第20話 手始めに

 歩いた道を戻って数十分、魔物の集落まで戻ってきた間宮とナイア。間宮の魔力の大部分は回復し、いつでも戦闘は出来る状態だ。

 相変わらず木製の柵が建てられており、その大きな内部を確認することはできない。柵の外は魔牛が点々といるだけで、以前来た時と何ら状況は変わらなかった。


「よし、やるぞナイア」

「了解!」


 森の陰から日差しの下へ出る二人。魔牛に関しては既に間宮は簡単に倒せるため、特に手を出さずにスルーする。少し歩いて、集落の周囲にある柵に張り付くように隠れた。幸いやぐらのようなものは無かったため、ここまで気づかれることは無かった。

 少しずつ集落の入口に近づいていく。その門が見えるようになってくると、門の両隣には見張りの魔物が居た。背丈は成人男性位で体格は筋肉質。正に首から下は完全に人間なのだが、首から上が完全に牛になっていた。所謂牛頭という奴だろうか、と間宮は考える。


「この辺って牛ばっかだな」

「一つの階層が超広いのよ、そりゃ住んでる場所が同じような魔物で固まるわ」


 そう言えばその辺のことは聞いていなかったな、と間宮は思い当たるが、取り敢えずは目の前のことに集中する。二体の牛頭はまだこちらに気付いていない。間宮は体内の魔力を操り、猪の魔物の角から新調した短剣を構える。


「ふぅ......」


 集中する。見張りを殺せば集落の中にいる魔物に気付かれる可能性は高い。最悪、ここから集落の魔物を全て殺さないといけないかもしれない。それでも、間宮はやりきる気でいた。


「はっ!」


 息を短く止め、魔力による身体強化を施して瞬時に飛び出す。間宮は牛頭の一体に肉薄すると、魔力を込めた短剣をその首に横に一閃、首は完全に切断され、重い音を立てながら地面に落ちた。

 それに気づいたもう一体の牛頭が間宮を視界に入れて、持っていた槍を構えようとする。しかしすでに間宮は超強化された身体能力で駆け出し、牛頭の頭に短剣を突き刺す。その速さに追いつけず、牛頭は槍を振るう間もなく絶命した。


「よし、だいぶ身体強化も慣れてきたな」

「いい調子じゃない、やっぱずっと強化の練習をしてるからね」


 ここに来るまでにも魔力の扱いの練習は欠かさなかった。特に身体強化については魔物との戦闘で経験を積んだことにより、以前よりも無意識に魔力を操れるようになっている、と間宮は感じていた。


「槍は......いらないや。やたら武器が多くても迷うだけだ」


 幸い、まだ集落の魔物には気づかれていない。間宮たちは門に近づき、その内部を覗き見てみた。

 集落では木造のテントのようなものが大量に設置されており、その下に様々な設備が整えられていた。長机が置かれてその周りを魔物らが囲んでいたり、炊事場のような場所もあった。日本でいう縄文・弥生時代と同じような文明レベルだろうか。

 そして集落の奥まったところには、周りよりも一際大きな木造の家屋がある。おそらくあれが集落の長が居る場所だろう、と間宮は見当をつける。


「意外としっかり文明があるんだな」

「ここは10階層よ、魔物の頭もよくなってるわ」


 やはりと言うべきか、階層が深くなるほど魔物は強く、そして知能は高くなるらしい。普通に考えて、ただの一般人である間宮がここまで生きてこれるはずがないのだ。間宮がこれまで生きているのは、ナイアという偶然の出会いのお陰である。


「で?こっからどうすんのよ」

「策なんて立派なものじゃないが、一応考えはある」


門から離れ、集落の周りに戻っていく二人。再び柵に張り付くように隠れた。


「重要なのは、危機的な状況をもう一度体験することだ。魔物を倒すことじゃない。危機的状況に自分を追い込んで、あの力の正体を掴むことが目的だ」

「ふーん」

「だからこうする」


 間宮は魔力を急激に高め、柵の内側、つまり集落の中にいる魔物の目の前に魔力を集め始めた。この異変には流石に魔物も気づき始め、集落全体が騒がしくなってくる。


「ちょ、ちょっと!?」

「吹っ飛べ!」


 突如として現れた魔力球。間宮によって創られたそれは相応の魔力を秘めており、破裂することで周囲の魔物を建物諸共吹き飛ばした。花火のような腹に響く音が鳴り、木の柵も吹っ飛んで行った。煙が晴れると、間宮らの正面には負傷を負った魔物たちが、何とかして立ち上がろうとしているのが見える。魔力球は半径10メートルほどに影響を与えたようだ。


「ふぅ、遠くに魔力を集めるって難しいな」


 そう言いながら魔水を飲んで魔力を回復する間宮。猪の魔物との戦闘を経験としてやってみたものの、やはり消耗は大きいようだ。

 状況がひと段落すると、大勢の魔物が間宮を見ている。この惨状の主犯として、既にロックオンされていた。


「アンタ、一言くらいあってもいいでしょ!?」

「ナイア、しっかり付いて来いよ」

「聞いてないわね......分かったわよ!もう!」

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