第24話
一晩明けても、ネミリは帰ってこなかった。
俺もレイネも、そわそわして落ち着こうにも落ち着けない。
「誘拐……」
レイネがぼそっと呟く。
ありえない話じゃないな。
クイクル治療を受けている間は、ほとんどの人が眠ってしまう。
ネミリのことだから、100%寝てしまっただろう。
そしてあれは、ちょっとやそっとで覚める眠りじゃない。
その間に連れ去られたとしたら?
「その可能性はあると思います。それからもう一つ気になることが」
「あのネズミの召喚獣だな?」
「はい。料理店、温泉、クイクル治療の店と、あちこちに出没しています。それも私たちがいる時に限って、その姿を現している。これが偶然とは思えません」
「確かにな」
「状況から考えて、あのネズミが連れ去るのは不可能です。その主人が怪しいかと」
「まあ、主人の方があの小さなネズミよりは見つけやすいだろうな。紋章もあるはずだし」
「あくまでも可能性に過ぎませんが、辿ってみる価値のある可能性だと思います」
「同感だな。まずは街の中を動いてみるか」
せっかく、クイクル治療で疲れも癒えたところだ。
一旦、休暇を中断して動くことにしよう。
ネミリを見つけたら、思いっきり遊べばいい。
宿を出て街の中を歩いていく。
すれ違う人の腕に注目して観察するが、そう簡単に紋章を持っている人は見つからない。
レイネはさらに気配も探りながら歩いているようだが、思うような結果は得られていないらしい。
時おり、ため息をこぼしている。
ネミリは強い。
でも、強すぎる。
もし先生と誘拐されていたとしたら、きっと彼女は思うように抵抗できないだろう。
その抵抗が罪のない相手まで巻き込んでしまうかもしれないからだ。
それこそ盗賊から女の子を守っていた時のように、無抵抗でやられ続けてしまうという可能性もあり得る。
だからこそ、一刻も早く見つけないといけない。
2時間くらい歩き回ったが、何の手がかりも得られなかった。
「そう簡単にはいかないよな」
レイネが黙って頷く。
紋章を持つ人は3人ほどいたが、みんなあのネズミの主人ではなかった。
街の中にネミリの気配がないとなると、すでにどこかへ連れ出されてしまったという可能性もある。
「街の外に出てみますか?」
「範囲が広くなるな。ある程度の見当をつけてなら、やってみるべきだと思う」
「街の外なら、気兼ねなく虎の姿になることができます。例によってご主人様には背中に乗っていただいて、街を囲む壁をぐるりと回ってみましょう。感覚が強化されますから、何か手掛かりが見つかるかもしれません」
「分かった」
相変わらずすれ違う全員の腕に注意しつつ、街の外へ出る。
壁の陰でレイネが姿を変えた。
「【
美しい白虎にまたがり、しっかりとしがみつく。
するとレイネは猛スピードで走り始めた。
これでも、しっかり手がかりは探せているのだろう。
待ってろよ、ネミリ。
絶対に見つけ出すからな。
※ ※ ※ ※
一方、その頃ネミリは……。
「ぐーすーぐーすー」
セグレルダから離れたとある場所で、まだ眠っていた。
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