第34話
次の授業のために、俺たちは再度制服に袖を通した。
次の授業に間に合うかどうか微妙だったので、俺は急いで着替えた。部屋のドアを開けると、そこにはイザベラもいた。彼女は魔法を使えないので服装をかえずにすんだのに、と思った。
魔法を使えない人間は、フライニー先生の授業を受けていないはずだ。自分の部屋に戻る意味がない。そこまで考えて、ようやくイザベラが自分の意思でここに来たのだと勘づいた。
「どうしたんだ、イザベラ」
俺は、イザベラに尋ねた。イザベラはイヴの友人だが、俺とのかかわりはあまりない。だから、不思議だった。どうして、俺の部屋に来るのだろうか。イヴの部屋と間違えているにしても階数からして違う。普通は間違えない
「平民の子が話をしていてね。私のほかに王子の花嫁になりそうな人がいるそうね。魔力をもっている子だとまでは聞いていたけれども」
イザベラは、自信たっぷりにそう告げた。
まるで見えない敵と戦っても勝つような自信だった。俺は頭痛がしてきた。平民たちの気持ちはわかるが、もう少しイザベラにバレないようにふるまって欲しい。イザベラにリコのことを話せば、きっとイザベラは彼女を廃するだろう。イザベラにそんな権力がなければ、虐めぐらいはするかもしれない。
問題があっても学校側は、退学処分は絶対にしない。イザベラは、イヴと同じく公爵家の人間である。学校側というかイザベラの家族は、虐めなどの問題行動を表には出さないだろうし。だが、その場合はリコは六年間も針のむしろに座り続けることになる。それは、さすがに可哀そうだ。
「いや、俺は知らない。平民同士の噂だろう」
俺は、逃げることを選択した。問題の発起人にはなりたくない。だが、イザベラは逃げようとする俺の腕をつかんだ。以外と強い力で、俺はそれに驚いた。
「イヴも同じように答えたわ。私が知ったら問題あることを二人とも知っているのね」
すでにイヴにも聞いた後だったらしい。イヴに強く追及できなかったのは、友達だったからだろう。そして、俺には強くでれると踏んだらしい。
「知らない。俺は何もしらないからな」
俺は、早歩きで教室に向かった。
その後ろをイザベラが、早歩きでついてきた。いつものドレス姿ならば俺は逃げきれただろうが、イザベラは学校指定のローファーをはいていた。簡単に、俺は追いつかれた。
「平民のなかに、王家に嫁げるだけの珍しい魔法使いがいるのね」
イザベラの推測に、俺は黙った。外れてはいなかったし。
「イザベラは、ルーベルトと婚約式をしただろう」
俺がそういうと、イザベラは悔しそうにスカートを握り締めた。
「婚約式をしても結婚できなかった人も多いわ。一度正式に発表されたのに、捨てられるなんて考えられない」
イザベラは、悔しそうに顔をゆがめた。
俺は、イザベラに同情していた。婚約しているが、相手次第でいつでも捨てられる。そう言う立場であるのは、俺も同じだった。
「……とにかく、俺は知らない。ほら、急がないと遅刻するぞ」
俺は、イザベラを連れて教室にいくことになった。
学院では、授業ごとに教室が変わる。座る場所も自由で、授業ごとに代わっていた。俺とイザベラはどこに座るべきかを悩んだ。その内に、俺はとんでもないものを見つけてしまった。教室の前の方にルーベルト王子と座るリコの姿である。
リコは平民たちに押されてルーベルトの隣に座ってしまったようだが、その周りを囲むように平民たちが座っている。平民たちの気持ちはわかるが、もうちょっとわかりにくくできなかったのか。
イザベラは優雅に微笑みながら、ルーベルの隣に座っているリコに話しかけた。ただし、イザベラは怒りを必死にこらえているように思われた。
「ルーベルトの婚約者は私よ。そこを退きなさい」
答えたのは、リコの隣に座っている平民の子だった。
「どこに座るかなんて、自由でしょう。座りたいなら、もっと早く来るべきよ」
正論である。
だが、イザベラはそれぐらいでは傷つかない。
「私は、彼の婚約者なのよ」
「この学院では、みんな平等よ。誰が婚約者なんて関係ないわ」
平民とイザベラの戦いに、リコは必死に耐えていた。唇をきゅっと結んで、ひたすら自分の膝を見ている。そんなリコをかばったのは、ルーベルト王子だった。
「イザベラ、今はちょっとリコたちに色々教えてもらっていたんだ。暮らしぶりとか」
ルーベルト王子の言葉に、イザベラもさすがに何も言えなくなる。民衆の生活を知るのは、王子として大切なことだからだ。イザベラは、リコを睨んだ。その視線に、リコは泣きそうになっている。
「あなたも人の婚約者の隣を堂々と取るものじゃないわよ」
そんな怖い言葉を残して俺の側に帰ってくる、イザベラ。
俺は、視線だけでイヴを探した。
イヴは、後ろの方にいた。隣には、誰も座っていない。俺は、素早くイヴの隣に座った。イザベラは、まだ座る場所を探していた。
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