第39話
俺たちが掘り返した的の下には、扉のようなものがあった。俺たちの他に掘り出した奴はいなかったようで、昼間とそこは何も変わっていなかった。
俺とギギは、開けにくくなった扉を無理やり開いた。ギギは土に汚れた両手を見て、土汚れを手で手を叩くことで落とした。制服を汚すな、と俺の言葉を覚えていたようだ。
「随分と奥に繋がっているんだな」
ドアの奥を覗いてみると階段があった。俺は近くにあった石を階段になげると、随分と落ちてから音が聞こえた。階段は長く地下まで続いているらしい。
「おい、これって松明かなにかが必要なんじゃ……」
俺と同じように地下を眺めながら、ギギは「レベル1」と呟き魔法で指先に炎を灯していた。よく見れば、それは矢の形をしていた。松明には程遠いが、これなら暗い道でも歩けるだろう。ギギの魔法は攻撃的なものしかないと思っていたが、使い方次第だろう。便利な奴である。
「そういえば、ギギはレベル5まで使っていたよな。イヴもレベル5まで使えるの?」
レベル5は、かなりの経験を積まなければ使うことができない魔法だ。まだ十歳のイヴが使えるとは思わなかった。
「いや、俺だけだ。俺とイヴは引っ付いているが、魔法に関しては何故か厳密に分かれているな。イヴはレベル1しかまだ使えないぜ。まぁ、練習すれば誰でも使えるようになる」
ギギの言葉に、俺は両手を見た。俺も霧以外のことを出来るようになるのだろうか、と考えた。霧を噴霧する魔法というのは、使い勝手が悪いので別の魔法が使えたらと思ってしまう。ギギは使えると言っていたので、彼のように色々と魔法を使えたらと夢見てしまう。
「お前って、便利だな」
俺は、純粋にギギのことをすごいと思った。だが、ギギは自分のやっていることに対して無関心だった。
思い返せば、ギギは死人だ。イヴのことを考えて、自分の活躍を押さえている。授業でギギが出れば、喝采を集めるだろう。
だが、ギギはそれをしない。
授業がイヴを成長させることを分かっているのだろう。
その様子は、理解のある良き兄のようでもある。しかし、今のギギは少年に戻っていた。階段の先にあるのはなんだろう、と目を輝かせている。
ギギは散らばっている魔石を五つほど摘まみあげて、それに息を吹き替えた。ギギは息を吹きかけた石を俺にわたす。石は、ほのかに赤色に光っていた。
「何かあったら、これを松明替わりにしろよ」
ギギの言葉に、何かが起こるのかもしれないという不安がよぎった。
一瞬「こんなことは止めよう」と言いたくなった。だが、ギギのことだから俺以外の誰かが犠牲になるだろう。だとしたら、詳しい内情を知っている俺が逃げるわけには行かなかった。
ギギの炎を頼りに、俺たちは地下の階段をおりた。灯りはギギの炎しかなく、どことなく湿っている階段を下りる。ギギは「結構歩くな」と呟いていた。先ほど確認したはずだが、ギギの思ったよりも階段は長かったようだ。
この先には、一体なにがあるのだろう。
進むごとに、恐怖がにじみ出てきた。この暗闇自体が化け物で、俺たちはその喉を通っているのではないかと思ってしまう。
「おい、ドアがあるぞ」
ギギの言葉に、俺ははっとした。長い階段の最後は、なにかのドアだった。おそらく、ドアの奥には部屋があるだろう。何もわかってないが、俺はそう感じた。
「どうせ鍵がかかっているでしょう」
俺がそういうと、ギギはドアノブに手をかけた。そして、にやりと笑った。その笑顔に、俺は嫌な予感がした。
「もしかして、鍵かかってない?」
俺の言葉に、ギギは悪役のように笑った。
「かかってない。いくぞ」
ギギは、思いっきりドアを蹴破った。どん、という大きな音で階段全体が震えたと思った。特に頭上にある天井からは土埃が落ちてきた時は、階段が崩れてギギと生き埋めになるのではないだろうか不安があった。
その次に、鍵は本当にかかっていたのだろうかと思った。鍵がかかっていなかったから、ギギはドアを蹴破ることにしたのではないだろうか。粗暴なギギのことだから、きっと後者だろう。
「おい、早く来いよ」
ギギが急かすので、俺は部屋に入った。
鍵の疑問は、聞かないことにした。そこの部屋には、何もなかった。しかし、天井は高くて、舞踏会の会場のような印象をもった。
部屋の奥にはドアがあって、あの向こう側には何かありそうだなと思った。
ギギもそう思ったらしく、光源になっているわりにすたすたと速足で進んだ。俺は、ギギの跡を追った。部屋を歩いているとやはり広い天井だな、と改めて思った。
だが、この部屋にも光源がなかった。壁伝いに蝋燭をつけるために受け皿がくっついていたが、蝋燭は一つも火が灯されていなかった。
「おい、遅いぞ」
ギギの言葉に、俺ははっとした。
気がついたのだが、この大きすぎる部屋にはシャンデリアが飾られていなかった。この規模の部屋ならば、必ずあるものなのに。
遅れた俺を、ギギは意外にも待ってくれていた。ギギが光源になっているので、先に進まれては俺が困ったのだが。ギギの前には、別の部屋に続くドアがあった。俺は急いで、ギギの跡をおった。
ギギは、ドアに手をかけた。
こちらにはちゃんと鍵がかかっているらしく、ギギは何度もドアノブを回そうとしていた。だが、開く気配がなかった。
「ここも蹴破るか」
ギギは、ぼそりと呟いた
もうちょっと文明人やり方を考えてほしいが、ギギだから仕方がない。しかも「ここも」と言っていたので、一番最初のドアの鍵はやはりかかっていたのだろう。
ギギは再び足をあげて、ドアに向かって勢い任せに蹴った。だが、こちらのドアはこの程度の衝撃では開かない。
「こんちくしょう!」
ギギは再びドアを蹴るが、扉は開かない。ギギは舌打ちして、ドアをもう一度蹴った。それでも、扉はびくともしなかった。残念ながら、ここから先に進むのは難しそうだ。
「帰ろう。ここには何もないんだよ」
不貞腐れるギギに、俺は声をかけた。きっとここは、前は使われていた学院の施設なのだろう。部屋が広いから体育館かもしれない。
その時だった、獣が吠える声が響いたのは。
俺とギギは振り返ると、そこには青色の竜がいた。さっきまではいなかった怪物だ。体中が青色の鱗に覆われていて、目だけが燃えるように赤い。
体の大きさは、巨大な部屋でも動きづらそうほどだった。竜がちょっと動けば、それだけで俺たち踏みつぶして殺せそうだ。
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