第5話

「あちぃな。これ……」


被り物から現れたのは、美しい金髪だった。貴族の女性は、金髪が多い。違う色に生まれつくと、髪の色を塗り替える人もいるほどだ。


その髪は背中まで伸ばされており、使用人たちが毎日手入れを欠かさずに行っているのが見て取れた。空色の瞳に年相応の無垢さはなく、大人の……しかも男の軍人のような潔さを感じさせた。


「なっ!」


 俺は思わず、声を漏らす。


平民と違い着飾ることになれた貴族は、総じて美形とみられやすい。顔が二流や三流でも、服が一流であれば人は簡単に騙される。


だが、イヴにはそういう効果はなかった。


服に左右されない、本物の美少女だった。


「あんた、イヴの見合い相手か。だったら、俺の後ろにいな。守ってやるよ」


 イヴは甲高い声で、まるで軍人のように喋る。


「おっ女の子を……盾にするなんて、そんな」


 俺は戸惑っているたが、俺の前にイヴは冷静だった。


 イヴは、深呼吸を一つする。


「さて、レベル2炎の弓」


 ぼそり、とイヴは言う。


 すると彼女の周囲に、炎をまとった矢が多数出現する。その数は多くて、数えられないぐらいだった。矢は、赤々と燃えていた。


イヴは、炎の魔法使いだったのだ。


俺は驚きながらも、イヴのことを見つめていた。


魔法使いの数は、全体的に少ないのだ。戦闘に特化した魔法はさらに少ない。俺は四人兄弟だが、魔法を使えるのは俺一人だ。それぐらいに少ない。ちなみに俺の両親は魔法を使えないので、魔法は遺伝もしないらしい。


 イヴの弓は轟々と燃える勢いそのままに、猪型のモンスターに襲い掛かっていく。猪型モンスターは、炎で燃え始めた。燃え盛る炎の中に閉じ込められたモンスターは、その存在に害があることは分かっていても可哀そうになる。


「……レベル5。炎の大剣」


 猪型モンスターは、炎のなかで苦しむ。それを見ていられないと思ったのか、イヴは炎の刃を出現させた。かなり大ぶりの剣は、彼女の身長ほどの長さがあった。彼女はそれを重そうに持つと、猪型のモンスターの首を狙って切り捨てる。大型の猪は「ぶぉぉぉぉ!!」とこの世の者とは思えない断末魔を上げて倒れていった。


「な……なんなんだよ」


 俺は、猪が倒れる光景をただ見ていた。


 くるり、とイヴは俺のほうを振り返る。


「改めて確認するけど。おまえ……俺の見合い相手だよな」


 イヴに別人が宿った、そう言われたほうがしっくりくるような光景だった。


 にやっと笑う、イヴ。


 さっきまで馬の被り物していたとはいえ、別人のように変わってしまったイヴに俺は眼が点になっていた。

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