第5話~もしかして…これってピンチですか?~

 信長をバイクの後ろに乗せて、真弥は清洲の街を出た。

 かなりの距離を走ったところで、「ここで止まれ。」と、信長が真弥にバイクを止めるように促す。

 真弥が街道の路肩にバイクを止める。


「真弥、すまぬが少々花を摘んでくる。」


「へぇ、信長さんも乙女なんですね。花が欲しいなんて…」


「ば、馬鹿者!!そう言う意味ではないわ!!」


「えっ、じゃあどういう意味なんですか?」


 真顔で聞いてくる真弥に対して、信長は顔を赤くして、


「みなまで、言わせるで無い!!」


 ピシャリと言い放ち、真弥から離れて行く。


「ついて来るで無いぞ!!」


 怒気の含んだ声で真弥に告げる。

 残像が見えるくらい頷く真弥。

 真弥は信長の後ろ姿を眺めつつ、思考を巡らし『あぁ~』と気付いた。

 姿を消してしばらく、信長が着物の裾を気にしながら戻ってくる。

 真弥の顔を見て、信長はまた顔を赤くする。


「まったく、お主というやつは…もう少し『他人に配慮する』ということを覚えねばならんぞ。」


 困ったやつだ。という風に頭を左右にふる信長。


「と、ところで街を出たのはいいんですけど、これからどこへ向かうつもりですか?」


 話題を変えようと、信長に問う。


「ふむ、良い質問だ。どこへ行くかと問われれば、答えは一つだ。それは…」


 信長の溜めが入る。


「そ、それは?」


 ゴクリ、と唾を飲み込み真弥は、嫌な予感を感じつつ信長に問う。


「まったく考えて無かったから、わからん!!」


 ですよね~。

 真弥の嫌な予感は的中してしまった。

 行き先が、わかっていれば場所か道筋等を指示するはずである。

 どうやら、信長はなんとなく街から出てみたらしい。

 バイクの乗り心地が知りたかったのだそうだ。


「それじゃあ、これからどうしますか?」


 真弥は、信長にこれからの行動を聞いてみる。

 信長は、少し考えてから、


「それよりも真弥、お主にとって麗奈はどういう存在なのだ?」


「ふぁい!?」


 突然麗奈との関係を聞かれ、驚いて返事がおかしくなる。

 どう答えようかと思い信長の方に顔を向けた時、何者かの気配を感じたらしい信長が刀の鯉口を切る。


「何者かは知らぬが、刀の錆びになりたくなければ、さっさと出て来い!!」


 殺気を込めて言い放つと、近くの木から何かが落ちて来た。


「なんだ、猿だったのか。」


「殿、大変でございます!!犬頭種の群れがこちらにやって来ますぞ!!」


 猿と呼ばれたこの男ー木下藤吉郎きのしたとうきちろうー後のー豊臣秀吉とよとみひでよしーである。

 その秀吉が慌てた様子で、信長に報告をした。

 真弥は、秀吉の報告を聞いて疑問に思っていた事を信長に話した。


「犬頭種って先ほど倒したコボルト(仮)の事ですか?」


「何!?真弥のいた時代でも、奴らは現れていたのか!?」


「いえいえ、僕が言えるのは知識があるからであって、実際に見るのは初めてです。」


「真弥の知識では、奴らの事を『こぼると』と呼ぶのだな?」


「はい、姿形は様々ですけどね。」


「よし、猿!!これより、犬頭種を『こぼると』と呼ぶことにするぞ!!皆に伝えておけ。」


「承知致しました。して、殿、犬頭種…もとい、『こぼると』の群れが迫っておりますが、いかが致しますか?」


「むっ、そうであったな。数と距離は?」


「はっ、数は15、距離は…」


「って、信長さん。すぐそこまで来てますよ!!」


 真弥とのやり取りに夢中であった信長が、秀吉に詳細を聞いていたが、距離にして30メートルくらいまで接近されていた。


「しまった!!真弥との会話に夢中で、索敵を怠った。」


「殿!!拙者は、ちゃんと報告はしたはずですが…背後からも、参りましたぞ。」


「くっ、挟撃とは小癪な真似を。」


 コボルトに挟み撃ちをかけられ、三人は背中を合わせて周りを見る。

 信長と秀吉は、刀を抜いて迎撃の体勢をとる。


「真弥!!町に戻り喜三郎達を呼んで来るのだ!!猿、真弥が『ばいく』にたどり着くまでの道を開くぞ!!」


 真弥とバイクとの距離はおよそ5メートル。

 信長と秀吉が、コボルトと切り結び道を開く。

 真弥は、バイクに飛び乗りエンジンを始動させる。


―キュルキュルキュル―

―キュルキュルキュル―


 エンジンがかからない。

 もう一度、


―キュルキュルキュル―

―キュルキュルキュル―


 やはり、エンジンはかからない。


「真弥、どうした!!何をしておるのだ!!」

「信長さん、バイクのエンジンがかからないんですよ!!」


 あちこち見回しては見たものの、どうやってもエンジンはかからない。

 信長は次第に苛立ち始め、コボルトの攻撃の隙をついて


「えぇい、さっさと動かんかこのポンコツが!!」


 エンジンを思い切り蹴飛ばした。


―ドルン―


 エンジンがかかる。

 真弥は、「(うそ~ん、めっちゃ古典的やん。)」と呆れたが、今はそんな事に構っている暇はない。一刻も早く援軍を呼ばなければならない。

 真弥は、ホイールスピンをさせながら、車体の向きを変えアクセルを全開にフルスロットルし一路清洲の町に走り出した。

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