第12話 決着、脅威
「来い」
また猪の魔物は突進してくる。この行動自体は見飽きたが、猪の雰囲気が変わったことを感じた間宮は最大限の警戒をする。身体強化を最大に、魔力に糸目を付けずに使っていく。
間宮が猪と衝突する寸前に回避、ここまでは今までと同じだった。しかし、間宮が回避した直後に猪が身体の向きを急激に変更し、回避後の間宮を狙って角の一撃を繰り出した。
「その手か!」
と言っても何か別の手を使うだろうと想定していた間宮。魔力を通した短剣を用いて角と鍔競り合う。岩のような衝撃を感じつつも、何とか拮抗状態に持っていくことができた。
「こいつ、重すぎるだろ!」
ナイアの言っていたことは合っていた。限界の身体強化をしているというのに、全身から骨や筋肉が軋む音が聞こえてくる。踏ん張る足元が少しずつ滑り、いつしか木と背中合わせになっていた。どれだけの距離を押されたのだろう。
打開策を考える。このまま鍔競り合いの状態を続ければ、いずれは間宮の魔力が尽きて終わりである。一方で今の間宮の身体能力ではこの猪をどかすことはできない。
自分の手札を見直す。魔弾はこの距離では使えない、ならばもう一つの手札を使うまでである。諸刃の剣だが、致し方ない。
「はああっ!」
後先考えない魔力の解放。間宮の身体能力がさらに向上し、少しだけ猪を押し返す。しかし猪も唸ると地面に蹄を食い込ませ、間宮を押しつぶし、串刺しにしてやろうとしてきた。
「アンタ、魔力使い過ぎよ!」
「大丈夫だ!」
心配になったナイアが耐えられずに声を掛けるが、間宮はそれでも魔力の解放を止めない。状況は変わらず、刻一刻と魔力は無くなっていく。
そろそろ魔力が僅かになってきたその時、遂に状況が一変する。
「『魔力球』、吹っ飛べ!」
その時、耳をつんざく破壊的な音が場を支配する。猪の腹の下で少しずつ形成されていた魔力球は、間宮の解放された魔力によって、猪の体を損傷させるに十分な威力を持っていた。猪は最初から間宮しか眼中になく、さらに間宮が魔力で強化されたことによって、徹底的に魔力球から注意を逸らされていた。
砂煙が派手に舞い、破裂の衝撃が辺りを破壊した。木々は折れ、地面はクレーターのように抉れている。気づけば周辺は大分見晴らしが良くなっていた。
「......」
猪は立ち上がる。腹部の骨と肉は砕け、血が滝のように流れているが、強靭な足と間宮への殺意で立ち上がった。姿勢を屈め、いつでも飛び出せるよう、構える。砂煙が晴れ、
しかし、砂煙が晴れた時、猪の目に入ってきたのは、弓を構える間宮の姿だった。
「お前、強かったよ」
持てる全ての魔力を使い、『魔弾』を発動する。間宮の体も限界だった。肋骨は恐らく折れているだろう。口からは血を吐き、内臓の損傷も酷いものだ。四肢が激しく軋み、痛みが身体の限界を訴えている。それでもなんとか『魔弾』を構えられているのは、その後ろで全力の治療を施しているナイアのおかげである。二人は、互いの全力で最善を尽くしていた。
「ぶっ飛ばしちゃえ、ソラ!」
「終わりだあああっ!」
矢が放たれる。それは寸分の狂いもなく猪の眉間に吸い込まれ、頭蓋を貫通した。その衝撃は貫通しきっても止まらず、数多の木々をなぎ倒していった。
『魔弾』を打ち込んだ後の静寂の中、猪の魔物は遂に地に倒れ伏す。巨体が倒れた時の地面の揺れるさまが、敵の強大さを物語っていた。
「かっ......た、かぁ」
「ちょっと、アンタ大丈夫!?」
構えを解いた直後、間宮は仰向けになって地に倒れた。幸いナイアの治療によって意識を繋ぎ留めてはいるが、普通であれば気絶ものの負傷である。間宮は魔力の万能さに改めて感謝していた。
「痛え......まじで痛え」
「ああもう喋んなくていいから!楽にしなさいよね!」
ナイアが額に汗を浮かべながら治療する。左腕を直した時とは比較にならないほどの輝きが全身を包み込み、まるで湯舟に入れられているような感覚になる。やがて痛みは引いていき、落ち着いて呼吸もできるようになっていった。
「ふぅ......ありがとう、ナイア」
「当然でしょ!言っとくけど、痛みが引いてるだけで体はまだボロボロなんだからね?絶対無理はしないこと!」
「了解っす」
いつもの雰囲気は鳴りを潜め、有無を言わさぬ口調で注意するナイア。大けがをしているのは事実なので、間宮は粛々と受け入れざるを得ない。おとなしく安静に寝ているが、言いたいことはある。
「ナイア......俺、勝ったぞ。この奈落で、やっていけるぞ」
「っ!......う、うん!絶対最下層までいってやろうじゃない!」
間宮とナイアは勝利のハイタッチを交わした。間宮は少し痛かった。
地を鳴らす足音が、やってくる。
あの猪の魔物とは桁違いの圧力。空気が割れる。木々が叫ぶ。
「おいおい、勘弁してくれ」
「っ、治療急ぐわ!」
現れたのは、あのときの――
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