第6話 初めての魔力

 間宮はナイアから魔物を倒す方法について教えてもらっていた。


「先生、魔物を倒すにはどうすればいいんですか?」

「ふふん、魔物は魔力を使わないと倒せないのよ!」


 ナイアは得意げである。しかし魔力を使うと言われてもピンと来ない。元々は無いものなので当然である。ゲームやファンタジーの世界では魔力で魔法を使うことで敵を倒す、というのはよくある設定だが、実際にはどうなのだろうか。


「ふむ、それで?」

「そうね、まずは体内の魔力を自覚してみないと。自分の体内に集中して。何かが自分の思い通りに動きそうな気配がない?」


 ナイアに言われた通りに間宮は体内に意識を向ける。そんなことで何かが分かるわけがないと間宮は高をくくっていたが、実際にやってみると普段の生活では感じられなかった、気体のようで液体のような不思議な物体がそこにはあると確信できた。体のどこにあるのかが不明瞭で、しかしそこにある。中々に気持ち悪いものだった。


「感じられた?そしたらそれを体の中に巡らせてみて」

「おお......慣れないと気持ち悪いな」


 その物体に対して”動け!”と念じてみると、確かに体内で動いているのを感じた。しかしそれは緩やかなもので、スライムのような粘度の高い物体が這い回る感覚に近い。体中を何かに這い回られるというのは、中々に酷い感覚である。間宮は若干顔を青くしつつも、これも生き延びるためだと言い聞かせながら魔力操作に慣れていった。


「今あなたが動かしているのが魔力ってやつよ。その感覚を忘れちゃダメだからね」

「結構ヤバいが頑張る。それで次は?」

「そしたら手の掌を突き出して、掌に魔力を集めるイメージをするの」


 イメージしていくと、掌の先の空間が徐々に歪んでいくような変化が起きた。歪んでいる部分はまるでシャボン玉のように、少し気味の悪い虹色のような色を帯びながら、その規模を少しずつ拡大していく。最終的には直径30cmくらいの球体が出来上がった。


「できたわね、それじゃあ掌を木に向けて」

「こ、こうかな」


 手を動かすと、球体はしっかりその動きに追従している。ゆらゆらと不安定ながらではあるが、間宮はしっかりと木を捉えた。


「最後はそれを打ち出すの」

「打ち出す、か。じゃあ勢いをつけるイメージで」


 なんとなくだが間宮は勝手が分かってきた。体内の内部にある魔力というものを、イメージ通りに動かしていけばいい。間宮は球体の真後ろから空気がジェット噴射を起こすようなイメージをして飛ばそうとした。すると球体はものすごい勢いで間宮の手を飛び出し、木の幹に直撃した。塵が盛大に舞い、二人の視界を曇らせる。


「うおっ!」

「ちょっと!?何この強さ!」


 塵が晴れたそこには、幹が抉り取られ今にも倒れそうな木があった。

 

「これって......どうなんだ?」

「どうって、めちゃくちゃ強いじゃない!」


 ナイアは驚愕していた。初めて魔力を持ったとは思えないほどの威力。ナイアはなおさら、間宮に最下層まで行ってほしいと思った。


「これなら下層に向かって行っても大丈夫ね」

「ほんとかよ」

「ほんとよ!アンタ才能あるっぽいし、アタシもいるんだから最強ね!」


 先程にも増して上機嫌になるナイア。間宮からすれば不安しかないが、取り敢えずは進むしかない。何とか戦える力があることが分かったのは大きかった。


「で、どこに向かって行けばいいんだ?」

「二つの塔みたいなやつは見たかしら」

「ああ」


 ここに来るまでに見かけたものだ。天を貫くほどの高さであり、妙に目を惹いたあれである。


「あれの片方が上層への階段、もう片方が下層への階段になってるのよ。」


 塔の中に階段が存在し、そこを上り下りすることで階層を行き来できるとナイアは話す。しかしその階段を通るためには塔の中にいる魔物、所謂『階層主』を倒さなければならないらしい。この階層主を倒すためのちからを付けながら塔へ向かうことが、当分の間宮とナイアの目標となる。


「塔に行く途中にも魔物はわんさかいるわ。そいつらで練習しながら行きましょ」

「練習ねえ......」


 正直なところ、ナイアが「下層に行ってほしい」と言っているから間宮も行こうとしているにすぎない。積極的な理由が無い中で、下手をしたら死ぬ可能性がある魔物との戦闘をする気はあまり起きない。というより、間宮は怪我をするのが普通に嫌なのである。


「戦わなきゃだめかあ」

「アンタねえ......どうせ上に行くにも下に行くにも戦わなきゃなんだから。それに死ななきゃアタシが治してあげるわよ」

「いやすげえな」


 間宮は少々ナイアの能力をなめていたらしい。間宮がここに落ちてきたときに治療をしてくれたのはナイアであるため、相手を癒す力を持っていることは知っている。しかし生きていればなんとでもなるレベルであるとは知らなかった。


「そうよ!だからアンタは安心して玉砕しなさい!」

「それとこれは違うだろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る