第5話
ようやく客間に通された
「一体どうしたんだ。まるで女狐に化かされているようではないか」
「
声を荒げる荀粲に、あわてて「奥方のことを言いたいんじゃない。君の様子がおかしいと言ってるんだ」とつけ足す。
「お前に心配されるようなことは、何もない。俺は正気だ」
傅嘏からしたら、とても正気には見えない。
「その、うまくいっているのか。奥方は、もうこの家に慣れたのか」
言葉を濁しながらたずねると、荀粲はいぶかしげな視線を寄こす。
「つまらん噂を聞いてきたのか」
「知っているのか」
「兄上が毎日、小言を言っている」
世間体を気にする
「世間の俗物が、かすんだ目で何を見、濁った口で何を言おうが、
「たしかに奥方は美しい方だと思うが、妻には容色以外にもっと、大事なものがあるんじゃないのか」
「兄にも、お前にもわからんだろうよ。
儒とは
「道教の伝承によると、世界の創造神は女神だ。伝承の真偽はともかくとしても、人は皆女から産まれるのだから、世界は女から産まれると言ってもいい。まず儒には、この壮大な視点が欠けている。
女は健康で、休みなく働き、豚のように子を産み続ければいい。容色の良し悪しなどどうでもいいと、そう言った
荀粲は声に熱をこめて、このように語った。
傅嘏は圧倒されるように彼の話を聞いていたが、次第に笑いがこみ上げ、それを咳でごまかしながら、黙って荀粲の話すに任せた。
「何か言い返さないのか」
拍子抜けした荀粲が、傅嘏の顔をうかがう。
「君が幸せだということは、よくわかったよ。今日は君に勝ちを譲ろう」
こう傅嘏がからかうと、荀粲は表情を崩して、乱れた頭をかいた。
「私も人の噂は、つまらんものだと思っている。君は君の女神を、大事にするんだな」
「わかっているさ」
そうして傅嘏は、のろけにあてられたと言って、長居もせずに帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます