冴えない男に恋をして
黑圓
第1話 開花
それは、単なる文化祭ライブ。
何事もない、ただの2年目の文化祭。
それで終わるはずだった、
アイツが、片手をギターに置く、までは。
「次で最後のバンドみたいだよ」
前のバンドで、大声で叫び倒していた歩が、息を荒くしてつぶやく。
「そっか、楽しみ」
心の底からの笑顔ではない。けれど、歩が隣で楽しそうに応援してる姿を見るとなんだか、わらけてくる。
すぐ近くにいる司会は、最後のバンドのOKサインを貰い、マイクを手に取っていた。
『ーーみな目にするのは今日が初めてに違いない!圧倒的な歌唱力の戸田、ドラムの赤沢、キーボードの佐賀、そしてギターの天才、山河!!真打バンド!楽しめ!最後だ!最後のバンド!
ストーリーズ!!!』
一気に声援がほとばしる。
歩のペンライトは七色で色飛びがすごいし、後ろからの男子の悪ノリが五月蝿い。
そんな大渦が巻き上がる中で、たった一人の男の子がステージに昇っていく。
イメージとは違った。
クラスの男子とは違う、黒髪に、
クラスの女子とは違う、静けさに、
私と同じような雰囲気を感じたのは、
間違いであろうか。
「秋冬ォー!!お前のバンド、壊滅なんだろォー!!!」
と急に耳をも塞ぎたくなる声が後部座席から聞こえる、もちろん彼にも聴こえたはずだ。
耳がキーンとしてたまらない、本当にやめてくれ。
そんなことも気にしないかのように彼は静かにマイクスタンドを立て始め、
「僕のバンドのメンバーは4人いました。
戸田、赤沢、須賀です。でも彼らは、クラスメイトからのいじめで、謹慎、他の高校へ進学への検討、保健室通いなどさまざまな理由でバンドから抜けていきました。」
と、淡々と話し始める。
「けれど、僕は今日まで練習してきました。ありきたりな言葉かもしれませんが、彼らにとっての花向けとして、彼らと自作した曲を唄います。聞いてください、
クリア。」
そして、
彼は、何をしたのだろう。
ただ、ギターに手をかけただけだ。
次の瞬間、
轟音がステージを駆け巡った。
心臓が止まったかと思うと、震えが止まらない。初めて聴くギターの音色は、心地が良くて、あの声援を力に変えて、伸び伸びと伸び行く声のハイトーン。感動し、堪らなくなった。
目が離せなくて、彼だけが私の目に映っていた。
「かっこいい…」
ただの文化祭が、運命を変えた。
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