第8話~麗奈さん無双です~

真弥が那古野の町に着く頃、信長達はというと




「猿、真弥は無事那古野に着いたかのう。」


 信長は秀吉にそう言いながらコボルトの上段からの攻撃を避け、すり抜け様に胴を薙いだ。


「どうでしょうか?あの若者が乗る馬なら多分着いた頃だと思いますが。」


 秀吉は、袈裟切りの攻撃をかわしコボルトの右足を切りつける。

 膝をついたコボルトの後ろに回り込み、逆手に持った刀でコボルトの首を切る。


「猿よ、ワシの気のせいであれば良いのだが、敵の数が先程より増えとらんか?」


「殿、拙者も同じように思っておりました。」


 実際、信長の予想は的中していた。

 すでに、コボルトの数は30を越えていたのである。

 信長と秀吉は背中を合わせ、コボルト達の攻撃を防いでいた。

 一匹のコボルトが、信長の頭上から攻撃を加えようとした時、一発の銃弾がコボルトの頭を撃ち抜いた。

 信長が銃声のした方を見れば、真弥が走らせるバイクの後ろに立ち、銃を構えている人物が見えた。

 真弥のバイクが近づくごとに数を減らしていくコボルト達。

 信長達の目の前に真弥はバイクを停めれば、後ろに乗っていた麗奈は信長の隣に立ち、隙無く銃を構える。


「信長さん、大丈夫ですか?」


 麗奈は、信長に声を掛けつつコボルト達の頭を撃ち抜いていく。


ぬしは、麗奈か?着物が違うから、誰かと思ったぞ。」


 信長は、そう言いつつ近づくコボルトを刀で切りふせていく。

 麗奈が秀吉に近づくコボルトを撃つと、弾切れになる。

 麗奈がマガジンを交換しようと、一瞬銃に目を向けた隙をついて、一匹のコボルトが麗奈に襲いかかる。

 麗奈は背を低くして、コボルトの足を払い体勢を崩しズボンの後ろに差していた脇差しを抜いて、コボルトの首を掻き切る。

 体勢を戻しつつマガジンを交換し終えると横から現れたコボルトの顔面に銃床を叩きつけ、距離をとり「皆伏せて」と叫び、フルオート射撃で周囲のコボルト達を一掃する。

 二度目のマガジンを交換し、真弥に襲いかかろうとしたコボルトの頭を撃ち抜いてフィニッシュ。


「麗奈、主は鉄砲が扱えたのか。」


 信長は、呆気にとられながら麗奈に声をかけた。

 麗奈は微笑みながら答える。


「あら、私は一度も銃が使えないとは言ってませんよ。」


 真弥はバイクを路肩に停め、コボルトを死体を確認する。


「うへ~、一射一殺ワンショットワンキルなんて、ゲームの世界だけかと思ったけど、実際に出来る人っているんだなぁ。」


「ふふ、日頃の訓練の賜物ってやつよ。」


 真弥は、オンラインゲームでやっていたことを簡単にやってのけた麗奈に素直な感想を述べると、麗奈はサバゲーでの訓練の結果だと苦笑する。

 四人が談笑していると一騎の武者が、物凄い勢いで近づいて来る。

 真弥達の側に馬を停め近づく人物は、


「麗奈殿、無事で御座るか!!」


 開口一番、麗奈の心配をした城之内であった。


「これ、喜三郎!!お主、あるじであるワシを差し置いて、惚れた女子の心配とは何事か。」


「これは、殿。ご無事でなによりで御座る。」


「喜三郎、物の次いでのように言うでないわ!!しかも、ワシの言ったことを何気に無視するでない!!」


「姉ちゃん、何この出来の悪い三流漫才は。」


「真弥、本当の事言っちゃダメ!!」


 城之内と信長の掛け合いを見た真弥は思わず麗奈に、感想を洩らす。

 麗奈は真弥を嗜めるが、秀吉は麗奈の言葉を聞きジト目で麗奈を見る。


「ともかく、喜三郎は何用でここに来たのだ?」


「はっ、桐妙院殿に援軍の要請をされますれば、一大事と思い駆けつけました。して、奴らは何処いずこに?」


 辺りを見回し問う城之内を、信長はニヤニヤしながら見て答える。


「左様か。しかし残念よのぅ、喜三郎。お主がもっと早く来ておれば、麗奈に良い所が見せられたものを。」


「ふぉ……と、殿、な、何をおっしゃるやら…そ、某には解らぬで御座る。」


「そうか?いや、実に残念だな。お主の見事な剣捌きを麗奈にも見せてやりたかったのになぁ。」


 信長の答えに動揺して、せわしなく目が泳ぐ。

 真弥は、「(あっ、この人わざとやってる)」と思いながら信長に呆れを含んだ目を向ける。

 真弥の視線に気付いた信長は、顔を背けわざとらしく口笛を吹いている。

 尚もいじる信長に城之内は、未だに動揺していたので真弥は「しょうがないなぁ」と首を左右に振りながら


「信長さん、もうそのくらいでいいんじゃないですか?あまりイジメるのも、可哀想ですよ。」


 と嗜めれば、信長は


「はっはっはっ、すまんすまん、喜三郎のあわてっぷりが面白くて、ついな。」


 信長と真弥のやり取りを見て、城之内は自分が弄られていたことを初めて理解した。

 そんな三人のやり取りを眺めていた麗奈は、秀吉に


「城之内さんと信長さんって、いつもあんな感じなんですか?」


 と問えば、秀吉は


「まぁ、そうですな。景光殿はいつも信長様に遊ばれていますなぁ。」


「あっ、やっぱり。お二人の掛け合いを見て、そうじゃないかなぁ。って思ったので。」


 まるで、じゃれ合う弟妹を見る姉のように微笑む麗奈。

 しかし、真弥は麗奈の視線に別のものを感じとっていた。

 そう、微笑みを浮かべる顔と違い眼は笑っていないことを。

 真弥が感じた視線の意図は


「(いい加減、じゃれ合って無いでさっさと帰ろうぜ!!)」


 そんな意図を感じとった真弥が、信長にこう提案する。


「あのぉ、信長さん?コボルトも一掃出来たことですし、そろそろ那古野に帰りませんか?」


 その提案を受けて、信長は周りを見渡し


「ふむ、確かに。『こぼると』も片付いたことだし、そろそろ那古野に帰るとするか。」


「では、殿。拙者は一足先に那古野に戻り、皆の無事を伝えておきましょう。」


 秀吉はそう言って、那古野へと走って行った。

 真弥はバイクに跨がり、城之内は馬に飛び乗った。

 さて、ここで一つの問題が発生した。

 それは、”どちらが真弥のバイクに乗って帰るか”という問題である。

 信長と麗奈が互いを牽制しあう、


「麗奈よ、喜三郎と馬に乗って帰るとよかろう。馬上からの眺めも格別だろうし、喜三郎も喜ぶと思うぞ。」


「あら、それなら信長さんこそ、城之内さんと馬に乗って帰った方が良いのでは?何せ、城之内さんと信長さんは主従関係なんですから。」


「いやいや、喜三郎は麗奈と一緒に帰りたいだろうから、ワシは遠慮しておこう。」


「そうですか。でも私、馬ってどうも苦手なので遠慮しておきます。」


 二人の攻防を見ながら真弥は”女って怖ぇ~”と思いながら、決着をつけるべくこう提案する。


「僕のバイクに城之内さんが乗れば…」


 そう言いかけた時、信長と麗奈が真弥を睨み付け、


「「それは、無い。」」


 キッパリと言いきる。


「それなら、城之内さんの馬に僕が…」


「「それも、無い。」」


「ですよね~」


 冷や汗をかきながら、真弥は”これしかない”と思い最後の提案をする。


「じゃあ、『じゃんけん』で勝負するのはどう?」


 すると、麗奈は「それは良い考えね。」と答え、信長は不思議そうな顔して真弥に尋ねた。


「真弥、その『じゃんけん』とはどういったものなのだ?」


「『じゃんけん』とは、『手遊び』の一つで、三つの手の形があります。まず、こぶしを握る形を『グー』次に、人差し指と中指以外を握る『チョキ』最後に手のひらを見せる『パー』」


 真弥は、『じゃんけん』の説明をしながら、それぞれの手の形を作る。


「勝敗ですが、『グー』は『チョキ』に勝ち、『チョキ』は『パー』に勝ちます。『パー』は『グー』に勝利します。」


 真弥が「それでは、『じゃんけん』を始めましょう。」と言えば、麗奈と信長が向かい合う。


「私、『じゃんけん』で負けたことって一度も無いんですよ。」


 信長を挑発する麗奈。


「ほほぅ、ならばワシに初めて負けるということだな。」


 麗奈の挑発を挑発で返す信長。

 にらみ合う二人に、真弥は麗奈の背後に猛虎を、信長の背後に昇り龍を見る。

 真弥は心の中で


「(どっちが勝っても、ろくでもない事がおこる予感しかしない)


 と思いながらも、『じゃんけん』の審判をする。


「それじゃ、最後に僕が『じゃ―んけ―ん』『ぽん』って言いますので、この『ぽん』の時に三つの形の内の一つを出してください。」


 良いですね?と信長に念をおし準備を促す。


「良いですか?いきますよ。『じゃ―んけ―ん』」


 麗奈と信長に緊張がはしる。


「『ぽん』」


 麗奈と信長が同時に、『グー』を出す。


「ありゃ、『あいこ』になりましたね。」


「真弥、この場合はどうなるのだ?」


「決着がつくまで、繰り返します。その場合、僕の掛け声が『あいこで』『しょ』になりますので、この『しょ』の時にまた手を出してください。」


 と、信長に説明をする。

 信長は頷き、麗奈の方を向き構える。

 それを見て麗奈も、構える。


「それじゃ、いきますよ。『あいこで』『しょ』」


 信長も麗奈も『パー』を出す。


「『あいこで』『しょ』」


 二人共、『チョキ』

 何十回目の『あいこ』で遂に決着がつく。

 麗奈は『グー』対して信長は『チョキ』

 この瞬間、麗奈の『(自称)じゃんけん無敗伝説』に新たな一ページが刻まれた。

 真弥は思った。


「(じゃんけん無敗って言ってたけど、”僕との勝負に関して言えば”の話であって、他の人とやれば普通に負ける事もあったじゃん。それより、何十回も『あいこ』を繰り返す方が『伝説』じゃね!?)」


 城之内も思った。


「(某の存在は、いったい何で御座ろうか?)」

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