俺の召喚獣たちはデバフがかかってるくらいでちょうどいい

メルメア@『つよかわ幼女』発売中!!

第1話

「すまない、グレン。やはりこのパーティーに君は……」


「分かってる。こっちこそ迷惑かけたな」


 本当に申し訳なさそうな冒険者に向けて、俺は笑顔で返した。

 彼は昨日俺が加入した冒険者パーティーのリーダーだ。

 早々に脱退することになったけど。


「本当にすまない」


「気にするなって。慣れっこだから」


 俺はリーダーの方をぽんっと叩き、それから帰り道を歩き始めた。


 俺――グレンは冒険者として登録している。

 ポイントなのは、“登録している”だけで稼いではいないことだ。

 何せ俺は、スライム1匹すら倒せない。

 ただ全く力が無いわけでもない。

 むしろありすぎるのだ。


 俺は【破滅への導き手】という特性を持っている。

 これのおかげで、俺は最強のデバフ使いになった。

 そして問題は、この強すぎるデバフの力を制御できないことにある。

 モンスターにデバフをかけようとすると、近くにいるパーティーメンバー、さらには自分にすらデバフをかけてしまうのだ。

 モンスターの能力がスライム以下の最低値まで弱体化しても、自分たちも弱体化するので、結局は倒せない。


 俺のデバフの力に興味を示し、わざわざ遠方からやってきてパーティーに誘ってくれる冒険者は多くいるが、たいてい翌日か翌々日には自ら離脱、もしくは追放される。

 もう慣れたとはいえ、自分から誘っておいて手荒く追放ってのはどうなんだろうね。

 今日の場合は、誠意が伝わってきたからすんなり離脱できたけど。


【破滅への導き手】の影響力が大きすぎるあまり、俺は冒険者として稼ぐことはできないのだ。

 でもひょっとしたら、デバフの影響を受けてもなお戦える誰かがいるのではと、俺は誘われるたびに冒険へ出かけている。

 今のところは全戦全敗だが。




 街に入り、冒険者協会の支部である建物までやってくる。

 冒険者協会の支部は各地に点在していて、俺が所属しているのはダオルの街にあるダオル支部。

 冒険者として稼げない分、ここで清掃の仕事をして生活費を稼いでいる。


 建物の中を進み、地下への階段を降りる。

 今日の清掃場所は地下の倉庫だ。

 いろいろな資料だとか書物だとかがあるが、どれもほこりをかぶっている。

 ただ重要なものもあるため、廃棄するわけにはいかないらしい。

 布で口元を覆い、上の方からほこりをはたき始める。


「風のスキルとかあったら楽なのにな……」


 俺はぼそっと呟いた。

 この仕事において、【破滅への導き手】など何の役にも立たない。

 まあ、この仕事以外でも役に立った試しはないんだけど。


「ん、何だこれ」


 ふと、背表紙に「破滅」という文字が記された本が目に留まった。

 吸い寄せられるように手を伸ばし、棚から本を取り出す。

 ほこりを払うと【破滅をもたらす双子】というタイトルがはっきり現れた。

 薄暗い地下倉庫で、俺は1人本を開く。


「うわああああ!」


 1ページ目を開いた瞬間、本の中から真っ白な腕が飛び出してきた。

 驚きのあまり、俺は乗っていた台から足を滑らす。

 後頭部を強く打ち、そのまま俺は意識を失った。




「……ま……様……主人様……ご主人様!」


 少し高めな女性の声と、体を揺すられた振動で俺は目を覚ます。

 ご主人様……?何のことだ?


「うあ……いてててて……」


 頭をさすりながら体を起こす。

 打った場所には、中くらいのこぶができていた。

 まだ少しかすむ目をこすり、ゆっくりと辺りを見回す。


「ご主人様」


 俺の右側で、両手と両膝をついた女の子がこちらを見つめていた。

 全く知らない人だ。

 彼女の後ろでは、まるで猫のように丸くなってもう1人の女の子が眠っている。


 いや、猫だ。

 猫耳が生えている。

 それにふわふわもふもふしてそうな尻尾も。

 いわゆる獣人だ。

 実際に見るのは初めてだな。


「えっと……ご主人様って俺のことか?」


「はい。私たちの封印を解いてくださった時から、あなたがご主人様です」


「私たちってことは、後ろで丸くなってるのも?」


「もちろんネミリもご主人様にお仕えします。あ、私はレイネと申します」


 レイネは白い耳に白い尻尾、髪の毛もきれいな白だ。

 対してネミリは、黒耳に黒い尻尾、髪の毛も黒。

 そして相変わらず「ぐーすー」と寝息を立てて眠っている。


「俺、封印なんて解いた覚えがないんだけど」


「ですが、私たちはこうして外へ出られています。それに紋章が腕に出ていますし」


 言われて右腕に視線を向けると、見たことのない不思議な模様が浮かんでいた。

 そしてそれは、レイネとネミリの右腕にもある。

 召喚獣と主人の間の契約を表すものとして、腕に紋章が現われると聞いたことがあるけど、これがそうみたいだ。


「とは言ってもな……」


 俺はあの腕が伸びてきた本へと視線を移す。

【破滅をもたらす双子】……か。


「この双子ってのがレイネとネミリか?」


「うっ……お恥ずかしながら……。私たちは双子の召喚獣なのですが、あまりに力が強く、そしてそれを制御できないため、敵だけでなく味方にも破滅をもたらしてしまうと封印されたのです」


「なるほどね」


 本をパラパラとめくってみると、確かにそんなようなことが書かれている。

 俺と彼女たちは似た者同士のようだ。


「ですがご主人様が封印を解いてくださいました。戦うことはできませんが、私は掃除や洗濯が得意です。ネミリは料理が上手なんですよ。ね、ネミリ」


「ぐーすーぐーすー……」


「あー、すみません。ネミリは一回眠ってしまうと、揺すっても起きなくて……」


 レイネは申し訳なさそうに、耳と尻尾をシュンとさせる。

 そこに感情が出るのかわいいな。


「と、ともかく!私たちはご主人様のお申し付け通りに動きますので!何なりとお申し付けください」


「んー、じゃあさ」


「何でしょう!」


 指示が待ちきれないというように、尻尾をパタパタさせるレイネ。

 やっぱりかわいいな。


「ちょっとばかり力を試してみたいんだけど」


「何のでしょう?」


「戦闘の」


「ご、ご主人様、話聞いてました!?私たちの力はとんでも」


「聞いてた聞いてた。まあ落ち着け」


 せっかく最強の召喚獣を自称する2人というか2匹というかが、俺に従うと言ってくれているのだ。

 まあ、片方はずっと寝ているけど。

 彼女たちの力がどんなものなのか、試してみない手はない。

 正直、自分の【破滅への導き手】を理解している俺からしたら、あまり期待はしていないけど。


「モンスターが出る場所に行くか」


「……ご主人様、それは命令ですか?」


「命令って言うとアレだけど……まあ、そんなようなもん」


「でしたら右手を私たちにかざし、強く命令してください。召喚獣はご主人様に意見できますが、最終的には逆らえません」


「分かった。レイネ、ネミリ、俺について来い」


 俺が手をかざして命じると、紋章が白く光を放つ。

 レイネたちの腕も同様に光った。


「かしこまりました」


「ぐーすーぐーすー」


「ネミリは私が抱えていきますので……」


 また耳と尻尾を垂れさせて、レイネがネミリを抱え上げる。

 2人を引き連れて、俺は地下倉庫をあとにした。

 突然現れた獣人に、協会にいた冒険者たちが目を丸くしたのは言うまでもない。

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