第7話 思わぬ才

 その後、間宮とナイアは二人で森の中を歩いていた。その途中、ナイアからは『魔力球』以外にも魔力の使い方を教わっていた。


「いい?魔力は操作者の意志やイメージを実現する力なの。だから、アンタ自身が”何をしたいのか”ということをしっかり分かんないとダメな訳」

「ほんとに便利なもんだな、魔力ってのは」

「ええそうよ。逆に言えば、精密な意志やイメージを持てば、どんなことでも実現できるってことだもの」


 ナイアからの説明を受け、間宮は魔力の扱いについて何となく理解してきていた。イメージを実現するという特性は都合がいい。並みに現代っ子である間宮はゲームなどを通して、魔法のイメージを固めることがそれほど苦ではなかった。


「例えば......こんな感じか?」


 間宮は全身に魔力を巡らせ、自身の体がより能力を発揮するイメージをした。体が若干の熱を帯びたように感じる。試しに小さなジャンプをしようとして跳んでみると、5メートルほどの大ジャンプになってしまった。


「あ、やべっ」


 勢い余って木の張り出た大きな枝に頭をぶつけた。それなりの衝突音と共に間宮は情けない様子で地面に激突する。幸い体を魔力で強化していた影響で痛くはないものの、反省するには十分である。


「アンタねえ......自分にどれくらいの魔力があるのかを知ってないとそうなるのよ。いい?アンタは結構魔力をもう持っちゃってるの。その魔力を全部体の強化に使えばアンタ自身でも制御が難しいんだから、少しずつ魔力を流す量を増やしながら慣れていくのが普通よ」

「なるほど」


 そう言われ、間宮は巡らせる魔力をかなり減らして同じようにジャンプをしてみる。すると今度は1メートル程度に抑えられ、自分でも制御できている感覚があった。それでも軽く跳んだだけだというのだから、魔力とは恐ろしいものである。


「常にこの状態を保てるように練習しておいたほうがいいかな」

「そうね、いざという時に使えなかったら困るもの。それ以外にも、さっき最初に教えた魔力球もパッとできるようになりなさいよね」

「魔力球なあ......」


 見た目が少し弱そう、というのが間宮の率直な感想である。発動については魔法と言う概念が分からない人であればいざ知らず、フィクションで馴染みのある間宮には意外と簡単であった。発動工程も掌に魔力を集めて球状を意識するだけ。


「もう少し工夫できそうなもんだけどな」


 それに魔力球は着弾時に大爆発を起こす。今後どんな魔物がいるのか分からない中で、無暗に注意を引くようなことは避けたいと考えていた。


「魔力がイメージを反映させるものならば......」


 そうして間宮はまた魔力を練り上げる。魔力量はしっかり加減し、その形状を球から変化させる。素早く飛び、殺傷力が十分にあるものと言えば、間宮が思いついたのは銃弾であった。しかし先端を尖らせて回転を加えていこうとしたが、回転しきる前に魔力が霧散してしまう。


「あれ、上手くいかない」

「魔力を初めて使ったばかりよ?そんなに高度な事、いきなり出来たら苦労しないわよ」


 ナイア曰く、魔力を運動させ続けるということは高度な魔力操作技術が必要らしい。それでも間宮は回転させることは出来なくとも、形状の変形は出来ていた。だとすれば他にもやりようはある。

 今度は魔力の形状を矢のようにしていく。これであれば常に運動させる必要がないため、現在の間宮の拙い魔力制御でも可能であろう。弓を引き絞るような動作に連動し、間宮の魔力は自身のイメージを反映させていく。


「え?ちょっとアンタ、最初っからこんなことできるの?」


 間宮はまるで矢を射る直前のようなポーズをとり、その手元にはしっかりと魔力で構成された矢が出来上がっていた。矢は少し青がかった色になっており、どこに矢があるのかがはっきりと判別できる。イメージのはずだが、間宮は実際に弓を引き絞っているかのような感覚がしていた。


「......ふっ!」


 放たれた弓は空気を唸らせ高速で飛んでいく。その勢いのままに矢が木に衝突すると、拳一つ分の穴を木の幹に開けながら貫通し、そのままどこかへ飛んで行ってしまった。残ったのは自然の静寂のみ。


「え?は?え?」


 想定外である。間宮はまさか木を貫通し、勢い止まらずに飛んで行ってしまうとは全く考えていなかった。せいぜい木に刺さっておしまい程度であったものだと思っていたが、未だに自身の力を測り損ねていた。


「へー、アンタやっぱ魔力を使う才能あるわよ。ちょっと前に初めて魔力を知ったってのに、これだけ工夫できれば文句ないわね。さ!さっさと行くわよ!」

「ちょっとお前なあ」


 さっさと先を飛ぶナイアに呆れつつも、間宮は少し安心していた。この良く分からない環境でも、なんとか生き残るための術をもつことができる。その確信が、今の間宮に必要だった。

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