第11話
「本当にうろ覚えだな」
ギギは、俺のダンスをそう評価する。顔は笑ったままだから、不快ではないのだろう。足を踏まないように一生懸命に動いていたのが、良かったのかもしれない。ダンスで不機嫌になる主な原因は、十中八九は足を踏まれることだからだ。
ぐるぐると回る俺とギギ。
そう言えばイヴのことはだいぶ知れたが、ギギのことはあまり知らないなと思った。話しぶりから男で、俺たちより年上なことぐらいしか分からない。
「ギギって、いつ頃の人間なんだ?」
せっかくの二人っきりの空間なので、尋ねてみようと思った。
「魔王戦争が起きていた頃だから、五百年ぐらい前かな。前の時代じゃ、大した教育を受けてないから勉強のことは頼るなよ。職業は、傭兵をやってた」
魔王戦争は五百年前に起きたと言われる戦争で、十年ほど戦争は続いていたと聞いている。どこら辺の世代かと聞こうとして、俺は止めた。ギギは学がないといっていたので、把握していないのではないかと思ったからだ。
「貴族の女の子に生まれ変わったのは意外だったが、平和の時代はいいもんだな」
しみじみ、とギギはいう。
俺は平和な時代しか知らなかったので「そういうものか」と納得した。
「ところで、いつまで踊っているんだ?」
ギギは、不思議がる。俺とギギは、ずっと二人で音楽もかけずにくるくると回っていた。他人が見たら、目が回らないか心配されるかもしれない。
俺は、情けない気持ちで答えた。
「やめ方がわからないんだ」
俺の言葉に、ギギはあきれた顔をする。仕方がないだろう。女性側のダンスのしかやったことがないのだから。
ステップを止める、ギギ。
俺の足も自然に止まった。あたりまえだが、それでダンスは終わった。
俺は茫然としながら、突如終わったダンスを確認するかのように手を握ったり開いたりしている。手は微妙に汗ばんでいた。ダンス中の汗は、褒められるものではない。対策を考えるか、ダンス自体になれなければならないなと思った。
「残りは、明日な」
じゃあな、とギギは後ろを見せながら言った。
その後ろ姿は軽やかで、今までで一番軍人っぽくない雰囲気だったと思った。
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