第2話 才能
彼がギターから手を離す。
音が消えた途端、苦しくなった。
息が戻されたような感覚がした。
そんな状況の中、震える手で歩の真似をして拍手を贈る。
「…それだけです」と彼は言い残し、静かにマイクを司会に渡して姿を消した。
彼が居なくなったステージは寂しそうに見えて、私は堪らなくなってしまった。
「歩。私ちょっと…トイレ行ってくるね」
なんだか、すぐ行動しなきゃいけない充足感に襲われて私は歩の返事も聞かずに振り向かずに走った。
伝えなきゃいけないと思った。
感動しました。
素敵でした。
最高です、
そんな言葉では語ることなんてできない。
…「一瞬、自分を忘れてしまった」喪失感に、心地よさを感じました
、最低だ。
皆んなは私を幸せにしてくれる道具じゃないのに。
自分の機嫌はじぶんでとらなく
「…」
気づいたら、
彼のいる部室のドアを開けていた。
「…どちら様?」
「あっあっ、あっ、…あー」
私の意味のわからない行動を察したのか、
「入ってもいいよ、パイプ椅子あるからテキトーに座って」と部室に入れてくれた。
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