第21話 乱戦

 集落を攻撃したことが魔物にバレた二人。数十体の牛頭のような魔物がこちらに走って来ていた。それは地面が揺れるほどの衝撃だが、間宮はかなり落ち着いていた。


「熊と比べたら大したことないな」


 そうして間宮は短剣を取り出し。魔力を通して身体強化のギアを上げていく。間宮は猪と熊の魔物との戦闘を通して、魔力量に余裕が生まれているのを感じていた。

 魔物が持っている武器は様々だ。槍や剣、斧など一般に想像できるものは殆ど見えた。弓などを持つ個体が見えないため、死角からの射撃を間宮は警戒しつつ、正面から魔物の群れを迎え撃つ。


「『魔弾』!」


 もうこの技のイメージは完璧である。一瞬で魔力の矢が作られ、魔物目掛けて一直線に飛んでいく。もう弓を引くような恰好も要らない。宣言だけでも強固なイメージとなって、魔物の眉間を撃ち抜いた。

 一体だけ倒したとして何かが変わるような数ではないのは明白。なので間宮は大量の魔力を動かし、やって見せる。


「『魔弾』複数発射!」


 間宮の周囲に数十本の矢が形成される。複数である分魔力の強度や精度は落ちるが、このような対複数であった場合は十分有効である。

 射出された矢は魔物の肌を裂き、穿ち、中には急所に当たり死亡する個体もいた。その屍が後続の進行を遅らせ、隙ができた所を間宮の矢が襲い掛かる。


「魔力きっついな......」


 魔水を適宜飲みながら、間宮は『魔弾』を放ち続ける。未だに遠距離からの攻撃が来ていないのが幸いだ。相手が近距離武器しか持っていないため、間宮は一方的な攻撃が出来ていた。

 魔物が次々と倒れていく。呻き声が森の開けたこの空間を満たしていき、遂に間宮は50体ほどの魔物を一方的に倒してしまった。自分から危機的状況を作り出すつもりだったが、間宮は自己評価があまり出来ていなかったようだ。慢心も卑下もしないよう、自分の評価を上げておく。


「そろそろ魔水が切れるな、やるか」


 一方的では目的は果たせない。『魔弾』の発射を止め、改めて短剣を構える。群れによる行進は止まらず、立ち上る砂煙の奥にはこちらに進む影が複数見えた。魔水は使うべき時は躊躇なく使うべきだが、できることなら取っておきたい。


「ふっ!」


 砂煙から魔物が見えたその瞬間、相手の横まで瞬時に走り抜け、首を一刀両断した。以前の間宮ではあり得ない超人的な動きだったが、経験と魔力量がそれを可能にしていた。


「まずは一体!」


 仲間がやられたことによって、まみやが近くにいると理解する魔物たち。間宮の周囲を複数人で取り囲み、その内の一体が間宮を攻撃しようと踏み込んだ瞬間、


「次!」


 間宮はその魔物の懐まで一直線に潜り込み、人間の心臓にあたる部分を短剣で貫いた。魔物が持つ剣は間宮を切り裂くことなく地面に落下し、魔物らにとって重苦しい音が響く。魔物らには間宮の動きが見えていなかったようだ。

 間宮は倒した一体を包囲網の穴と見て、そこから外へ食い破るように魔物を切り捨てていく。身体強化は単なる筋力の向上だけではなく、動体視力や思考速度などの神経系にも働くようで、襲い掛かってくる魔物の動きがやたらと緩慢として見えた。

 数十体、もう何体倒したのか数えることが億劫になったとき、ようやく魔物の包囲網を抜けることができた。


「頭痛え......」


 もちろん神経に無理矢理強化を加えれば、それ相応の負担が返ってくる。相手の規模が分からない状態のため、間宮は全力を出していたが、本気の身体強化はあと数分維持するのが限界だと感じていた。

 視界に赤色が少し滲んできているのを感じつつ、魔物の集団を改めて観察する。かなりの魔物を倒したはずだが、それでもあと5~60体はざっと数えられる。あの集落にどれだけの魔物がいたのか、少し信じられない規模だった。

 もう一度群れに飛び込む覚悟を決めていると、後ろから温かい気配がした。


「サンキュー、ナイア」

「お安い御用ってやつね!」


 間宮の後ろに回って治療するナイア。体へのダメージはかなり回復するが、精神的な負担までは回復できない。気をしっかりと持つことが、この戦いでは重要だ。


「よし、やるぞ」


 切れかけていた身体強化をもう一度発動し、体と頭をフルで活用する。一度は抜けた魔物の包囲網に、自分から飛び込んでいった。

 敵の得物は四方八方から現れる。間宮はそれらを視覚だけではなく、空気の流れが変化する感覚を掴むことで、背後からの攻撃も認識し始めた。肌の感覚を敏感にすることと強化された身体能力があってこその芸当である。常に体表を何かが這っているような感覚に襲われながらも、間宮は死角からの攻撃にも反撃をしていた。


「ぐっ......!」


 しかし流石に戦闘はまだまだ素人、当然避けきれない攻撃もある。全身の傷はナイアに治療される前よりも増え、衣服はズタズタ。それに度重なる包囲攻撃により、脳の処理がそろそろ限界を迎えようとしていた。


(そろそろ終わらせないとまずいか)


 残る魔力を限界まで使用する。今までよりもより前へ、前へと踏み込み、魔物の急所を突いていった。心臓を刺し、首を断ち切り、できるだけ一体の魔物にかける時間を少なくしていく。

 勿論魔物も反撃をする。槍による足への突きは間宮の機動力を落とし、腕への攻撃は短剣を取り落としそうにさせた。しかし首や心臓への攻撃のみは徹底して避け続け、遂に魔物は間宮を止めることができなかった。


「はぁ......はぁ......」


 魔物の呻きが止んだころ、間宮は死体の山を築いていた。

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