第9話~那古野でもう一度~
勝ち誇る麗奈と膝から崩れ落ちる信長。
「ほっほっほ、その程度なのですか?信長さん。」
「おのれ、こんなはずではなかったのだが…」
二人の姿を見た真弥は
「(姉ちゃん、それじゃ悪の女幹部だよ!?信長さんも、たかが『じゃんけん』に負けたぐらいで、そこまで落ち込む事ないじゃん。)」
「あのぉ、そろそろ那古野へ帰りませぬか?」
恐る恐る尋ねたのは、城之内であった。
「そうですね。では、お先に失礼しますね。真弥、お願い。」
「すみません、お先です。信長さん。城之内さん、信長さんをお願いします。」
二人に断りを言って、麗奈がバイクに跨がろうとした時、信長が麗奈に近づき肩に手をかけた。
「信長さん?何か用ですか?」
「麗奈よ。ワシは納得がいかん。もう一度勝負じゃ!!」
「はいはい、町に戻ればいくらでも勝負してあげますから。」
「むぅ、今では駄目か?」
「信長さん。いつまた、コボルトに襲われるかわからない状況です。『じゃんけん』をするのは、安全な場所に移動してからの方が良いと思いますよ?」
「真弥が、そう言うなら仕方がない。町に着くまで、勝負はおあずけじゃ。」
「ならば殿、早駆けにて勝負すると言うのはいかがで御座るか?」
城之内が馬での勝負を挑む。
真弥と麗奈は、顔を見合わせて小声で話す。
「姉ちゃん、城之内さんの提案をどう思う?」
「はっきり言って無謀だと思うけど、真弥は勝負するの?」
「僕等の常識で言えば、まず提案自体しないけど…」
ちらりと城之内達を見れば、勝てる自信があるのか、城之内は余裕の表情でこちらを見ている。
信長は、「それもまた一興である。」と、のたまう。
どうやら、勝負を回避する方法はなさそうである。
真弥は、首を振りながら
「しょうがないですね。でも、このまま勝負しても城之内さんが不利になりますから、ハンデを与えましょう。」
「ぬっ、某が負けると?」
「ええ、ですので城之内さん達が先にスタートしてください。ゆっくり五つ数えてから僕達がスタートしますので。」
「真弥、『はんで』とは何じゃ?あと『すたーと』とは?」
「『ハンデ』は、少しだけ相手に有利な状況にすることです。『スタート』は、開始の意味です。」
「なるほど、ワシ等が有利な状況でなお、真弥達は、勝つ自信があると言うのだな?」
「もちろんです。はっきり言って、勝てない方がおかしいでしょうね。」
「桐妙院殿、そこまで言うなら某も手加減せぬで御座るよ。」
「望むところです。」
「それじゃ、ちょうど石畳の切れ目が揃っているから、ここをスタートライン…開始線にしましょうか。」
麗奈が、石畳の切れ目を指差し、馬とバイクを誘導する。
「んじゃ、合図は姉ちゃんの発砲で良いかな?」
「OK。城之内さん、準備は良いですか?」
「うむ。いつでも、良いで御座る。」
「それじゃ、スタート!!」
パーンと銃声の音と共に、城之内の馬は勢いよく走り出した。
それを見て、真弥はゆっくり数を数え再び麗奈が発砲し、バイクを走らせた。
城之内達を乗せた馬は、大人が二人も乗っているにもかかわらず、軽快に走る。
「翔ぶが如くじゃ、喜三郎!!」
「承知!!頼むぞ、黒点号!!」
城之内の愛馬『黒点号』は、額に500円玉位の黒い毛がある栗毛(茶色)の馬である。その愛馬の首を撫で手綱を振る。
城門が見え、城之内達は勝利を確信したその時、背後から黒い影が砂煙を上げながら、猛スピードで城之内達を追い抜き城門をくぐり抜けた。
城之内達が城門に到達すれば、真弥と麗奈がハイタッチをしていた。
「な、なんと言う速さで御座るか!?」
「むぅ、真弥の言った通りであったか。」
「まぁ、動物と機械とでは馬力が違いますから。」
当然ながら、バイクと馬ではスピードに差が出るのは当たり前である。
「真弥、どうすれば『ばいく』に勝てる?」
「信長さん、はっきり言って無理です。どんなに馬を鍛えようが、動物が機械に勝てる道理がありません。」
「むぅ、馬を鍛えても無理か…真弥、馬を鍛えるにはどうしたら良い?」
「うーん、走り込みと適度な休息、あとは…栄養のある食事ってところでしょうか。」
馬の鍛え方など知らない真弥は、「多分こんな感じだろう」と思いながら信長に説明をする。
「そう言えば、麗奈。勝負の件、忘れてはおらぬだろうな。町に戻れば勝負するという約束だったはずじゃが?」
信長の言葉に麗奈が「ちっ、覚えてやがったか。」と毒づく。
そんな麗奈を見た真弥は「姉ちゃん、完全に悪役じゃん。」と
「姉ちゃん、約束は守るべきでしょ。」
真弥に言われ、今度は麗奈が
「はいはい、わかりましたよ。やればいいんでしょやれば。」
いやいやながらも、信長と勝負する気である麗奈。
嬉々として、勝負に挑む信長。
「『じゃんけん』『ぽん』、『あいこで』『しょ』」
いつ終わるともなく、勝負は続いていた。
不意に、勝負に夢中になっていた信長に声をかけた人物がいた。
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