第6話

「何があったんだ!」


 屋敷から、イヴの父親が飛び出てくる。


 イヴの父親は破壊された庭と壁、さらにはそこに乱入したと猪のモンスターを見つけた。彼は驚いた顔をして、燃え盛るモンスターを見つめる


 イヴの父親はこの屋敷の当主のせいなのか、死んだ俺の父親よりも威厳がある風貌をしていた。体格は細いのに、姿勢が驚くほどよいのだ。そんなイヴの父親は、庭で倒れるモンスターに驚いていた。


「これは、我が家の壁を突破してきたモンスターを倒したということなのかな?」


 娘と話しているつもりだからなのか、優しい声をかけてくるイヴの父親。そんな父親に、イヴは腕を組む。それは、父親を前にした女の子の恰好ではなかった。


「ああ。大型のモンスターが、人里まで下りることなんて滅多にないからな。大方、どっかのバカが力比べをして最後まで手を下さずにほうっておいたんだろうぜ」


 イヴは父親に男言葉で喋るが、イヴの父親はそれに驚くことはない。これはいつものことなのだろうか、と俺は考えた。よく考えたが、馬の被り物を見合いの席で身に着けることを許可した父親である。イヴ並みに突拍子のない人なのかもしれない。


 イヴの父親は、驚く俺に声をかけた。


「先にお伝えするべきだったね。この子は転生者ななんだ」


 イヴの父の言葉に、俺も父親も驚いた。


 転生者というのは、前世の人格を強く引き継いでいる人間のことを言う。過去の人格や特技も引き継いでおり、それでいて本人の人格とは完全なる別物である。二重人格のようになってしまうので、精神を病むぐらい子育てが大変らしい。


だが、たいていの場合はどんなに前世の記憶が強くとも、成人前後ぐらいには前の人格は消えてしまうものだ。イヴはまだ十歳前後の子供だから、前世の記憶と人格が色濃く残っているのだろう。


「イヴは、魔王討伐時代の軍人の魂を持っているらしくてね。今日も彼が出てきて、モンスターを討伐したようだね」


 イヴの父親は、そう分析した。


「そういうこと。いやぁ、旦那は相変わらず理解が早くて助かるぜ」


 豪快に笑いながら、イヴは自分の父親の背中を叩く。この男臭さは、軍人ゆらいなのだろう。普通の令嬢は、こんな行為はしない。


「お前、名前はなんていうんだ?」


 イヴの前世の人格は、俺に尋ねてくる。

 

 俺は少し緊張したが「キロル」と名乗った。


「キロルか……いい名前だな。咄嗟にイヴを庇うところも男気に溢れてていい」


 イヴの前世の人格は、俺を見ながら呟いた。まるで、品定めされているような視線である。なんとなく、嫌な予感がした。


「……いや、俺の魔法なんて所詮は霧を出す程度だし。モンスターは、ほぼイヴ様が一人で倒していたじゃないですか」


 俺の言い訳じみた言葉に、ますますイヴの前世の人格はにやにやとした笑みを深める。そして、何故か俺の肩に手を回した。


「戦いっていうもんはな。ガッツだ。ガッツがあれば、なんでもできる」


 できるものか。

 

 俺はそう思ったが、基本的に軍人気質らしいイヴの別人格はあまり人の話を聞いてくれなかった。


「俺の名前は、ギギだ。お前、イヴの夫候補な」


 ギギはあっけらかんと、とんでもないことを言った。イヴの父も驚いている。俺は、ギギに詰め寄る。


「けっ、結婚相手を決めるのは当主のやることだぞ」


 俺は、イヴの父親を見た。彼は驚いたように目を丸くしている。おそらく、ギギがイヴの結婚話に口を出してくるとは思わなかったのだろう。


ギギとは初対面だが、彼がイヴの結婚話に興味を持つとは思えない。なのに、ギギはイヴの結婚相手は指名した。イヴの気持ちだって、まだ聞いていないのに。


「お前は咄嗟にイヴを守った。立派な男だよ」

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