第26話

「なんで、学校で舞踏会用の服が必要になるんだよ」


 俺は文句を言いながら、二つ目のカバンに荷物をいれていた。俺たちが入学する学院は全寮制のために、持っていく洋服や勉強道具でカバンはふくれていた。


しかも、一度入学したら六年経たないと出ることはできない。そのため、持っていく荷物は余計に多くなる。成長で着られる服がなくなっていくので、衣類や消耗品は家族から差し入れは許可されている。まるで、本物の囚人のようである。


金持ちばかり入学する学校らしく、メイドは一人まで連れてきて良いと書類には書かれていた。残念ながら、家には一人しかメイドがいないので彼女を学院に連れていくことはできない。


 そういうことで、俺は一人で荷物をカバンに詰め込んでいるのであった。


「イヴは、メイドを連れてくるんだろうな」


 大きなイヴの屋敷には、当然ながらたくさんのメイドがいる。メイドは自己主張しないので誰が誰なのかは分からないが、イヴは有能なメイドを連れてくるだろうなと思った。


「おっと……」


 本棚から、一冊の本が落ちる。


俺はそれを拾い上げて、本棚に戻そうとした。だが、題名に引っかかるものがあった。「魔王討伐記」と書かれたそれを俺は買った覚えがなかった。誰かのおさがりだろうと思った。


恥ずかしいことに俺に部屋には、誰かのおさがりしかない。俺は、パラパラと本をめくった。


子供用の本のなかでは、魔王はいかに強大で強いのかが書かれていた。だが、その魔王は人間が組んだ連合軍に退治されたという話だった。


おそらく本を書いた著者は、友達との協力の大事さを表現したかったのだろう。肝心の魔王は角が生えていたとか全身が黒く染まっていたとか、色々と人間じゃありえないだろう表現がされていた。はっきり言って、まったく参考にはならなかった。


魔王とは、恐らくは魔法を極めた強力な魔法使いのことだろう。そして、その魔法を恐れた国々が協力して魔王を殺した。結局、真実などそんなものだろうと思った。


それに、五百年も前のことである。魔法の理解もあまり進んでいなかった。強い魔法使いは、畏怖対象だったと聞く。イヴも生まれた時代を違うなら、絵本の中の魔法使いのような扱いを受けたかもしれない。何となくやりきれなくなって、本は本棚に戻した。


だいぶ荷造りも進んだのであとは明日やろうと思って、俺は寝る準備をした。だが、俺が寝る前に俺の部屋のドアを叩いた者がいた。長兄だった。


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