第10話
明るくて元気な声。
でもその明るさを包み込んだ、上品で優雅な雰囲気。
絶妙で美しい口調と生命力の溢れる豊かな音声。
ただ自然と話しているだけなのに、格の違いさというものを思い知らされてしまうほど彼女の存在感は圧倒的だと、先輩は彼女のことを、生徒会長「セシリア・プラチナ」さんのことをそう表現しました。
真っ白なエナメル靴を履いて部室に登場した長身の女性。
カチューシャの形で結んだ三つ編みのプラチナブロンドとよく似合う白いニーソと長い手袋。
そして数多な星が鏤められたように燦然と輝く金色の瞳。
普通のJKでは到底着こなせないハイレベルのコーディを簡単に自分のものにした彼女こそ、この学校で最も高貴で美しい「ハイエルフ」のお姫様、「セシリア・プラチナ」さんでした。
世界征服樹立の立役者の一人でありながら神界で最も大きい影響力を持っている高貴な種族「ハイエルフ」。
エルフは独自な言語を使い、色んな秘密を持っている神秘な種族で、彼らの言葉を今、私たちが使っている言葉に完全に書き換えるのはまず不可能だそうです。
だから世界征服は神界ではなく、地上で生活するための言語を彼らに教えるようになり、その結果、こうやって私たちは言葉を交わすことができるようになりました。
もちろんここでの名前はすべて本名ではなく、こちらの言葉で呼びやすいように簡単に書き換えた名前にすぎませんが、エルフの皆さんはそれで納得してくれたそうです。
そしてそのエルフのを率いる「プラチナ皇室」の第3皇女で、今は大人気アイドル「Fantasia」のリーダーを務めているアイドル界の「女王」。
そして屈指の名門、ここ第3女子校の生徒会長まで務めている彼女は長いアイドルの歴史の中、天から飛び降りた唯一無二のスーパースター。
間違いなく現在アイドルシーンにおける絶対王者である彼女は、
「助けにきたわ、みらいちゃん。」
先輩のかけがえのない大親友だったのです。
先輩と一緒に音楽特待生として入学したという会長のセシリアさん。
彼女は同じ音楽特待生である先輩とすぐ仲良くなって1年の頃からずっと一緒だったそうです。
皆に遠ざけられる先輩のことをなんの偏見もなく受け入れてくれたまだ会ったことの彼女に、私はの心から感謝するようになりました。
彼女のことに私は先輩だってずっと一人だったわけじゃなかったんだと、おこがましいですが、そうほっとしてしまったんです。
でもなぜかエルフ特有の長い耳ではなく、私たち並みの普通な耳を持っていたという会長さん。
それにはそれなりの理由がありますが、彼女はさほど気にしていないみたいだそうです。
人間とエルフのハーフである自分の出身なんて、自分の決意を貫くのになんの関係もないって。
実際、直接会った時、彼女から強い自信と決意が感じられたとゆりちゃんはそう言って、先輩も会長さんはとても意志が強くて、しっかりした子だと、彼女のことをそう評価しました。
「会長…?どうしたこちらに…?」
突然、救援投手として部室に現れた会長さん。
そんな彼女のことを純粋に喜べなかった副会長の赤城さん。
彼女は特に会長さんの「人の考えを読む」という能力のことをずっと煙たがっていたそうです。
「ええ…!?そういうのができるんですか…!?会長さんって…!」
っと初めて彼女の能力のことを聞いた時、私はびっくりして、先輩にそう聞きましたが、
「ええ。でもセシリアちゃん、あまり自分の能力を制御できないから。」
どうやら本人はその能力に結構手こずっているらしいです。
世の中には生まれてから、もしくはいつからか特別な力を使うようになった人がいて、昔の神界の人たちはそれを神様から授けた「権能」と呼んでいます。
神の代理人としてその力の一部を預かって世界のために使うという話らしいですが、それがどうやって発現されて、使うようになるのかは、誰も知らないようです。
魔界では「取引」、人界では「超能力」と呼ばれましたが、今はあまりそういう呼び方で呼ばれたりはしません。
とにかく会長さんの能力は通常の能力よりはるかに特別なもので「七色」の一つだそうです。
「神眼」と呼ばれる金色の目。
それで誰かの考えを呼んで、操ることもできる。
使いようによってはとても便利な能力みたいに見えたりしますが、
「でも余計なことまで読んでしまったりしますから。
それも自分の意思とは関係なく。」
そんなに都合の良いことばかりというわけではないと、先輩は予め明かしておきました。
能力が強力すぎてうまくコントロールできない。
それ故に、周りの考えを勝手に読み取ってしまう。
知りたくもなかった相手の本音や考え。そしてそれを自分に見られるということを周りが知った時の反応と置かれる距離感。
それがどんなトラブルと疎外感をもたらしたのか、自分には想像もできない。
それでも会長さんはくじけず、自分の意志を貫いてきたそうです。
でも彼女が目指していることが何なのか、先輩は未だに聞いたことがなかったと、多少自信のない顔でそう言いました。
「セシリアちゃんが私のことを大切にしているということはよく分かります。
でもたまには本当の気持ちを聞かせてもらいたいのに、それがうまくできなくて…」
「これじゃ友達失格ですよね?」っとしょんぼりした笑みを浮かべて笑ってしまう先輩。
会長さんのことを尊重しているからこそあえて聞かないことにしようという優しさと、会長さんの本音を聞きたいという純粋さが拮抗している複雑な感情に先輩は葛藤しているように見えましたが、
「先輩だって私みたいに迷ったりするんだ…」
私はまるで自分が感じている迷いと似たような気がして、他人事のようには感じられなかったのです。
でもその次の話で私とゆりちゃんは分かるようになりました。
「あ。この人、絶対
っと。
だってその会長さんって、
「これは絶対恋ですね。」
明らかに先輩のことが大好きだったんですから。
ゆりちゃんがそう判断した理由はその時の会長さんの行動があまりにも先輩への気持ちを表しているからだと思います。
だって普通の女友だちに、
「だってみらいちゃんは私のたった一人の大切な人だから。」
そういうセリフ、あまりしないんですから。
会長さんは決して自分の気持ちに素直になれない人ではない。
単に先輩が気付けないだけ。
実際、
「ミラミラ…今のって殆ど告白だったじゃん…」
「桃坂さん…どんくさいにも程がありますわ…」
あんなにギクシャクしていたかな先輩と副会長の赤城さんが意気投合して先輩のどんくささを心から残念がってましたから。
まあ、自分のことをたった一人の大切な人と言ってくれる人に、
「ありがとうございます、セシリアちゃん!
セシリアちゃんだって私の大切な
「と…友達…」
「なんかすごくがっかりしてるよ…!会長…!」
「負けてはいけませんわ…!会長…!」
その反応はさすがにどうかと…
「み…みらいちゃんはずっとこんな感じだったから…もう大丈夫わ…」
「血…出てるますわよ…?」
「よほどダメージ大きかったんだ…」
あんな感じで会長さんが立ち直るまで少し時間がかかりましたが、
「それじゃ、早速本題に入らせてもらおうかしら。」
自分の目的を忘れることなく、自分が来た理由から目的まできちんと説明しようとする会長さんのことに私とゆりちゃんは心から尊敬するようになりました。
会長さんは遠回しに言うこともなく、真正面から自分の考えをぶつけてきました。
「私はみらいちゃんに悲しまないで欲しい。だからここがなくなるのは嫌。」
「とおっしゃいますと…?」
一瞬、思惑通りにはいかない予感を感じ取った赤城さん。
彼女の立場もよく理解しているつもりの会長さんでしたが、それ以上に彼女は先輩を悲しませたくないと強く思っていることを、私はその次の提案から分かるようになったのです。
「だからちゃんと機会を与えるべきだと思う。
私の権限でね。」
っと言いながら先輩に一枚の申請書を渡したという会長さん。
それは、例の発表会のアピールタイムにステージに立つために必要な、使用許可を得るためのオーディション申請書でした。
「もちろん他の部にもオーディションを受けてもらう。
でももしみらいちゃんたちが落ちたとしても私の権限で勝手にステージに立たせるから。」
「それはあまりにも贔屓なのでは…」
身も蓋もない明らかな贔屓にドン引きしてしまう赤城さん。
でも先輩は、無条件で自分の方を持つという会長さんに、こう断言したそうです。
「そんなことしなくても大丈夫です!セシリアちゃん!
私達は実力で合格をもぎ取ってみせますから!」
わざわざ会長さんの手を煩わせる必要はない。
自分たちは正々堂々自分たちの実力で合格して、赤城さんと皆を認めさせてみせる。
それこそ意味があると、
「だからその嬉しい気持ちだけ受け取っておきます。
ありがとう、セシリアちゃん。」
先輩は会長さんに気持ちだけで十分だと、そう言いました。
でも先輩がそんなふうに言うことを、まるで最初から知っていたような会長さんのは、
「うん。みらいちゃんとかなちゃんならきっとできるから。」
っと先輩たちの手を握って勇気を吹き込んであげたのです。
「いいえ!認められませんわ!」
でも早速猛烈な勢いで反対してきた副会長の赤城さん。
青白い肌が真っ赤になるほど興奮した彼女は鼻息まで荒くして、生徒会長さんの話に異論を唱えてきました。
「早速反対してきたか…」
「当たり前ですわ!」
っと自分の生徒会長という立場にも心置きなく反対のあげてくる副会長の凄みに少し圧倒されてしまう会長さん。
彼女が相手が誰だろうと必ず自分の考えることを主張できるしっかりして意志の強いという正確であることを分かるようになった瞬間でしたが、
「でももう決めたことだから。」
それでも会長さんはすでにそのオーディションの提案書を上に提出して、各部からの同意も得ていた状態でした。
聞いた話によると赤城さんを副会長として進めたのは他でもないあの会長さんで、彼女は妥協しない、赤城さんのそのバカ正直な真っ直ぐな正確が気に入ったそうです。
正しい道さえ示すことができれば必ずより良い方向に進んでくれると、会長さんはそう見込んで彼女を副会長として推薦しました。
たとえそれが彼女を強硬派にさせ、多くの部活を潰そうとするという残念な結果を招いたとしても、会長は自分の選択を決して後悔しませんでした。
「会長!」
「か…顔が近いよ、なな…」
勝手に話を進めてしまい、しかももう上の許可と他部からの同意まで得てしまった会長さんにありったけの怒りを表せてくる赤城さん。
自分の意思も聞かずに、何でも自分勝手にしてしまう会長さんのことがよほど気に食わなかった赤城さんでしたが、
「はあ…」
彼女はどうせ言っても無駄だと、速やかに状況を飲み込んで、断念したそうです。
「まあ、いいですわ。
どうせわたくしは落とせば済むことですから。」
でも早速その次の計画を立て始めた彼女は、先輩とかな先輩の前で自分から二人をオーディションで落とすと宣言したのです。
そのことに、会長さんは、
「…ななって昔からずっとこうだったかしら…?」
少しドン引きしたそうな顔で、かな先輩にそう聞いて、
「まあ…割にね…」
かな先輩はただ「あはは…」って笑ってそう答えたそうです。
赤城さんは明らかにこの同好会に敵意をむき出すている。
そしてかな先輩と何らかの複雑な関係に置かれている。
そのすべてを総合してみたら、彼女がそのオーディションで先輩たちをわざと落としてもおかしくはない。
そう思っていた私に、
「そんなことはないです、みもりちゃん。」
先輩はそれは誤解だと、自ら彼女のフォローをしたのです。
「赤城さんは私とセシリアちゃんと同じく音楽特待生としてこの学校に来ました。
音楽に対しては誰よりも厳しくて、いつも真面目に向き合っています。
だから音楽に私感を入れることはないということは私が保証します。」
優れたピアニストとして積み上げてきた音楽に対するプライド。
それに傷をつける卑怯な行動を赤城さんがするはずがない。
それだけ彼女は気位が高くて、正々堂々な人でした。
そしてそれは、
「あれ…?じゃあ、会長さんがあえてオーディションにしたのは…」
いや、それこそ会長さんの狙いではないかと、私はふとそう思うようになったのです。
「セシリアちゃんは知ってました。
赤城さんが音楽のことでなにか仕掛けることはないと。」
そしてやっと見えてきた会長さんの本当の目的。
それはつもりオーディションで先輩たちの歌を赤城さんに聞かせて、先輩たちのことを認めさせる作戦だったのです。
もしただ先輩のためだったらあんな回りくどい方法は選ばなかったはず。
会長さんはそういうやり方では誰も納得させられないと、先輩たちを認めさせられないということを分かっていました。
その証拠として、
「あなた達のしょうもない音楽なんてどうせわたくしの気に入るわけがありませんわ。」
っと赤城さんが先輩たちの音楽なんて自分の気に入るはずがないと高を括った時、
「ええ。思う存分楽しみなさい。」
会長さんはいいもの見せてあげるわと、まるでそう言っているような笑みを浮かべていたそうです。
そして、オーディションが終わって結果が出た時、
「参加を認めて差し上げましょう。」
先輩たちは見事にオーディションに受かって、発表会のステージに立つようになったのです。
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