第12話~義龍君と道三パパの親子喧嘩~


 信長が会見場を出て行った後を眺めながら、道三は家臣の猪子兵助いのこひょうすけに「我が子達はあの『うつけ』の門前に馬をつなぐであろうな。」と呟いた。





 道三は、あの時の事を思い出しながら


「義龍、信長をあなどるな。ワシはあやつを、戦の天才と思っとる。」


「父上、何を弱気な事を。あの様な者に、我等が遅れをとるとでも言うのですか!!」


「よいか義龍よ、こちらから信長に戦を仕掛けてはならぬ。」


「情けない!!そのような弱気な事を、斎藤家の当主が口にするとは!!」


 義龍は、怒りをあらわにし道三を罵倒する。


「父上、貴方のような軟弱者なんじゃくものに斎藤家は任せられません。」


「義龍!!今の言動は見過ごせぬぞ!!貴様は謀叛むほんを起こすとでも言うのか!!」


「致し方ありませんな。貴方にこれ以上、美濃の国を任せるわけにはいきませぬ。」


 義龍は、道三との話を打ち切ると部屋を出て行った。

 部屋を出る際に義龍は道三に「次は戦場いくさばにて…」と言い残した。

 義龍の後ろ姿を見ながら「無能が何をほざく。」と呟き、信頼する家臣達を集め宣言した。


「義龍が謀叛を起こし挙兵する。我等も討って出るぞ!!」



 弘治2年4月。

 長良川のほとりで、義龍と道三の両軍が激突した。

 道三の軍勢2,500に対して、義龍の軍勢は17,500。

 道三にとって、圧倒的不利な状況であった。

 道三は、大名になるためにあらゆる手を使い、出世の邪魔になるであろう者を蹴落としていった事が災いし、ほとんどの家臣が義龍の側についてしまったのである。

 そのため、道三は義龍には勝てぬ事は解っていたのである。

 それを見越して、道三は家臣の一人を密かに信長の元に送っていた。


「お主に、この書状を婿殿に届けてもらいたい。そして、こう伝えるのだ『戦とは損得勘定でするものぞ。故に我が軍への救援は不要である!!』」


 その言葉を聞いた家臣は、涙を流しながら


「承知致しました。必ずや信長殿にお届けいたします。」


「うむ、頼んだぞ。無事に婿殿に届けられたら、お主は信長殿に仕えるのだ。今までよくワシに仕えてくれたな。大義であった。」


 道三は、そう言って家臣を送り出した。

 道三からの言葉を反芻はんすうして、顔は汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃであった。

 しかし、足を止めるわけにはいかない。今は少しでも早く信長のところへ行かなくては…

 そう思い信長の元に急ぐ家臣の懐には、道三がしたためた書状が一通。

 この書状は、道三から信長に宛てた『遺言書』であり、信長に美濃国を譲渡する旨が書かれた『譲り状』でもあった。




 道三の家臣が那古野に到着した時、彼は満身創痍であった。


「斎藤家が家臣、猪子兵助。至急信長殿にお目通り願いたい。道三様からの書状を持参致した。」


 城壁に居る守備兵に向かって、大声で報せると那古野に着いた安心感から意識を手放した。


 城門辺りで、子供たちと『じゃんけん』に興じていた真弥は、守備兵に抱えられた兵助を見るとバイクに跨がり、


「僕がこの人を連れて行きます。後ろに乗せてずり落ちないように、縛っていただけますか。」


 そう言って守備兵に指示を出し、信長が居るであろう那古野城へと爆走した。

 城では、信長と麗奈、帰蝶の三人が『じゃんけん』に興じていたが、爆走するバイクの音に気付き真弥の到着を待っていた。


「信長さん、稲葉山城で何かあったようです!!」


「何!?真弥、それは真か!!」


「はい。僕の記憶が正しければ、たぶん…」


 真弥はそう言いかけ、帰蝶の方に視線を移す。

 帰蝶は真弥の視線に気付くと、『心配はいらない』とばかりに微笑みながら首を縦に降った。

 真弥はそれを見て、


「どうやら、帰蝶さんのお兄さん?の義龍さんと道三さんが、えーと、喧嘩?してるみたいです。」


 と説明していると、兵助が意識を取り戻し、


「義龍様が、道三様に対し謀叛を起こされました。道三様は信長殿に、『戦とは損得勘定でするものぞ。故に我が軍への救援は不要である!!』とおっしゃっておられました。そしてこれからは、信長殿に仕えるようにと。」


 そう言って兵助は、懐から一通の書状を信長に手渡し、また意識を失うのである。

 信長は兵助からの書状を読み、震えながら


「舅殿、これは遺言書ではないか!!何が『国を譲る』だ!!何が『戦は損得勘定』だ!!ふざけるで無い!!」


 そう言うと、近くに居た兵士に「舅殿を救いに行く!!戦の支度だ、具足を用意せよ!!」と叫び、城の中に入って行った。

 しばらくして、見事な甲冑に身を包んだ信長が姿をあらわした。


「喜三郎!!ぬしは、勝家と共に兵を率いて舅殿の救援に向かえ。ワシは真弥の『ばいく』で先に行く!!」


 真弥は、後ろに乗せていた兵助を他の兵士に降ろしてもらい、信長を乗せる。

 麗奈が一緒に行きたそうにしていたが、信長の鬼気迫る表情を見て遠慮した。


「真弥、お主には護身用に『短筒たんづつ』を渡しておこう。」


 信長から渡されたのは、ベレッタM93Rだった。


「M93Rだ!何でこんな物までこの時代にあるんですか!?」


「真弥、そんな事より舅殿の救援に急ぐぞ!!」


「殿、鉄砲と予備の弾薬で御座る。」


 城之内が信長に銃とガンベルトを渡し、信長は甲冑の上からベルトを身に付けた。


「姉ちゃん、城之内さんと後から来てよ。」


「真弥、気を付けてね。」


「信長様、少しお待ちを。たった今もう一つの『ばいく』が直りました。」


「源内さん、それは何処に?」


「こちらに持って参りました。」


 真弥が出発しようとバイクのエンジンを始動させた時、源内が2台目のバイクを押して現れた。

 麗奈はすぐさまバイクに飛び乗ると、「城之内さん、後ろへ乗ってください。」と促す。

 城之内も甲冑にガンベルトを付け、麗奈のバイクに股がる。


「信長さん、最短距離を走りますので、ナビゲート……じゃわかんないか?道案内をお願いします。」


「ワシに任せておけ。あっという間に舅殿のところに着く道を教えよう。」


「…険しい山道は無理ですよ。」


「何!?山道は登れんのか!?」


「緩やかな坂道なら、なんとかなると思いますけど、どのみち2人乗りだと難しいですよ?」


「仕方がない、街道を走るしかないか。」


「了解です、全開フルスロットルで行きますよ。しっかり捕まっててくださいね。」

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