第4話 どうだっていいから



「山河さんの演奏に今日、感動して…」

結局出てきたのは、そんなありきたりな言葉だった。


「…もう一回、弾いて、くれはしないのできょうか…、こういう文化祭とかで」


山河さんは酷く悲しそうな顔をした。

目に見える、ほどに。

「それは嫌だなぁ…」


「なんていうか、友人たちに向けた花向けって称して、でも…自己満足だった気がする。そんな気がするよ。」


本当にゆっくりと。


ぽつぽつ、言葉を素直に愚直に並べてくれた。


「色んなものに軽蔑するために、今日弾いてきたんだ。だから、嫌かも。」


最後には笑顔を向けてくれたが、それは、空っぽに見えた。

取り繕ってるみたいな、初めて、身近な空虚を感じる。


「……」


「…」


「じゃあ、諦めます。」


「…そ、そっか」

ほっとしたような、でも、哀しそうな顔を彼は崩さなかった。


「山河さんに頼むのを諦めただけですよ」


「え」


「私は、あなたがステージに立つところをもう一度見たいんです。」


自分の気持ちに、微かに気づきを感じたあの瞬間に、もう一度巡り合いたい。

それだけに、いろんなものを置いてける気がした。


「…失礼します、ありがとうございました」


彼の返事も聞かず、私は歩く。

ドアノブを曲げて、私はまた走った。

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