第33話
「よし、次はマラソンだ」
フライニー先生の言葉に、生徒は「えー」と悲鳴をあげた。俺とイヴは、この流れを知っていた。なぜならば、ギギが同じことを言っていたからだ。
「魔法使いは強い心と体が必要だ。その鍛錬には、スポーツが一番良いと言われている。さぁ、全員で校庭十週行くぞ」
フライニー先生の言葉に、生徒のほぼ全員がブーイングをした。俺とイヴは、色々とあきらめていた。ギギの特訓と同じだったからだ。
俺は一日おきに走らされ、イヴは毎日走ることを義務付けられていた。ギギいわくトレーニングの方法はたくさんあるが、走るのが一番いいらしい。
おかげで、貴族の令息らしくない場所に筋肉が付いてしまった。貴族のトレーニング方法としては、剣の素振りが一番簡単で一般的な鍛錬方法だった。俺も父や兄から、剣術を習ったものだ。だが、ギギはそのトレーニング方法を嫌っていた。
基礎も出来てない奴が剣を握ってもしょうがない、というのがギギの言い分だった。たしかに城で働く兵士たちも、まずは走り込みから鍛錬を始めるらしい。ギギの言い分は正しいと思った。だが、どうして魔法にも筋トレーニングが必要なのかは分からなかった。ギギの言い分が、俺は信じられなかったのだ。
あと、イヴにいいところを見せたくて木刀を持っていったときは、ギギに百年早いと言われて木刀と一緒にボロボロされた。詳しくは聞いていないが、ギギの職業は兵士か傭兵だと思う。そうでなければ、あそこまでトレーニングにはこだわらないだろう。
ちなみに、ルーベルト王子も俺たちと同じような顔をしていた。王宮にも、同じような訓練方法をさせる人間がいたのだろうか。
「じゃあ、行くぞ。よーい、ドン!!」
フライニー先生の声と共に、俺たちは走り始める。
最初こそ皆同時に走り出したはずだが、段々と脱落者がでてきた。
結果、貴族階級の生徒のほとんどが、校庭十週を走りきることができなかった。一応貴族の男子も頑張っていたが、ほとんどが半分で脱落していた。
貴族女子にいたっては普段から運動する習慣がなかったらしく、一周か二週ぐらいで根をあげていた。ルーベルト王子もいいところまでいったが、八週。
走り切ったのは、平民全員と俺とイヴだけだった。
他の貴族たちは、俺とイヴの結果に驚いていた。他の貴族の生徒達には悪いが、こちらはギギのスパルタ訓練をやっていたのだ。走り込みだけで根をあげるわけがない。
「先生なんで魔法の訓練に、走り込みが必要なんですか?」
平民の一人が、先生に質問する。
「それは、魔法が心に左右されるからだ。弱い心の魔法を使えば、魔法が暴走してしまう。そのために、魔法の練習よりも心技体を鍛えていなければならないんだ」
フライニー先生の言葉は、ギギよりも分かりやすかった。さすがは、本職と思った。
俺もギギに言われて納得できなかったが、走り込みをやりながら実感していった。魔法は戦うための手段である。俺の霧を発生させる魔法だって、目くらましができる。戦うためには、心と体とそれらで作り出す技が必要なのだ。
「じゃあ、今日はこれまでだ。解散」
フライニー先生はそう言った。その言葉に生徒たちは酷く安堵していた。
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