第4話 邂逅

「これは......なんだ?」


 光に誘われてくると、そこには体長15cmほどの小人が横たわっていた。服装は水色のワンピース、髪の毛は青色のショートカット。そして異常な存在と言える一番の特徴は、背中に一対の透き通った羽が生えていることである。


「妖精ってやつか?」


 先程まで異常な存在には過剰に警戒していた間宮だったが、今回の相手に対しては無警戒で観察していた。同じ人型というのもあるだろうが、この存在からはあの異形熊から感じた禍々しさを感じない。かといって急に触るという勇気もなく、ただ一歩下がって観察することしかできなかった。

 中々目を覚まさない。暇を持て余した間宮は近くに腰を下ろすことにした。落ち着いた時間が流れ出し、間宮はやっと現状について考えるタイミングを得た。


(あの電車の状況を見ると、俺はあの裂け目からここに落ちてきたというのはほぼ確実か。裂け目に落ちたものとしてはもっと色々ありそうなものだが。コンクリートとか見かけなかったしな)


 瞬間移動や転移など、あまり現実的ではない原因が脳内に浮かんでは消える。とは言っても現状が既に現実的ではないため、あまりこのことについて考えることは止めた。


(そしてあの見るからにやばそうな熊。明らかに地球の生物じゃなかった)


 体から水晶が生えていた熊である。あの禍々しさはその水晶が何か関係があるのではないかと間宮は考えた。

 そう言えば、と思い立ちバッグの中から水晶の欠片を取り出してみる。それは拾った時と変わらずほのかに七色の光を放ち、間宮の顔を少しだけ照らした。


(あの熊に生えていた水晶のほうが光が濃かったか?)


 そもそも間宮はなんで石が光っているのかすら皆目見当がつかない。元の世界では光る石なんてそうあるものではなかった。光る原因が分からない以上、その光の濃さについても考えたところであまり意味はなかった。

 そっと水晶をバッグの中に戻し、次は目の前の湖に目を向ける。前に飲んだ時には気分が悪いのを直してくれた代物だ。


(体調が治る水ってなんだよ)


 頭の中でつっこむ。一人であることが多いので、自分につっこむことは慣れていた。考えたら自分で悲しくなってくる。自分だけの思考では限界を迎え、ついには仰向けになってしまった。アドレナリンが切れたのか、どっと疲れが現れている気がする。空は未だに快晴で、間宮の現状を煽っているのかと思える程だ。


(空?......そうだ!日が暮れる前に火を、あれ?)


 夜になる前に火を起こさないとまずいということに今更気づいた間宮だが、同時にまだ空が目覚めた時と全く同じ明るさであることにも気づく。


(なんでまだ明るいんだ?流石にそれなりの時間は経っているぞ?)


 いろいろなことが起きすぎて時間感覚が狂っていることも考えたが、それにしたっておかしいと思いなおす。新宿駅に居たのは13時ごろ。そこら辺を移動していた時間を考えると、今はだいたい日が落ちているころである。


(そういえばスマホあるじゃん、俺何してんだ)


 少しボロボロになったバッグからスマホを取り出して電源をつける。そこに表示されていたのは翌日の12:00という表示だった。


(え?まじ?俺ってどのくらい気絶していたんだ?)


 これが合っていれば、間宮は丸1日気絶していたことになる。その間ずっとあの湖に浮いていたと考えると、五体満足で生きていることが奇跡にも思えた。もっとも、落下してきたときの衝撃でスマホが故障した、ということもあり得るが。


(もう訳が分からん、時間についても考えるのは止めよう)


 この場所は何か常識を超越したどこかであると間宮は開き直り、ぼちぼち火を起こすための木材を集めようと立ち上がった。その時である。


「ん......ねむい......」

「!?」


 唐突に横たわっていた妖精のような生物がしゃべりだした。それは羽根を羽ばたかせ、宙に浮くと間宮の目線まで上がってくる。間宮は驚きで動けなかった。


「あ!アンタ、起きたんだ!」


 毛伸びをしている妖精に唐突によくわからないことを言われる間宮。当然知り合いではない。まるで間宮のことを知っているような口ぶりに増々混乱する。


「起きた、とはどういうことだ?」

「まあおぼえてないわよね~、まあいいわ。わたしはナイア、水の精霊よ!」

「せ、精霊?」

「そう、超神聖な存在なのよ!」


 と無い胸を張って主張するナイア。見た目がそもそも小さいためか、それとも言動からか、その姿はまるでガキである。


「はあ......」

「アンタが突然この湖のど真ん中に落ちてきて、しかもその時体がボロボロじゃない。アタシが治してあげたのよ!」


 気絶して湖の中央に浮いている間宮の治療をしてくれたというナイア。どうやって治したのかという部分については見当もつかないが、取り敢えずは感謝するべきだと思う間宮。


「あ、ありがとうな」

「そうそう、とても感謝するべき!」


 おっほん、とナイアは一呼吸置くと、


「それで、アンタはなにものなの?」

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