第19話

「大丈夫ですか?」


 俺は、思わず王子に声をかける。


 ルーベルトは、首を横に振った。全く大丈夫そうではなかったが、それでも始まるのが式典だ。俺たちが席に座ると、式典が始まった。


王が立ち上がり、茫然とした王子と意気揚々としたイザベラが王の前に移動する。並び立つ二人に、王は尋ねた。


「今後は互いを尊重し、愛をもって茨の道を歩く覚悟はあるか?」


 その問いかけに、二人は頷く。


 ルーベルトは、さすがは王子という立ち振る舞いを見せた。さっきまで部屋の端っこで体育座りをしていたとは、思えないほどだった。


「それでは、契約書にサインを」


 王はルーベルトとイザベラに、一枚の書類を取り出した。羽ペンも同時に取り出され、それはルーベルトに渡された。ルーベルトは、書類にサインをした。その後はイザベラに羽ペンが渡されて、彼女も書類にサインをした。


 王は、俺たちに見えるように書類を掲げた。


「これで、婚約の契約はなった」


 王の声に、集まった貴族たちは拍手をする。俺も慌てて、拍手をした。その隙に、俺はきょろきょろとあたりを見渡した。連れてこられた若者のなかで、女性はイヴだけだった。きっと後継ぎが女しかいない、という状態はイヴの家だけらしい。


 ルーベルトとイザベラは、俺たちの方を向いて一礼する。イザベラのドレスが白だったせいもあって、本物の結婚式のようだ。


「それでは、国民にお披露目を」


 王に促されて、二人はバルコニーへと向かう。俺が集められた小さな部屋には、俺の背丈を超えるぐらいに巨大なガラスのドアがあった。そのドアの向こう側には、バルコニーがある。バルコニーから見える王子とその婚約者の姿を見るために、平民たちや身分の低い貴族が集まっているだろう。


 王子がガラスのドアを開けると、その瞬間に民衆の熱気が伝わってきた。俺もイヴと婚約していなかったら、バルコニーから挨拶する二人を一目見るために、民衆たちと同じところにいただろう。


 ルーベルトとイザベラは、バルコニーから顔を出してにこやかに手を振っている。ルーベルトも立派な王子に見えるように背筋をのばしていた。イザベラも背筋をまっすぐに伸ばして、立派に婚約者とし振舞っている。民衆たちはそれらを見て、王国の未来に沸いていた。

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