第2話~えっ、マジですか?~

 とりあえず、名乗りはしたもののはたして、この人物を信用して良いものだろうか?

 見知らぬ場所に居て、さらに、コボルト(仮)という怪物に襲われかけた状況。

 助けてもらったことには感謝するが、だからと言って素直に信用して痛い目を見るのだけは、許容出来ない。

 ましてや、麗奈を巻き込むのなら尚更である。


「フム、出会ってすぐに信用してもらえるとは、思っておらぬ。だが、お主等に危害を加える気はないことだけは、信じて欲しい。」


 そう言って、城之内は持っていた銃と腰に差している刀を真弥に渡し、くるりと踵を返した。


「何処に」


 行くのかと尋ねようと、真弥が口を開きかけた時。


「いつまでも、ここに居てはまた奴等に襲われる可能性がある故、我が屋敷にて話を聞こうではないか。」


 そう言って城之内は、さっさと歩き出した。

 この場に居れば、またコボルト(仮)に襲われるかも知れない。真弥は、麗奈の顔を見れば麗奈はこくりと頷く。

 二人の意見が一致したところで、真弥は立ち上がり麗奈に、手を差し出す。

 真弥の行動に気を良くしたのか、麗奈は嬉しそうに手を取り立ち上がる。


「あの人、足早くない?追い付く気がしないんですけど…」


 愚痴をこぼす。

 麗奈に後ろから後頭部をペチリと叩かれる。

 後頭部を擦りながら振り向けば、愚痴って無いでさっさと歩け、とばかりに麗奈に睨まれる。

 肩を竦め、無言で城之内の後に続く。


 重い。

 いつまでこの刀と銃を持っていればいいのだろうか?あの人が、危害を加えることがないということはわかった。

 わかったから、早く返したいと思う真弥ではあるが、城之内との距離が一向に縮まらない。

 さほど距離がある訳でもないはずなのに。

 真弥としては、かなりの早足をしているつもりなのだが、それでも距離は縮まらない。

 もしかして、あの人は足を高速で動かしてプロペラのようにゆっくり動いているように見えるんじゃないだろうかと、本気で思い始めていると城之内が振り返り、


「麗奈殿、大丈夫で御座るか?少し歩く速度が早かっただろうか?」


 と麗奈の心配をする城之内に対して、真弥は「(おいコラ!!ちょっと待て。言うに事欠いて姉ちゃんの心配かよ!?ちょっとくらい、こっちの心配をしてもバチは当たらんだろうが!!)」等とは口が裂けても言えないが、どうやら顔には出てしまったらしく麗奈に小突かれた。

 二人のやり取りを見ていた城之内は、


「れ、麗奈殿、一つ伺いたいのだが…桐妙院殿とは、一体どのような関係で御座るか?」


 と麗奈に質問をしてきた。

 真弥達は互いに顔を見合せた。

 真弥は「(桐妙院殿!?姉ちゃんのことは名前で呼んだのに、僕の場合は名字呼びなの?まさか、これはもしかして姉ちゃんに対して好意を持っているってこと!?)」と思った。

 麗奈はというと「(うーん、真弥との関係って言われても幼馴染み?というか、手のかかる弟って感じかな?)」という思いであった。

 城之内は、麗奈を真剣な表情で見つめていた。

 真弥にはなんとなく、麗奈を見つめる瞳に熱を帯びているように見えた。

 麗奈は、「只の幼馴染みです。」と軽く答える。

 城之内は、一瞬ホッとした表情を見せると、何事もないかのように踵を返し、


「そうで御座るか。いや、立ち入ったことを聞いたようで申し訳ない。」


 そう言って、また歩き出そうとした時、真弥が、


「ちょ、ちょっと待ってください。城之内さんが、僕達に敵意が無いことはわかりました。だから、刀と銃をお返しします。あっ、あと、出来れば僕のことは、真弥って呼んで下さい。」


 真弥は城之内に、刀と銃を返した。


「むっ、桐妙院殿、かたじけない。やはり、武士たるもの、これが無くては落ち着かぬ。」


 城之内は、そう言って左側に帯びた刀の柄頭を軽く叩いた。

 真弥は、「(あぁ、そう、名前に関しては、スルーなんすね。)」と苦笑して、城之内の後に続いて歩き出した。

 しばらく歩いている内に、なかなか立派な西の城壁が見えてきた。そう、日本のお城に西洋風の城壁である。


「なっ、なんじゃこりゃ~!!」


 真弥が、驚きのあまり叫んだ。

 麗奈は、目を丸くして固まっていた。


「ふっふっふっ、立派であろう。これが、我等の城下、那古野なごやの町である。」


 城之内は、胸を張って答えた。

 「(いやいや、確かに立派な城壁ですよ。そりゃもう、これ以上無いくらい立派な城壁ですよ。立派なんですが、何故に日本のお城に西洋風の城壁なんですか?)」等と、ツッコミどころ満載ではあるが、城之内のドヤ顔を見れば、ツッコミを入れるのを少々躊躇われるように思え、真弥達は何とも言えない顔をするしかなかった。


「戻ったか、喜三郎!!」


 城壁の上から、誰かを呼ぶ澄んだ声がした。

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