第5話 説明

「それで、アンタはなにものなの?」

「ああ、俺は間宮空って言うんだ」


 間宮は今までの経緯を話した。自分は地球の日本に住んでいて、ある日突然地面が割れてそれに吸い込まれてしまったこと。そして気が付いたらこの湖に浮いていたところまでを簡潔に話した。


「へぇー、そんなことがあったんだね」

「そう、今の状況が分からないことだらけで......」

「じゃあ、ここについて教えてあげる!」


 ナイアは自信満々に宣言した。因みにナイアは喋っている間は間宮の周りを飛び回っている。まるで子供である。


「ここは『試練の奈落』って言って、神様が人類に強くなってほしいと願って作ったものなの」

「あー、そういえば......」


 間宮はあの地震の直前、脳内に響いた謎の声を思い出す。


【これより、神の試練の始まりです】


 そんなことを言っていたなと思い当たる。しかしそもそも神様なんているのだろうか。間宮も一般的な日本人と同じく、クリスマスと正月をしっかり同時に楽しむ人間であり、宗教には無頓着である。


「で、神様はどうしてそんなことをしたんだ?」

「知らないわ!」


 元気にナイアは言い放つ。ガクッと心の中で躓きつつ、なるほどこういう性格の精霊なのか、と間宮はナイアのことを少しずつ掴みかけていた。


「じゃあ、この液体とかこの水晶とかについては?」


間宮は自分のバッグから、未だに光っている水晶を取り出して聞いてみる。


「その液体は『魔水』で、その水晶は『魔晶』というやつね。要するに魔力を持った水と水晶ってことよ」

「魔力?」


 また日常では馴染みが無い単語が出てきた。魔力なんて間宮にとってはフィクションの設定である。間宮はゲームをそれなりにする方であるため単語自体は分かるものの、それが間宮が想像しているものであるかどうかは分からない。


「魔力っていうのは凄くてね、この世のものは全部魔力でできていたり、魔法を使えたり!わたしのこの体もぜんぶ魔力でつくられてるのよ」

「ちょっと待て、待て」


 ナイアからの情報量の多さに間宮はやられそうになる。ナイアの知識ではこの世の物質は全て魔力が元らしいが、当然間宮は原子といった物質の存在を知っている。この『試練の奈落』内部の物理法則と、元々いた地球の物理法則は違うのだろうか、なんてことを考える。


「じゃああの木とか、この地面とかも元は魔力ってことか?」

「そう!でもおかしいわね、キミの一部は魔力が元じゃないみたい」

「そりゃな、俺の世界には魔力なんてものは無いからな」


 周囲の物体を指して間宮は訊いてみるが、ナイアは当然のことのように答えた。また、間宮の世界に魔力が無いのも当然である。


「でも一部よ?アンタの体だってもう殆ど魔力でできてるわ」

「は?」

「まあ当然よね。普通に考えて、こんな場所に魔力なしでなんて居られないもの」

「ああもういいや、それで?魔力があると何がいいんだ?」


 考えることを放棄した間宮はナイアに促す。


「やっぱ一番は魔法が使えるってことよね。魔法ってホントに便利でね、いろんなことができるのよ」


 どうやら魔法と言うのは魔力を使ったトンデモ技術のことで、魔法陣という図形に魔力を流すと、その魔法陣に対応した魔法が発動するらしい。その魔法によって火をつけたり、竜巻を起こしたり、はたまた全く別の物質を作り出すなんてこともできるとのこと。地球の創作でもよくあるあの魔法と随分と似ている。

 他にも、魔力が体内にあると傷の治癒が劇的に早まったり、体が頑丈になったりするらしい。なんだか複雑な理屈がありそうだが、当のナイアは


「とにかく、魔力があれば体が丈夫になるってことよ!」


 としか言っていないので、まあ雑な理解でいいんだろうと間宮は思う。これ以上考えるのは間宮の脳のキャパが限界を迎えそうである。


「とりあえず、今後はどうしようかな」


 現状については少し分かった間宮だが、今後どうすればよいのかなど見当もつかなかった。未だに空は一向に変わらず快晴であり、地球とは違う世界であると感じさせる。


「とりあえず元の地球に戻りたいんだけど」

「そうね......だったらこの『試練の奈落』の上へいけば、その内地上に出れるわ。でも」

「でも?」

「アタシとしては、下層にいって欲しいんだけど......だめ?」

「え?」


 何を言っているんだ、と飛び回っているナイアに視線を向ける間宮。間宮としてはさっさとこんなところから出ていきたかった。


「いやいや、流石に早く帰りたいし」

「それに、上るよりも下りていったほうが速いかもしれないし」

「え?ここって奈落のどのくらいの深さなんだ?」


 そういえば聞いていなかった、と間宮は思い至る。


「ここは全12層あるうちの10層目よ、かなり深いわ」

「あー、確かに登るのも大変そうだな」


 奈落の生成時、それも発生直後に巻き込まれたのである。かなり深い階層に来ているのも少しは納得がいった。しかしそれでも不安は残る。


「いや、それでも最下層まで行けるのかよ」


 間宮はここに来るまで、水晶の生えた熊のような化物を見ている。あの化物がそこらにいるようでは身動きが取れない。ましてここは『試練の奈落』。下層に行くにつれて化物が強くなっていくのは想像がついた。


「そのためにアタシがいるのよ、アタシがアンタを最下層まで連れて行ってあげる!」

「できんのか?」

「あったりまえよ!魔物なんて、アタシが方法を教えてあげればボッコボコなんだから!」


 あの化物は魔物というらしい。確かにそれらしい名前である。そしてナイアは間宮に魔物の倒し方を教えてくれるという。不安はあるが、ここまでしてくれるのであれば試してみようと間宮は思った。


「分かった、最下層に向かってみよう」

「よしっ、それじゃあ授業の時間ね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る