第10話~那古野でじゃんけんが大流行!?~

「信長殿、町の入り口で何をされておられるのですか?皆が、何事かと集まって来ておりますよ。」


 声のする方を見れば、沢山の人だかりが出来ていた。

 その人だかりの一角が左右に割れ、見事な着物を着たこれまた、見目麗しい女性が共を連れて近づいて来た。


「信長殿、これはいったい何の騒ぎですか?」


 近づいて来る女性は、長く美しい黒髪に切れ長の瞳。

 現在の価値なら数百万はするであろう、黒地に金糸や銀糸を使って象った蝶の意匠が、眼をひく着物を纏っている。

 身長は真弥とさほど変わらない160㎝前半。

 お供をしている女中は、なぜか真弥を睨み付けていた。


「帰蝶か?今勝負の真っ最中でな。ぬしかまってやる暇は無いのだ。」


 そう言って、信長は相手にしなかった。


「ほぅ、信長殿は妻であるわらわよりも、そこの小娘との『勝負』とやらのほうが大事と申すのですね。」


 すっ、と眼を細め静かに言葉を紡ぎ信長を見る女性。

 まむしと呼ばれる男、斎藤 道三さいとうどうさんの娘ー斎藤 帰蝶さいとうきちょうー(ー濃姫のうひめー)である。

 周囲の気温が下がったのは、気のせいと思いたい。

 信長が、慌てて帰蝶の機嫌をとる。


「い、いや、確かに勝負は大事であるが、一番大事なのはお主に決まっておる。」


「では、この騒ぎは何なのですか?」


「これはその~…そう、『じゃんけん』という遊びである。」


「それで。」


「それでその~……あ、遊び方を教わっておるところなのだ。」


「ほぅ、先ほど信長殿は『勝負』と言っておられたと記憶しておりますが?」


 徐々に劣勢になっていく信長。

 帰蝶の鋭い視線を受け、麗奈も気圧される。

 このままではまずい。と思った真弥が


「すみません。僕が『じゃんけん』を信長さんに教えました。」


 帰蝶は、視線を真弥に移す。


「そなたは?」


「桐妙院 真弥と申します。こちらが、桐条 麗奈です。」


 真弥は、自身と麗奈の紹介をする。

 なぜか、女中の視線の鋭さが増す。


「して、その『じゃんけん』とやらは、いったいなんじゃ」


 真弥は、じゃんけんの説明を帰蝶にする。


「なるほど、では真弥とやら、妾と勝負じゃ。」


「はぁ?」


 真弥は「ただ説明しただけで、なぜ勝負になる?」と思った。


「そうじゃのぉ。そなたが勝てば、望みのものを褒美としてやろう。どうじゃ?」


 真弥の思いを無視するかのように、帰蝶はのたまう。

 どうせ、こちらの言い分は聞いてくれそうも無いと理解した真弥が、それならば、と帰蝶に提案をする。


「それじゃ、帰蝶さんが勝った場合は?」


「妾が勝った場合か…そうじゃのぉ…そなたの乗っておる『それ』に乗ってみたいのぉ。」


 帰蝶は、真弥が跨がっている『バイク』を指差す。


「ふぁ?帰蝶、それは駄目じゃ!!」


 信長が、慌てて帰蝶を制する。


「信長殿?なぜ妾が乗っては駄目なのです?」


「そ、それは……」


 答えに困った信長が、真弥をチラ見する。


「危ないからです。」


「そ、そうじゃ!!真弥の言うとおりじゃ。」


 信長からの視線を受け、真弥が「バイクは危険なもの」であることを説明する。

 信長の真意は、別なことのように思える。


「なら、真弥と申したか?そなたが妾を守れば良いではないか?それに信長殿は、何を焦っておるのですか?」


 運転手である真弥が、『安全運転』を心がければいい話であろうと、帰蝶は言う。

 信長は、「真弥の後ろはワシの指定席なのじゃ。」と呟く。

 麗奈は、信長の呟きを聞き逃さず、真弥にしがみつき信長にドヤ顔をする。

 信長と麗奈が、メンチを切る。

 真弥と帰蝶が、「困ったもんだ」といった感じで首を振る。

 周囲に集まっていた者達の中から、一人の年配の兵士が真弥に問いかけた。


「あのぉ、その『じゃんけん』とやらは、ワシ等でも出来ますかのぉ。」


「もちろんです!!皆さんで、楽しみましょう!!」


 こうして、那古野の町から新たな『遊び』が、全国に広がる事になるのである。

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