第3話 委員長の記憶
「えっとね。実を言うとね、私は記憶がないんだ。高校生よりも前の記憶が何も残ってないの」
「え?」
予想外すぎる出来事にマヌケな声が出てしまった。
記憶がない?それも高校生よりも前、つまりここ1、2年の記憶しかないってことなのか?
楽しかったことも、親との思い出も、愛情も、温もりでさえも委員長は覚えていないと言うのか?
「ある朝、目覚めたら記憶が全部すっぽり抜けてた。でも、体は不思議とぽかぽかしててね。理解が追いつかないままなんとか登校したの」
平然とその壮絶な過去を話す姿に俺は少しだけ恐怖を抱いた。
そんなにも辛いことがありながら、どうして今も笑っていられるのだろうか。
俺は、一度断念してしまったというのに……。
「で、お昼休みにね。私が適当なことを言ったらさ、友達、愛菜ってわかるよね?」
「あ、ああ。委員長の恋人だっけ」
「キミもそんな風に呼ぶのかぁ意外だなぁ」
佐藤愛菜、いつも委員長と一緒にいるから2人はカップル認定されてる。
お気楽委員長にクールな愛菜。
どちらもビジュアルがとてつもなくいいことから男女問わず人気のある2人だ。
「その愛菜を適当なこと言って笑わせたらさ、見えたんだよね……ピンク色の輝きが。愛菜からひょーんって出てきたの。その輝きがどっか行きそうだったからさ、こう、指で逃げるな〜って合図したら愛菜の体に戻っていったの」
「それで、その光を浴びた佐藤さんはどうなったんだ?」
「うん。すっごく嬉しそうだった。ただそれだけだったんだ。でもね、それがすごく運命的で」
噛み締めるように、委員長が言った。
「だからね、キミにも見てほしいんだよ。魔法少女が見ている希望で満ち溢れた光景を。一度絶望で人生を諦めたキミに。どうかな?」
「その前に、一つだけ聞いておきたい」
前に座るお気楽委員長がどれだけお人好しなのか、俺は今日初めて理解した。
なんだよ、それ。優しすぎるだろ。
俺は震える喉をなんとか飼い慣らし、咳払いをしてから話を続けた。
「どうして、俺なんかに構ってくれるんだ?いくら町の平和がどうこうたって俺がいてもいなくても正直委員長には関係ないだろ」
委員長に恋愛的感情があるわけでもない。
それは屋上で確認済みだ。俺の恥を犠牲にな。
だというのに、俺の素性を調べ上げ、泊まり込みまでする気になって、飯まで作ってくれた。
それがどうしても理解できなかったのだ。
「んっとね……記憶のない私でも何故か心にずっと残ってる教訓、見たいのがあるんだ」
「教訓?」
「うん。手の届く幸せは全力で守りなさいって。胸の奥にずっと残ってるの」
「そっか……」
その言葉が誰から聞いたものなのかは委員長も、当然俺もわからない。
でも、もしその力が遺伝的なものならば、答えは自ずと導かれる。
確かめてようと、口を軽く開いて、やめた。
聞く必要のないことだと思ったからだ。
だって、委員長はこんなにも悲しそうな顔をしているのだから。
◇
「さてと……そろそろ寝るか」
「うん。そーだねぇ……」
ゲームのコントローラーを握りながらうっつら船を漕いでいる委員長に声をかけてみると今にも消えてしまいそうなくらい弱々しい返事が返ってきた。
「ベットは委員長が使ってくれ……寝室はキッチンの右隣の部屋だ」
「ん〜わかった〜」
寝てるのか起きてるのか本当にわからないような返事をしながらよれよれと立ち上がった。
そして、委員長は俺の前で止まった。
「ん?どした?トイレか?それなら……」
案内しようと立ち上がると腰にぎゅっと抱きつかれ足が止まる。
「ちょ、いいんちょ――――ん!?」
俺が振り向くと柔らかい感触が頬を襲った。
呆気に取られていると、委員長は悪戯っぽく笑って俺に向かって元気いっぱいにピースサイン。
「キミに幸せが訪れますように!」
そう言い残すと理解が追いつかず立ち尽くしている俺を置いて寝室の扉を勢いよく閉めた。
俺の隣で幸せを願ってくれる魔法少女が、めちゃくちゃ可愛いんだが!?
追記、魔法少女の行動は全く読めない。
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