第2話 魔法少女と同棲生活なんて話聞いてない
「で、委員長は一体いつまで着いてくるのかな?」
屋上で握手を交わして俺たちは学校を出た。
出たんだが……いつまでも鬱陶しいぐらいに元気いっぱいで隣を歩く委員長に我慢できず、俺は訪ねた。
このままだと家にまで着いていそうな勢いがあったからだ。
「え?いつまでってそりゃあ……家までですけど?」
「なぜ!?」
どうしてわからないの?と言わんばかりの表情で返された。
いや、聞き返した俺は何も間違っていないはずだ。
「えっとね……あったあった」
委員長は肩にかけていたスクールバックを漁り何かを見つけて、俺の方へとつきだした。
「コレだ!確か……青凪優羅。17歳。女性経験は0に等しく年齢=彼女居ないで間違いはなさそう。多分モテない」
「オイ!どうしてそこをすごく具体的に書くのかな!?」
「現在は一人暮らし。放課後はファミレスでバイト。お皿洗いが得意。趣味は特になし……って書いてあるね」
「書いてあるね、じゃない!なんだそれは!情報すげえ偏ってるし!」
俺がその無駄にデコデコした手帳を指差すと、委員長は唇を尖らせてぼやいた。
「な!?ストーカーなんかじゃないやい!コレは私が自ら調べ上げた物だよ!キミの事しか書いてないんだから!むしろ褒めてほしいくらいだよ!」
胸を張り、両腰に手を当ててえっへんと謎に自信満々のポーズをとる委員長。
「そう言うのをストーカーって言うんだよ!?」
「はぁ、いつまでもうるさいなぁ……キミは。さて、ほらキミの家に着いたよ。さ、カギを開けて」
「なぜ家を知っている!?」
そこまで調査済みなのかよ……魔法少女恐るべし……。
カギで家のドアを開けると俺よりも先に委員長が玄関へと入っていった。
「おじゃましまーす」
「って。おい!上がるのかよ!?」
まぁ、会話の流れ的にそんな感じはしてたけどさ……。
こうして同年代の女子が家に来るとなると緊張するというか、なんというか……。
「あれ?言ってなかったっけ……これから毎日キミの家に泊まる予定だよ?」
「言ってねぇ!」
「あ、そうだったか。じゃあ今言ったから。よろしくね」
「よろしくねって……」
そんな簡単にはい、了解ですでは終わらないだろ。
コッチにも心の準備というものがあるし、突然こうして押しかけられるのは普通に困る。
反抗の意を込めて委員長を見ると、俺の視線に気付いたのか少し悲しげな表情を浮かべて首を傾げた。
「だって、キミは目を離したら何をするかわからないもん。この町の平和のためにもキミを放っておくワケにはいかないのだよ」
委員長は教授っぽい口調で説明すると、俺を下から覗き込んで満足そうに笑った。
予想外の笑顔に俺は目を逸らした。
「さーてと。とりあえず晩ごはんでも作ろっかなぁ」
委員長はブレザーを脱ぐとスクールバックからエプロンを取り出して装着。
ショートカットに切り揃えられている美しい前髪をヘアピンで留めて腕を捲って調理開始。
どうやら前髪が動くのが邪魔になるらしい。
「あ、キミはそこらへんに座ってて。今日のご飯は肉じゃがです」
後ろ姿を眺めていると早速指示がとんだ。
委員長は素早い手つきで作業をしていて、冷蔵庫と台所を行ったり来たり。
やれやれ。そんな短いスカートがひらひらしてたらジッとできるわけないだろう……。
「はぁ。ここは俺んちだからな。俺も手伝うよ」
ため息をつきながら俺も腕を捲ると、風船のようにぷくっと委員長は頬を膨らませた。
「座ってて!私1人でもできるもん……!」
全く……そういう意味じゃないんだが……。
「へーへー。じゃあお言葉に甘えて」
ここは素直に従っておこう。
俺はキッチンのすぐ後ろにあるダイニングテーブルの椅子をひき、頬杖を立てながら委員長の後ろ姿をぼんやりと眺めた。
行動はテキパキしているのだが、所々転びそうになったり熱ッと叫んでみたり非常に危なっかしい。
でも、それでも俺なんかの為に手間をかけてご飯を作ってくれているワケで……。
やばい、俺の家にきた魔法少女が可愛すぎる件について…………!
◇
「うっぷ……ご馳走様…………」
「いや〜よく食べたね!全部食べちゃうなんて……」
「ああ、誰かに作ってもらうご飯っていうのは凄く暖かくて……って、なんだもないやい!」
「そこまで言ったら照れなくていいのに……ま、全部食べてくれると作ったほうも嬉しいよ。エライ、エライ!」
そういって委員長は俺の頭を軽く撫でた。
「ッ!」
俺は反射的にその手を払った。
「ふふ。キミは反抗期かな?」
「し、知らない!」
ああもう!どうしてこんな小恥ずかしいことを躊躇なくできるのかな……。
「それで、キミはどうしてあんなことしようとしたのかな?」
「どうしてって……」
屋上のことだろう。
もちろん、俺があんなことをしようとしていたのには理由があるし、覚悟もあった。
しかし、それを目の前の委員長に言って何が変わるというのだろうか。
委員長は魔法少女なのかもしれない。
もしかしたら不思議な何かで俺を光照らしてくれるのかもしれない。
でも、それを望む俺も、やってもらう理由もここにはないのだ。
「不幸だったんだよ、色々と」
俺は答えになっていない答えを重々しく告げると委員長はそっか、と呟いてもう一度軽く俺の頭を撫でた。
「じゃあ、私のターンだね」
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