第13話

「今日も今日とてモンスター狩りかぁ」


 街の外を歩きながら、ネミリが呟く。

 初めて俺らが出会ってから1ヶ月。

 俺の冒険者ランクはCまで上がった。


「このところ、一段と連携が良くなっている気がしますね」


「そうだな。少しずつ生活にもゆとりが出てきた」


「むむっ、ということはそろそろ休暇があってもいいのでは?」


「まあ、考えてもいいかもな」


「おおっ!これは予想外の答えが来た!」


 ネミリが手を叩いて喜ぶ。

 俺のことをブラック主人か何かと勘違いしてるのか?

 休暇ぐらい作るぞ?


「取りあえず、今日1日頑張るぞ」


「かしこまりました」


「はーい」


 さてと、今日はどこに行こうか。

 サングロワの森のモンスターは弱すぎるしな。

 ゴーレムはなお論外だし。


 つい1か月前までスライムすら倒せなかった俺が、ゴーレムは論外とか言ってるんだから、人生何があるか分からない。


「よし、今日は2人にちょっとまともな戦闘をしてもらうか」


「ちょっとまとも……どういうことでしょうか?」


「着いてみれば分かる」


 不思議そうな顔をする2人を連れて、目的地へと到着した。

 何の変哲もない原っぱ。

 ぴたりとネミリの足が止まる。


「近いね」


「もう来たか。特性発動っと」


 この場にいる全員の腕に鎖の印が現われる。

 と、上から何かが猛スピードで急降下してきた。


「なっ!?」


 すんでのところでレイネが体を捻ってかわす。

 さっきまで彼女が立っていた地面に、丸く焦げ跡ができていた。


「危なかった……。あれの仕業ですね?」


 レイネが指差す先に、鳥型のモンスターが2体。

 サンホーク。

 ランクはCで、実力は俺らの方が上だ。


「……あれ?何でグレンの特性が発動してるのに、あいつらは普通に飛び回ってるの?」


「そういえば……翼に間違いなく、鎖の印がついているのに」


 すごいな。

 俺からは全く、上空にいるサンホークの翼の小さな印なんて見えないぞ。


 でも2人とも気が付いたようだ。

 わざわざサンホークを選んだ理由は、このモンスターの特徴にある。

 その特徴とは……


「あいつら、デバフ無効のモンスターだからな。ごく稀にいるんだ。デバフ無効だったり、むしろデバフがかかればかかるほど強くなったりするモンスターが」


「うわ、グレンの天敵じゃん」


「まあな。でも確実にデバフがかかった2人の方が強いから、倒しちゃっていいぞ」


 今までの戦闘は、動けなくなった相手をただ殴りつけるだけの作業だった。

 でもサンホークは、デバフを食らっても自由に動き回る。

 2人にしてみれば、久しぶりに戦闘らしい戦闘ができるはずだ。


「まともな戦闘って、そういうことだったんですね」


 にっこりと笑って、レイネが地面を蹴る。

 相変わらず大したジャンプ力だな。

 おっと、追加のリミッターを忘れていた。


「【筋力低下アスト】【速度低下ギルホス】【攻撃力低下メルガ】」


「うぐっ……出来れば動き始める前にやってください……」


「すまん」


 顔をしかめながらも、レイネは近くの木を蹴ってさらに飛び上がった。

 翼を広げて滑空するサンホークと同じ高さまで上昇する。


「キァァァ」


 サンホークが鳴き声を上げて、くちばしの中に炎の球を宿す。

 さっきレイネめがけて放たれたのと同じ攻撃だ。


「キァァァ!」


「遅すぎます。弱すぎます。ぬるすぎます」


 炎の球を右の手のひらだけで受け止め、表情一つ変えずに握りつぶすレイネ。

 熱くない……んだろうな。


「【千倍返攻ウェンクト】」


 レイネが手を開いた瞬間、すさまじい勢いの火炎が放たれた。

 上空のサンホークが炎に包まれる。

 骨も残らない。

 ドロップアイテムだけが、地面へと落下してきた。

 まずは1体。

 あともう1体は……


「いつの間に」


 ネミリがもう1体の背後へと飛び上がっている。

 空中でサンホークの頭へかかとを叩きつけた。


「【踵斧バル】」


 確実に脳天を捉えつつ、ネミリが急降下する。

 サンホークの頭ごと、かかとから地面に着地した。

 ズシーンというすごい衝撃。

 木が何本か倒れたみたいだ。

 これぐらいならかわいいもんかな。


「むー。いつもと変わらない!」


 デバフ解除して第一声、ネミリから出たのは不満だった。

 いくらデバフ無効とは言っても、さすがに元の実力が違い過ぎたか。


「確かに物足りなさはありましたね。ご主人様がおっしゃっていた、デバフをかければかけるほど強くなるモンスターが気になります」


「あー、それはダンジョンの何層かのボスなんだよな。挑戦するにはまず、ダンジョンに入れるようにならないと」


「なるほど。なおさらダンジョンに興味が湧い……」


「あれ?」


 レイネの言葉を遮って、ネミリが声を上げる。


「今、何か聞こえなかった?」


「俺は何も」


「でも確かに……。っ!」


 突然、ネミリが超高速で駆け出す。

 驚く俺たちを尻目に、彼女の背中はあっという間に見えなくなった。


「何なんだ?」


「分かりません。ですが、真剣な表情でした」


「追うか」


「ご主人様、デバフもかかっていないネミリの全力疾走に追いつけるんですか?」


「ぐ……無理だな」


「お任せください」


 レイネは何やら自慢げに胸を張るのだった。

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