


 魔物を倒せば強くなれる。分かりやすくて良いと間宮は思った。


「ん?何だ?」


 そんなことをして歩いていると、周囲の木が無くなっていった。森を抜け、一面が草原となっている場所に二人は出た。

 草原にも小高い丘のようになっている地形があり、そこに二人は注目していた。


「あれ、どう考えても人工物だよな」


 丘そのものではない。丘には明らかに人の手が加えられたと見られる、石造りの城壁のようなものが存在していた。軽く数十メートルはありそうな壁は、砦のようなものを囲んでおり、全容を把握することは到底できない。


「あそこにも魔物がいるのか?」

「多分そうでしょうね。しかもこれだけ大きいと、あの中の魔物は相当強いわよ」


 もはや魔物が内部にいるのか、人の軍隊がいても何もおかしくないような建築物に、周囲の環境とのアンバランスさが感じられる。それが増々異質感を醸し出していた。


「よし、あれを攻略するか」

「わかったわ!」








 間宮が砦へ向かって歩いて数十分。その詳細が少しずつ掴めてきていた。壁は灰色四方の岩を積み上げて出来ており、その上には砲台のようなものも複数置かれている。遠くを見るための櫓のようなものもあり、外敵の襲撃に対してかなり備えられていた。砦なのだから当然と言えば当然だが。

 城門が目視できる範囲まで間宮は歩いてきた。すると突然、ラッパを鳴らしたかのような音が周辺に響き渡る。いきなりの騒音に、思わず二人は耳を塞いだ。


「うるさいな、何だ?」


 少し身構え、警戒しながら進もうとすると、何かが高速で空を切って進むような音が、間宮の上から聞こえてくる。何事かと二人が見上げると、複数の黒い点のようなものが空を飛んで二人に向かってきていた。


「あれ、多分やばいやつよね?」

「絶対やばいな」


 間宮は短剣を取り出し、未知の攻撃に備えた。

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