第4話 人生最大の発見
ドタドタと床を誰かが歩く音が聞こえた。
それだけじゃない、トントン、トントン。
まな板の心地の良いリズムが俺を夢の世界からゆっくりと覚ましていく。
ああ、家に誰かがいる。
その暖かい感覚すらも薄れてしまうくらいに俺は孤独だったのだ。
目は瞑ったままで、鼻だけですんと息を吸ってみる。
味噌のいい香りが鼻の奥をくすぐった。
もしかしたら、目を開けてみれば俺の思い通りの景色が広がっているのかもしれない。
寝癖ついてるよと優しく笑う母親が、新聞を両手にうるさいくらいに笑う父さんが、目を開ければいるかもしれない。
そうだ。これは夢なのだ。
夢だったら、きっと――――
「おーきーて!キミはいつまで寝ているのかね?」
「まぁ、そうだよな」
目を開けると、委員長が上にいた。
俺のお腹にまたがっているため非常に息苦しい。
コレは現実だとわかっていたのに一瞬でも、夢であってほしいと願っていた自分が馬鹿馬鹿しくてしょうがない。
委員長から顔をそらし大きなため息をついてみる。
「なんだその反応!」
俺の行動が気に入らなかったらしく体を左右にふり暴れる委員長。
夢のわけがない。
結局、覚悟したつもりでも未練タラタラの情けない男。
それが俺だ。
もう一度ため息をつくと――――
っ!?
生暖かく、柔らかい感触が頬を伝った。
「な、ちょ、委員長!?」
「やっぱり、キミは『色』が出ない……。私のキスで幸福を感じないなんて、もしかしてキミは……」
2度目の慣れない感触に俺は動揺を隠せなかった。
昨日のは何かの間違いだと思っていたが……間違いじゃなかったんや!
「男の子が好きなアレかな?」
「断じて違う!」
「まぁ、そうだよね。寝室のベットの下にはこんなものが……」
な、まさか……昨日あれだけ眠いふりをしていて実は眠くなかったとでもいうのか?
なんて策士だ……!
「委員長、やめ――」
「なんてね!何もなかったよ。ベットの下にはね。えっちな本が一つや二つ隠してあると思ったんだけどなぁ」
……ブラフ!
この委員長、童貞に強すぎる!
朝起きたと思えばほっぺにちゅうをかまし、更には精神攻撃まで……最近の魔法少女は超アグロ型だ。
「思ってたんだけど……その反応。確定だね!」
「だぁぁぁああ!よし!ご飯食べて登校するぞ!」
俺が高速でソファーから脱出すると、委員長もいい感じに飛んで華麗に着地した。
「キミに幸せがおとずれますように!」
「すでに不幸だ!」
こうして、俺の1日が幕を開けた。
◇
「なぁ。委員長よ」
「何かな。早く教室に入り給え」
「イヤだよ!委員長知ってるよね!?俺がぼっちだって!」
「うん。もちろん知ってるよ」
「事実だけど笑顔で言われると傷つく!」
教室のドアの前で俺は委員長にずっと思っていたことを打ち明けた。
「そんな俺が急に人気者の委員長と一緒に教室入ったらみんな驚くよね!?」
「うん。驚くね。はい。ドア開けて?」
「それがイヤだって言ってるんじゃん!」
と、俺が必死に委員長に抵抗していると教室のドアが勝手に開いた。どうやら内側から開けられた模様。
そして、そっから勢いよく佐藤さんが顔を出した。
「やっぱ春じゃん。おはよ。早く教室入りなよ」
「おお!愛菜の方からお出迎えとは珍しい!」
春とは委員長の名前である。
クラスのみんなは春って呼んでいる。
委員長を委員長と呼んでいるのはクラスでは多分俺だけだ。
2人は顔を合わせるなりハイタッチ。
そのまま繋いだ手を佐藤さんが引き寄せて委員長を抱き寄せた。
「ちょ、愛菜!朝から近いっての!」
「……こうしたい気分だから。やっぱ、落ち着く」
照れる委員長を全く気にしない様子で朝から抱き合うバカップル。
委員長より高身長な佐藤さんは委員長の頭に顔を乗っけてすりすりと麗しい黒髪を堪能していた。
……ッ!?
そんな百合百合しい光景をぼうっと眺めていると佐藤さんからピンク色の光がぼんやりと出てきた。
その光は嬉しそうに一回転して、佐藤さんの頭をすり抜けて戻っていった。
もしかして、アレが幸せって感情……?
俺が信じられないと口を開けていると、一瞬委員長と目が合った。どうやら間違いないみたいだ。
「あれ、春……シャンプー変えた?」
「ッ!?ちょっと!これ以上はセクハラ委員会に訴えるから!ほら!離れる!」
「え?いや、でもコレは……変わりすぎじゃない?これメンズ用っぽいというか……」
「お父さんのやつだから!シャンプー切れちゃってしょうがないから使ったの!そろそろ本気で訴えるよ!?」
「……わかった」
少しドキリとしていた僕がいます。
だがまあ、そこは委員長が上手くやってくれたようで、2人はくっつきながら教室へと入っていった。
やれやれと呆れながら俺も教室へ入ると、佐藤さんが鋭く俺を睨んでいた。
うわ、こえぇ……。
違うんです。俺は悪くないんです。悪いのは勝手に泊まるとか言った委員長なんです……。
と、直接伝えるわけにもいかないので心にしまっておきながら自分の席について、静かにホームルームが始まるのを待った。
いつも通り寝るふりをして腕を下敷きに顔を伏せる。
暗い脳裏に浮かぶのはあのピンク色の火の玉。
本当に、真近にあったんだな。それが見えていなだけで世の中にはあんな綺麗なものがたくさん隠れていたなんて。
もしかしたら幽霊とかもいるのかもしれない。
そう、考え方が変わってしまうくらいに、あの光景は衝撃的だった。
それに百合も悪くない。
人生の終点間際にて見つけた新たな発見だった。
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