第2話
街から少し離れた原っぱ。
「むー。眩しい」
ネミリが不満げに声を上げる。
街を出たところで彼女も目を覚まし、自分の足で歩き始めたのだ。
「ご主人様、そういえば名前は?」
「グレンだ」
「グレンか」
「こらっ!ご主人様を呼び捨てにしないの!」
レイネから声が飛ぶ。
しかしネミリは意に介さず、頭の後ろで手を組みながら歩き続ける。
「気にするな。好きに呼んでいい」
「ほら、グレンもこう言ってることだし」
「もう……。私はご主人様とお呼びしますので」
「ああ。好きにしていい」
動物に例えるなら、レイネは犬でネミリは猫という感じがする。
召喚獣を動物に例えるのも変な感じはするけど。
一口に召喚獣と言っても、色々なタイプがいる。
低級の個体は、人間の言葉を理解するが話せない。姿も獣そのものだ。
人の言葉を話し、そして人の姿を取れる彼女たちは、確かに高度な召喚獣で間違いない。
「しかしご主人様、やっぱり私たちが戦ってしまうとですね……。ご主人様にも危害が及ぶ可能性がありまして……」
「レイネ?」
「あう……申し訳ありません」
意見は出来ても命令には逆らえない。
言っていた通りだな。
のんびりと3人で歩いているが、いつどこからモンスターが襲ってくるとも限らない。
ここらで出現するモンスターは、どれも新人冒険者向けの弱いものばかりだ。
俺はそれすら倒せないけれど。
「グレン」
「何だ?」
「気配がするよ。何かいる」
ネミリの耳がピクピクと動いている。
ぼーっとしてるように見えて、やはり獣としての能力はきちんとしているようだ。
「そうか。モンスターだったら戦ってくれ」
「むむっ、死にたいの?」
「いや、死にたくはない」
「私たちに戦わせるってのはそういうことだよ?」
「戦えるもんなら戦ってみろ」
「……何の挑発なの?」
ネミリが首を傾げる。
俺と一緒にいてまともに戦えた奴など、敵味方問わず一度も見たことがない。
正直、やれるもんならやってみろくらいには思っている。
「ご主人様が戦えとおっしゃるのでしたら、戦わないわけにはいきません」
「むー、そうなんだよねぇ」
不安そうな不満そうな2人と、戦えと言いながら戦わせない気満々の俺。
そんな俺たちの前に、スライムが3体飛び出してきた。
ぽちょんぽちょんと跳ねる水色のモンスター。
俺は召喚獣へと手をかざす。
「戦え」
「かしこまりました」
「りょーかい」
2人の体をオレンジ色のオーラが包む。
俺も万が一に備えて少し距離を取り、そして【破滅への導き手】を発動する。
濃い紫色のオーラが体を包んだ。
これが特性の発動している証だ。
俺の紫のオーラが細長く伸びていき、スライムたちに、そして2人に鎖の印をつける。
俺の右腕、紋章の上にも印が現われた。
間違いなく、この場にいる全生物が【破滅への導き手】の影響を受けている。
少しすると、オーラは消え去った。
別に効果が切れたわけではない。
発動の証として出たオーラは、時間が経つと消えるのだ。
効果は続いている。
「やっていいぞ」
「はい!」
「はーい」
レイネとネミリは素早く視線をかわし、そして飛び上がった。
それはもう高く高く。
俺は衝撃を受ける。
【破滅への導き手】が影響するなか、ここまで高く飛べる者なんて見たことがない。
一方、レイネたちも不思議そうな表情を浮かべて、空中で顔を見合わせた。
しかしすぐに真剣な顔に戻り、急降下してくる。
「【
レイネの両手に鋭い爪が現われ、2体のスライムを一気に切り裂く。
振り抜いた腕から発生した疾風は、ものすごいスピードで地面をえぐっていった。
2本の長く茶色いえぐられた線が、原っぱのど真ん中に刻まれる。
「【
ネミリはといえば、降下しながら地面へ光の弾を撃ち込んだ。
小さいが超高速の弾。
残りのスライムを貫いても勢いは止まらず、深く深く地面をえぐっていく。
2人ともくるっと1回転して、俺の前に降り立った。
さっきまでスライムがぽちゃぽちゃしていたところには、縦にも横にもえぐられた地面が残されている。
たかがスライム相手にここまでする奴がいるかよ。
それにしてもこの2人、全く息が切れていない。
俺が驚きの言葉を口にするのと、彼女たちが口を開くのは同時だった。
「お前ら、何でそんなに動けるんだ?」
「めちゃくちゃ動きづらいんだけど!?」
「ご主人様!私たちに何かしましたか!?」
……何を言ってるんだこいつらは。
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