第43話
フライニー先生に朝の授業の時間だと言われた俺は、慌てて時計を確認する。フライニー先生の話は正しく、俺は慌てて教室に向かった。
朝食は食べる時間は取れそうにないな、と思っていたのに寮の階段には生徒が集まっていた。平民の生徒は階段の下に、貴族の生徒は階段の上にいた。
一体なにがおきているのかが分からない。だが、貴族の中にはイヴもいた。俺は、イヴに話しかけた。イヴは俺の頭の上に乗ったままのローに驚いていたが、状況は話してくれた。
「どうしたんだ?」
「キロル、それが……イザベラがリコを突き飛ばしたって……」
話を聞くとイザベラがリコを突き飛ばし、リコは階段から落ちてしまったらしい。そのことがきっかけで平民と貴族が衝突しているということだ。
リコは、尻もちをしたまま自分の周囲を囲む平民にさえおびえていた。一方のイザベラは自分はリコを突き飛ばしてないと主張をし、貴族たちが「そうだ」とイザベラを擁護していた。
俺は、腕時計を見た。授業時間は、もう始まっている時間だった。集団遅刻は間違いない。俺は貴族たちをかき分けて、リコの側にいく。
「頭とかうってないか?」
「えっ」
リコは俺の言葉に、びっくりしていた。いや、もしかしたらローにびっくりしたのかもしれない。彼は、女子に好かれるような恰好ではないし。
「あ……頭はうってません。でも、足が痛くて」
リコはスカート少しだけたくしあげて、足をみせた。貴族たちはそんなリコの行動を「信じられない」という顔をしていた。貴婦人は足を見せないものだ。俺はイヴとギギのせいで、見飽きてしまったが。
リコの足は、打撲の跡があった。足首もひねっていようで、一人で歩くのは難しそうだ。こんな時にルーベルト王子は何処に行ったのだ、と思った。この場にいなかったので、ちゃんと教室に行ったのかもしれない。
俺は、リコを抱きかかえた。
貴族とか平民とか、どうでもいいから怪我人は保健室に送り届けなければと思った。俺の行動に、貴族たちも、平民たちも茫然としていた。イヴだけが、俺についてきた。
「あの……ありがとうございます。私が一人で転んだのに、騒ぎが大きくなってしまって」
リコの言葉に、俺は納得した。イザベラは他人の背中を押すような人間ではないし、リコは一人で転びそうだ。それにしても貴族たちと平民たちは、順調に不仲になっている。
「先生、怪我人を連れてきました」
保健室には、女の先生がいた。その先生にリコの怪我を説明して、俺は遅刻が確定した教室に向かおうとした。
だが、保健室の外にはイヴがいた。
少し怒ったような彼女に、俺はため息をつく。リコを抱きかかえたのが、気に入らないのだろう。だが、怪我人であるリコに文句は言わなかった。無論、俺にも文句を言わなかった。空気を読んだというか、リコは怪我人だから仕方ないと思ったのだろう。
俺は、ため息をついた。
両手を広げて、イヴに「おいで」という。
俺に近づく、イヴ。
そんなイヴを俺は抱き上げた。リコにもやったお姫様抱っこというやつだ。イヴは俺の首に手をまわして、近くなった俺の顔に彼女は満足気だった。
俺はイヴを抱き上げながら、教室に向かった。その行為はイヴが望んでいた、初めてのことだった。初めてのことは、出来る限り自分たちでやる。その約束を俺は律儀に守ったのだ。
教室のなかには、数学の先生とルーベルト王子だけがいた。貴族の子弟と平民の戦いは、まだ続いているのだろうと思った。
「あなたたち以外の生徒は?」
眼鏡をかけた数学教師は、俺たちに尋ねた。俺たちもイヴをお姫様抱っこしている目立つ格好をしていたが、数学の先生は俺たちの恰好を話題に持ち込まなかった。
まぁ、無理もはい。
教室はルーベルト王子だけで、他の生徒たち影も形もない。やっと来たと思ったら、その生徒は女子生徒とお姫様だっこで登場である。
俺は、イヴを下ろした。
先生の怒りは、まだ来ていない生徒たちに向いているからである。俺とイヴは出来る限り、先生を刺激しないようにルーベルト王子の隣に座る。
「何があったんだ?」
ルーベルト王子は、俺に小さな声で聴いてきた。
「リコが階段から落ちたんだけど、リコが押されて転んだとかで平民と貴族の生徒に分かれて喧嘩してる」
「なんだ、それは!」
王子は大声をだして、数学の先生の先生に睨まれていた。
「……リコは大丈夫なのかい?」
王子は、再び声を潜める。
「本人は自分で転んだといっているから、保健室までは運んだ」
王子の顔色は非常に悪かった。気持ちはわかる。貴族側と平民側で争っている光景は、ルーベルト王子が望んでいることではない。
「どうして、そんなことに……」
リコが本当に自分で転んだのであれば、イザベラはただリコの後ろにいただけと言える。だが、平民側は何か証拠でもあるようにイザベラを攻め立てていた。
「すぐに行かないと」
ルーベルト王子は、立ち上がろうとした。数学の先生の目が怖かった。
「とりあえず、今は授業に集中してくれ」
俺は、ルーベルト王子を止める。今出ていったら、確実に数学の先生に怒られる。
ルーベルト王子は、立ち上がることは止めてくれた。
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