第20話
そんな時、こつんと音がした。
民衆がわいている中では、聞き逃してしまいそうな小さな音だった。だが、その音に気がついたイヴがギギと入れ替わる。
「おい、行くぞ!」
ギギが俺を掴み、バルコニーの方へと歩いてく。大人たちは唖然としていて、だれもギギを止めようとはしない。イヴの父親も茫然としていた。そして、あろうことかギギはルーベルトとイザベラの間に俺を放り投げたのだ。
「ギギ、何をするんだ!」
俺は、後ろにいるギギに抗議する。そして、同時に儀式を台無しにしてしまった恐怖に俺は震えていた。ルーベルト王子は眼を白黒させているし、イザベラはせっかくの儀式を邪魔されたと思って驚きよりも怒りが強い。
「急いで霧を作れ!でもって、王子と女は部屋に入れ」
ギギの怒鳴り声に、俺はほとんど考えずに魔法を展開する。半場やけくそみたいな気分になっていた。
「レベル1、噴霧!」
バルコニーは、霧に包まれる。ルーベルトとイザベラは――得にイザベラはギギの命令を聞くのを嫌がった。彼女にとっては、初の華々しい行事だ。立派にやり遂げたい、という思いが強かったのだろう。
だが、ギギによってイザベラは室内へと放り投げられた。ルーベルト王子は、それを見ていたせいか自分でバルコニーに戻った。
「おい、一体なにが起こっているんだ」
貴族の一人が怒って、ギギに詰め寄ろうとした。するとバルコニーから何かが跳んできた。そのとんできたものは、ギギに詰め寄ろうとした貴族の足元に突き刺さった。貴族はそれに驚いて、尻もちをつく。
「遠距離で狙撃されているんだよ。この部屋から全員出ていけ。窓には近づくな!!」
ギギの怒声に全員が従った。
誰もが自分の命は大事だ、と思っているのだろう。全員が避難したのを確認してから、ギギは再びバルコニーに向かおうとした。
「おい、何しようとしているんだ」
俺は、嫌な予感がしてギギを止めた。ギギは、嫌な顔をしていた。この表情は、俺が止めるようなことをしようとしていたに違いない。
「どこから矢をうっているかを確かめる」
「ダメだ!」
俺は、思わず怒鳴ってしまった。
ギギは、俺の怒りにびっくりしているようだった。
「……今なら狙撃手を確認できるかもしれない」
ギギが、バルコニーを目指したい理由はそうだった。たしかに、今ならば弓をうった犯人を見つけられるかもしれない。
だが、そのためには俺が発生させた霧を消さなくてはいけない。そうなれば、犯人にもギギの姿を見せることになるのだ。そうなれば、イヴの身も危険になる。
「イヴを危険にはさらせない」
おそらく、こちらを狙っているのは凄腕の弓使いだ。弓のほとんどは城の壁に当たっていたようだが、民衆に紛れて城に届かせることは普通はできない。
「誰が狙撃してるんだ……」
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