第2話

 宵に始まるはずの宴が昼に早まり、家人はいっそうあわただしく駆けまわって、客人たちも戸惑いながら杯を交わしている。しかし新郎の荀粲じゅんさんは主役の席で、終始笑顔であった。

奉倩ほうせん、おめでとう」

 傅嘏ふかは頃合いを見て、めでたく妻を迎えた友人に声をかけた。

「おう、蘭石らんせきか」

 荀粲の不遜な口調はいつも通りだが、嬉しくてたまらないといった様子である。佳人をもらったことがそんなに嬉しいのかと、彼の隣りに座る新婦の姿をちらりとうかがった。

 目元を隠すように絹をたらした新婦は、傅嘏の視線に気づくと、やわらかな笑みを返した。芙蓉の花が開いたような笑顔である。

「おい、人の妻をあまりじろじろ見るなよ」

 荀粲がどこか得意そうな、意地の悪い笑みを浮かべる。

 傅嘏は咳払いして、「新婦殿も、おひとつ」と、酒の入った瓶子へいしを向けた。

 新婦の曹回そうかいは酌を受けると、紅で彩られた唇をそっと杯につける。その上品な所作は、さすが名家の令嬢といった雰囲気である。

 荀粲も、おまけに傅嘏も、彼女が杯を傾けるのに見とれていた。すると曹回は、息つぎもせず、一息に杯をあけてしまった。

 あぜんとして見ていると、曹回は二人に微笑んで見せて、次の瞬間、魂が抜けてしまったように、その場へ倒れこんだ。

「回!」

 荀粲は、力を失った妻の体をあわてて支えて、頬を叩く。

 騒然となる会場の中、人々を気抜けさせるように、新婦は静かな寝息をたて始めた。

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