第9-2話

この学校には現在多くの部活が在籍していて、それぞれが自由に活動しています。

勉学以外にも大事なものがある、生徒たちにはもっといろんなことを体験してもらいたいという初代の創立者の理念を受け継いで、今もなお、その伝統を続いてる。

だからこの学校はいつも人気で、有名人をいっぱい出しているのです。


でもその分、上下関係がはっきりしていて、それに耐えられなくて学校を止めた人も多かった。

私が初めて先輩に会った時、入学ばかりの1年生に過ぎない私に親しくしてくれた先輩に戸惑いを感じたのは、この学校の規律についた噂を事前に聞いたからです。


ゆりちゃんは、


「大丈夫ですよ、みもりちゃん。

相手が誰だろうとみもりちゃんには指一本触れさせませんから。」


っといざとなったら力ずくでねじ伏せてやりますと、私のことを安心させてくれましたが、それでも私はちょっと不安だったのです。

もし怖い先輩に会ったらどうしようって。


でも先輩とかな先輩に会ってその考えは大分変わるようになりました。

先輩たちは私にすごく仲良くしてくれて優しかった。

それがどれだけ私の心を安心させてくれたのか。

先輩たちだけではなく、今の学校は前よりそういった上下関係の部分で随分マシになって、そこんとこは本当に良かったと、私はそう思います。


でもそれが解決された矢先に新たな問題が発生、また学校を危機に陥れてしまいました。

それはいくつかの大型部が筆頭になって主導した「派閥争い」でした。

そしてあっという間に混乱の火は広まり、一般生徒にまで影響を及ぼしかけました。

それをなんとかするために生徒会は動かざるを得なかったというのが彼女の説明でした。


「これ以上、大型部たちを好き勝手にさせるわけにはいきませんわ。

彼女たちをなんとかしないとこの学校は一巻の終わりですわ。」

「だからといって廃部はあんまりです…!」


っと先輩はもっといい方法があるかもしれないと、赤城さんにそう訴えましたが、


「そんな生ぬるいやり方ではダメですわ。」


彼女は反論の余地も残さず、自分の考えをやり通そうとしていました。


彼女は生徒会の中でも筋金入りの強硬派として有名な人物で、大型部たちに他の部が吸収される前に、大々的な統廃合を行って、無駄な部活の数を減らし、生徒会で管理しやすくするべきだと主張しているそうです。

当然新たな部活の新設にも結構懐疑的な立場を取っていて、ここの同好会はまさにその統廃合の条件に一致するうってつけと言えるいい手本というわけです。

ちなみにゆりちゃんも学期始めに計画していた同好会の新設を彼女に止められたそうです。

でもそれについて私は全然聞いたことがなかったので、ひとまず詳細を聞いておくことにしました。


「え?私、それ初耳なんだけど。」

「そりゃ私が言ってませんでしたから。」

「それはなんで?」


っとゆりちゃんにも私に言わないこととかあるんだなっという珍しさとちょっぴりした寂しさを感じてそう聞く私に、あの時、書いた同好会新設申請書を見せてくれるゆりちゃん。

というかそれ、持ち歩いているんだ…


「だってみもりちゃんはすでに私だけの「アイドル」ですから。

雲の上のアイドルがそんなにすいすい自分のファンクラブに現れたりしてはいけません。」

「え…」

「どれどれ。」


そして、先輩と一緒にその申請書を見た時、


「「みもりちゃん愛好会」と書いてますね。

ゆりちゃんって本当にみもりちゃんのことが大好きですね。」

「ええ♥愛していますから♥」

「あ…ありがとう…」


私は赤城さんがその同好会の新設を止めてくれたことに心から感謝するようになりました。

後で聞いた話によると活動内容に少し問題があって同好会の新設を止められたかららしいです。

まあ、


「みもりちゃんグッズ作り…みもりちゃんへのお祈り…みもりちゃんオカズタイム…オカズって何?

それに部員集めとか一切しないで一人で活動するって…」

「うふふっ♥だってみもりちゃんは私だけのみもりちゃんですもの♥

私だけにあなたのことを愛することが許されてますから♥」

「重っ…!」


あんなの、読んだらさすがにボツにせざるをえませんよね…


とにかく赤城さんは他の部を吸収しながらどんどん大きくなる大型部を牽制するべく、ここの同好会を廃部させようとしました。

これ以上の大型部の横暴は許せないという言葉から副会長としての彼女の強い責任感を感じることができましたが、確かにそれはあまりいい方法ではないと私もそう思います。

それでも先輩は赤城さんのことを責めたり、憎んだりしませんでした。

むしろ、


「彼女には生徒会副会長という立場がありますから。

それにこれは決して良くない解決法ではないというのは彼女が一番分かっているはずですから。」


先輩は彼女の優秀さを見込んで信頼までしていたのです。


「かなちゃんが言ってたんです。

ななは決して弱いものいじめなどの卑劣なことをする子ではないと。

本当はすごく正義感があって優しい子だって。

今はただ立場上、そうするしかないと、分かって欲しいと言いました。」


そして赤城さんのために代わりに彼女の立場を代弁したかな先輩もまた、今も相変わらず赤城さんのことを心から信頼したのです。


合理的で責任感が強い彼女が選んだ方法は実に効率的で効果的でした。

最小のコストで多数の部活を管理しつつ、少しずつ大型部に所属している部活を生徒会の下に取り込んで相手を弱体化させる。

成功すれば今学校を牛耳る大型部が作った派閥を瓦解させることができるかも知れない。

彼女が選んだのはこれ以上はないほど効果的で効率の良い策だったのです。


でもそれは多くの生徒たちを傷つけることになりかねない。

結局彼女がやろうとするのは力ずくで部活を潰すことだから。

いくら実績がなくて、部員が足りないなどの理由を付けても、その事実に変わりはない。

それはまた新たな悲劇、新たな葛藤を生み出してしまうのだろう。

それでも彼女はそうやるしかないと、先輩はそう言いました。


「たとえ誰かを傷つけることになっても、自分は自分の責任を全うする。

それほど赤城さんは責任感の強い人です。」


っと自分の役目を果たすために自らきらわれ役を引き受けた赤城さん。

そんな彼女のことを先輩は人として尊敬すると言いました。


「誰かに嫌われるにはとてつもない勇気が必要ですから。

赤城さんは賢い人ですから、その重さを誰よりも分かっているはずです。」


彼女の決断と勇気に対して心から尊敬を表する先輩。

先輩のその話に、私はまだ会ったことのない彼女に思わず尊敬心を抱えるよになりました。


それでも彼女の話に乗れないのはただ同好会がなくならないで欲しいという純粋な気持ち。

そんな赤城さんだからこそ先輩は堂々とこの同好会を守りきって彼女のことを安心させてあげたかったそうです。

でもそんな先輩の気持ちは決して赤城さんのところには届かず、


「今回新しく就任した理事長は既にこの件について、全ての権限を我々生徒会に委任しましたわ。

わたくしは会長みたいに生ぬるくありません。やるからには徹底的にやりますから。」

「そんな…」


ただ虚しく彼女の周りを空回りするだけだったのです。


生徒会は「中立」として生徒たちの間で起こる様々な問題を仲裁して、妥協と解決に導く存在。

その生徒会が紛争を解決するために、新たな葛藤を作り出そうとしている。

ここでなんとかしなければこれからも同好会のように多くの部活がなくなってしまう。

でも今の自分たちに何ができるのか、最後まで思いつかなかったと言う先輩の顔は自分のことを情けないと思っているような、そういう表情をしていたのです。


先輩はここの同好会を続けてはいけない大事な理由があると言いました。

ただ皆と積み上げてきた思い出だけが全部というわけではない。

それがどういう理由なのか、私達はあえて聞かないことにしましたが、先輩がこの同好会のことをすごく大事にして、守りたいという気持ちだけはよく分かる。

だからこそ私達は先輩を信じることにしました。


どうしても同好会を続けさせてくれなさそうだった赤城さん。

なんとか彼女に考え直してもらいたいと思っていたその時、


「でも私はやっぱりみらいちゃんたちにもう一度機会を与えるべきだと思うわ。」


突然廃部のピンチの先輩たちに差し伸べられた救いの手がありました。

振り向いたそこには、


「やあー皆、元気?」


先輩だけの「王子様」が部室の皆を見ていました。


颯爽と現れて絶望の淵から出し抜くための救いの手を差し伸べてくれた金色の「王子様」。

彼女こそ今回同好会の廃部を発表会まで延長させてくれた、同好会の恩人、


「セシリアちゃん…!」


生徒会長「セシリア・プラチナ」さんです。

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