第3話

「……つまり、ご主人様の特性は超強力なデバフ効果を発するけれど、周りも巻き込んでしまうと」


 レイネが興味深げに呟く。

 対してネミリはスライムのドロップアイテム、粘液のキューブをぽよぽよさせて遊んでいた。

 お腹を上にして地面に寝っ転がってる辺り、まるで警戒心がない。

 双子でこうも違うかね。


「そういうことだ。さっきの状態は、あくまで特性が発動しただけ。例えば……」


 俺は【破滅への導き手】を発動する。

 この特性をまず発動しなければ、他のデバフスキルも使えない。


「【筋力低下アスト】」


「ふにゃ!」


 ネミリがキューブを顔の上に落とし、変な声を上げた。

 俺もレイネもその場に膝をつく。

 筋力が低下し立っていられなくなったのだ。

 しかし、ネミリはキューブを取り戻して遊び始めたし、レイネは再び立ち上がった。

 うん、何で動けるんだよ。


「ふぅ……不意打ちを食らってしまいました」


「普通は動けないんだよな。俺のデバフにかかりながら動けるお前ら、異常すぎる」


「そうでしょうか?私たちの動きをここまで封じるご主人様こそ、明らかに異常ですが」


「そうかな」


「ご主人様、自分の異常さに気が付いてます?」


「デバフの力が強いのは分かってる。でもお前らがあっさり動いてるように見えるからな」


「グレン」


 ネミリが立ち上がり、座り込んだままの俺の前にくる。

 そして言った。


「さっきの戦闘、もしデバフが無かったら、この原っぱは焦土と化してるよ?もちろんグレンも巻き込まれて死んでるはず。それがモンスターを倒しただけに留まるなんて、グレンのデバフは異常すぎるよ」


「そんなヤバい攻撃してたのか?」


「命令したのはグレンだけどね。私たちは手加減できない。だから封印された。でもグレンと一緒なら手加減できた」


 デバフが手加減ねぇ。

 本来、デバフっていうのは敵を弱体化させるためのものだ。

 でも今回、俺のデバフは味方の強すぎる力を抑制する面で役に立った。

 スライム相手にやり過ぎだとは思うけど。


「私たちの“破滅をもたらす”力は、ご主人様がいなければ使うことができません」


「そしてグレンの“破滅へ導く”力を活かせるのは、私とレイネだけ」


「……なるほどな」


 俺は全てのデバフを解除し、ゆっくりと立ち上がる。


 ずっと、ずっと、ずっと、探していた。

 俺のデバフの力を受けてなお、戦える誰かを。

 この召喚獣たちこそが、その誰かだ。

 それだけじゃない。

 彼女たちに俺が貢献することもできる。

 互いの力にとって理想的な仲間。それが俺たちだ。


「これからよろしく頼むぞ。レイネ、ネミリ」


「はい!ご主人様!」


「グレンよろしくー」


 2人の耳はピクピクと細か動き、尻尾はパタパタしている。

 きっと彼女たちは気付いていないだろうけど。


 デバフがかかってるくらいがちょうどいい召喚獣か。

 とんでもない2体というか2人というかを呼び出してしまった。

 ……呼び出した覚えはないけど。


「さてと、街に帰るか。ネミリ、そのキューブはちゃんと回収してくれ」


「これ、感触が面白いよね。もらってもいい?」


「本当は売りたいところだが……。まあ、スライムのキューブは大した金にならないしいいか」


「これ売れるの?」


「モンスターを倒してドロップアテムを売る。それが冒険者の主な稼ぎだろ」


「でもご主人様はモンスターを倒せないんですよね?」


「痛いところを突くな」


「も、申し訳ありません」


 レイネが頭を下げる。

 ただ彼女の言ったことは事実だ。

 これまで俺は、1体のモンスターも倒せたことがない。

 だからこのキューブは、初めて自分の力が干渉したうえで勝てた戦利品。

 せっかくだから、俺も売らずにとっておこうかな。


 街に戻って家に帰る。

 木組みの建物が建ち並ぶうちの一棟が俺の家だ。


「……掃除が行き届いてませんね」


 バッサリ言うな、レイネの奴。


「仕事では掃除するんだけどな。自分の家はどうにもやる気がしない」


「お任せください。掃除は私の得意技ですので」


「そういえばそんなこと言ってたな。ネミリは料理が得意なんだっけ?」


「ぐーすーぐーすー……」


「もう寝てるし!」


「すみませんすみません!」


 俺のベッドで大の字になって気持ちよさそうに寝るネミリ。

 やっぱり警戒心がない。


 それにしてもこれからは3人で暮らす……んだよな?

 召喚獣と主人ってことはそういうことのはずだ。

 そうすると、この家は狭すぎる。

 ベッドも1つしかないし。


「引っ越しが必要かぁ」


「確かにこの家、3人では少し狭いかもしれませんね」


「そうだな。お金を稼がないと。3人分の生活費となれば、清掃の仕事じゃとても賄えないし」


「やはり冒険者ですか?」


「2人が戦うの嫌じゃなければ」


「私たちはご主人様の命令なら、何でも致しますので」


「ありがとう。でも、言いたいことはちゃんと言ってくれよ?」


「はい。かしこまりました」


 優しくレイネの頭を撫でてみる。

 つい猫にやるみたいにしてしまったけど、幸せそうに笑ってくれているから良しとするか。


「さて、そしたらレイネは掃除を頼む。俺は食事の方を担当するよ」


「ご主人様の手作りですか?」


「期待のこもった視線を向けてくれて申し訳ないが、近くの店で買ってくる」


「なるほど。お気をつけて」


「ああ。今度はネミリの料理も楽しみにしてるよ」


「ぐーすーぐーすー……」


「本当に申し訳ありません……」


 耳と尻尾を垂れさせて、レイネは再三頭を下げるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る