第25話 魔法書
「魔法書って何だ?」
魔物の集落の跡地から『魔法書』というものを見つけた二人。当然間宮はこれが何なのかを知らないため、ナイアに聞いてみる。
「魔法が中に記録されてる本のことね。これを使うと記録されてる魔法が使えるようになるのよ」
「へえ、使うってどうやって?」
「やってみた方が早いわよ、開いてみなさい!」
ナイアに言われるがままに魔法書を開く。開く瞬間に少し抵抗を感じたが、それでも問題なくページをめくることができた。中は全く読めない言語のようなものがびっしり書かれている。当然意味も分からないので、いまいち魔法についての実感が無い間宮。
「なんも読めないんだが」
「それでいいのよ、その本に自分の魔力を流してみて」
言われるがままにやってみる間宮。物体に自分の魔力を流す行為は、短剣を扱う時にすでに行っているため、それ自体はスムーズにできた。
すると間宮の脳内に魔法の情報が流れ込んでくる。魔法の術理や発動方法、魔法陣などについてのイメージが強制的に叩き込まれ、反動で頭痛が響いた。
「痛......ぇ!」
「流石にそうなるわよね」
「分かってんなら言ってくれよ」
ナイアに文句を言いながら、未だ頭に響く鈍痛に耐える間宮。流れてきた情報を少しずつ整理していくと、魔法をどう発動すればいいのか、それが自然と分かるようだった。数学の公式だけを覚え、あとは問題文の数字を当てはめるだけというような、そんな感覚。
「さて、どんな魔法だったのかしら?」
「落ち着け。よし、やるぞ」
戦闘で開けた更地に向けて手を構える。この行動に意味は無いが、魔法が発動するイメージを補強するのには便利であり、間宮は無意識に多用している。
回復した魔力を練り上げていく。習得した魔法を使おうと意識すると、自分の魔力が心臓に、それもさらに奥深くの場所に集まっていくのを感じた。一度集まった魔力は間宮の身体の中に発散していき、翳された手に再度収束していく。
「『氷獄』」
瞬間、周囲が凍る。敵を捕らえようとする氷の鎖が無数に顕現し、針山のように直立不動の形相を呈した。気温が瞬時に低下し、地面には霜が降り、木々は冷気で包まれた。まるで時が止まったかのように音が消えてしまった。
間宮とナイアはこの光景に圧倒されていた。
「まじ、か」
「すっごいわね、こんなことできるなんて」
現れた光景は当分消える気配は無い。もしかしてとんでもない魔法を手に入れたのでは、と好奇心半分、怖さ半分の間宮は一歩下がりなら光景に圧倒されている。一方で十割を興味が占めていそうなナイアは周りを飛びながら、氷の鎖を間近で観察している。
「アンタもちゃんと見ときなさいよ!自分の魔法なんだから」
「......それもそうか」
いざという時に自分の魔法が使えないなんて笑えない。氷の鎖に近づいてみると、触らなくとも強烈な冷気を感じた。触れば凍傷になっても可笑しくないほどだ。
「氷の獄で鎖が出るのか、敵を捕まえるための魔法か?」
鎖に意識を向けると、間宮は自分の魔力との繋がりを感じた。魔法を発動して終わり、ではなく、発動した後も何かできるようである。
試しに目の前にある一本の氷の鎖に意識を集中し、自分の魔力を介して動くイメージを伝えると、鎖はそのイメージ通りに動いた。曲げようとすれば曲がるし、うねらそうとしても自由に動かすことができた。
「え、これ動かせるの?」
氷の針山から帰ってきたナイアが間宮が動かす鎖を見て言う。少し意識を離しても鎖はしっかりと動かすことができていた。
「そうらしい。これかなり便利だな」
先程は間宮が加減を考えずに魔法を使ったために、大規模な状況になったが、氷の鎖の本数を少なくすれば、取り回しがかなり効きそうな魔法である。
「複数は行けるか?」
近くにあるもう一本の鎖を動かそうとすると、それも一本目と同じように動かすことができた。しかし同じ動きであれば簡単だが、全く違う動きをさせることは難しい。間宮が頑張ればできるが、違うことを同時に考える必要があり、頭がもう一つ欲しくなる。本数を増やせば増やすほど、その傾向は顕著に表れた。
「なるほどな、単純な動きだったら複数でも大丈夫だけど、全く違う複雑な動きは無理だ。頭が痛くなる」
「それでも十分いい魔法じゃない!」
「そうだな」
手札が増えることは素直に良いことである。魔法なので当然魔力を消費するが、ミノタウロスを撃破した間宮は、魔力に以前よりも余裕を感じていた。『氷獄』を何発か使っても、特段気にはならない程度には強くなっている。
「俺、魔力多すぎじゃないか?」
「どういうことよ」
「今まで魔力なんて無縁だったのに、こんな魔力に余裕あるのって違和感というか」
「そうね、でもアタシから見たらアンタは特にヘンなとこは無いわよ」
「なら良いんだけど」
気にしたところで仕方がない。それなりに才能があるのかもしれない、と間宮は思っておくことにした。
「それで、これからどうすんの?」
「魔水が無くなったから、湖を探しつつこの辺りを探索かな」
「あの湖みたいな場所は中々無いわよ」
「まじかぁ。それでも多少は探索したいかな、魔法も集めて強くなっておきたいし」
「それもそうね!」
二人は破壊しつくした集落の跡地を後にした。
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