幻魔戦国記

道(タオ)

第1話~ここって戦国時代で合ってますよね?~

 ここはどこだろう?


 つい先ほどまで、自宅に居たはずなのに…


 周りを見れば、林の間に石畳の広い道が遠くまで伸びている。

 視線を上げれば分厚い雲が広がり、雲の切れ間から見える空は赤黒く、自分の知っている青い空はどこにもなかった。


「雨でも降るのかなぁ」



 どう見ても、今までとは違う空を見上げてトンチンカンな感想をつぶやき、どうしたものかと思考を巡らせていると、不意にお腹の辺りから「うぅ~ん」と、うめき声が聞こえ視線を下げる。

 見覚えのある、小柄な女性が自分のお腹の上にうつ伏せの状態で倒れていた。


「麗奈姉ちゃん!!」


 あわててその小柄な女性ー桐条きりじょう 麗奈れいなーの名を呼び、肩を揺すり目覚めを促す。


「う~ん…真弥?」


 目を擦りながら身体を起こし周囲を見渡すと、急速に意識を取り戻した。


「真弥!!おじさんとおばさんは?何で私達はここに居るの?って言うより、ここはどこ!!」


 矢継ぎ早に質問を受けて、戸惑う男の子ー桐妙院どうみょういん 真弥しんやーは、パニくっている彼女をなんとか落ち着かせようとするが、なかなか正気には戻らなかった。


「姉ちゃん、少し落ち着いて!!」


 真弥は、「(これは正気に戻す為の、緊急措置である!!)」と心の中でつぶやき、どう見てもブラウスのサイズが、一回り小さいと思えるほど盛り上がっている女性の象徴に、ゆっくりと手を伸ばした。


 「んぁ!?」とよくわからない奇声を上げ、正気に戻り視線を自らの胸元へと移す。

 そしてまた、真弥の方を見る眼には怒りを湛えていた。


「どこ触ろうとしてんのよー!!」


 言葉ととも、麗奈の右拳がひねりを加えながら真弥の左側の顎にクリーンヒットする。


「ぐほっ!!」


 麗奈のあまりにも鋭いコークスクリューフックを食らい真弥は、その場に崩れ落ちる。

 前屈みで。

 豊かな双丘に顔を埋める形で倒れた真弥だったが、視界の端で何かが動くのを捉え、飛びかけた意識を手繰り寄せ視線をそちらに向ける。

 真弥の顔が、林の茂みを見つめているのを不思議に思い、麗奈も同じ方向を見れば茂みから犬が顔を出した。


「わんわんだぁ~」


 麗奈が、眼を輝かせて言うと「(二十歳はたちも過ぎた大人の言うセリフかねぇ~)」と思いつつ真弥は呆れた顔をしたが、犬の顔が出ている茂みをよく見れば子供の背丈ほどの高さはあり、「(なんて器用に立っているんだ)」と驚いたのも束の間、その犬が茂みから歩いて来た姿を見て二人は、顔を引き吊らせた。


 なんとをしているではないか。

 しかも脚は犬の後ろ足ではあるが、手はしっかりと人間と同じような五本指であり、右手は棍棒まで握っている。

 こちらを見ていた犬の口が開き、ぽつりと呟いた。


「オレサマ、オマエ、マルカジリ。」


 真弥は、「前やったゲームで、こんなセリフを言う敵がいたなぁ」と呟きながら「(こいつって、もしかしてコボルトってやつじゃね?)」と思いながら麗奈に目を向けると、白目をむいて固まっていた。

 犬の魔物を見て、真弥は密かにコボルト(仮)と名付けた。

 そのコボルト(仮)が、棍棒を振りかぶり二人に向かって走りだした。


「伏せろ!!」


 真弥は、叫び声に従って麗奈の肩を掴みその場に伏せた。

 直後に『パパパパパパァーン』と乾いた音がして、コボルト(仮)の頭が挽肉ミンチになり真弥の目の前に倒れた。


「お主等、無事か?」


 声のする方に顔を向けると、銃を構えた男が真弥達に問いかけた。

 男の格好は、青色の着物に灰色の袴姿で、左側の腰に大小二振りの刀を差し、見るからに『侍』ではあるが、手には『』ではなく近代兵器であるアサルトライフルによく似た銃を握っていた。


「むっ、お主等、丸腰とはなかなか豪気な者達だのぉ」


 男はカラカラと笑いながら、真弥達に近づいて来た。

 麗奈を庇うように真弥が前に出る。「(えっ、何、何が起きた?はっ?侍!!ってか、何で侍が、AK-47なんか持っているの?何かおかしくね?)」等と思いながらも、顔には出さず男を見つめる。


「どちら様ですか?」


 真弥の肩口から、顔を覗かせながら麗奈は男にそう尋ねた。


「むっ、これは失礼し、た。」


 男は、名乗ろうとして持っていた銃を落としかけた。

 真弥は、男の視線が自分ではなく、右側の肩口の方を見ているのに気づいて「(また、このパターンか)」と内心、溜め息をついた。

 大抵の男性は、麗奈を前にするとこのように固まってしまうことを、真弥は知っていたからだ。


「どうかされましたか?」


 たぶん、唯一わかっていないであろう麗奈は、不思議そうな顔で男に問いかけた。

 男は、ぽつりと「美しい」と呟き、ごまかすように一つ咳払いをし、麗奈の問いかけに答えた。


「い、いや、何でもない。そ、それがしは、城之内じょうのうち 景光かげみつと申す。ところで、お主等は何者なのだ?」


 城之内と名乗る侍は、真弥達に問いかけた。

 真弥は麗奈の方を向き、小声で


「なぁ姉ちゃん、ここは正直に答えて良いのかな?」


 と問えば、麗奈は


「うーん、名前くらいなら良いんじゃないかな。城之内さんはきちんと名乗ったんだから、こっちも名乗るのが礼儀だと思うよ。」


 確かに、と思い真弥は城之内に向き直り、


「僕の名前は、桐妙院 真弥と言います。後ろに居る女性が、桐条 麗奈です。」


 真弥は、麗奈に言われた通り、名乗った。

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