第9話
それは新学期が始まったばかりのことでした。
「え!?活動禁止!?」
「そうですわ。」
「ちょっ…ちょっと待ってよ!何で!?何で活動禁止!?」
騒がしい部室。
いつものように部室に集まった先輩とかな先輩のところに突然訪れたという生徒会副会長「
そして彼女から宣言したのは衝撃の活動禁止通告。
「どうしてですか!?赤城さん!?」
その理由を問う先輩のことを見向きもしない副会長の赤城さん。
彼女は一度息を整って、
「理由なんてもう分かっているのではありませんの?」
っと今後の同好会の活動がいかに無意味なのか、その理由を説明し始めました。
セットするのに一苦労するくるくるに巻かれている上品でセレブリティな紅玉のような真っ赤なツインテールとグラス並の透明感を帯びている白い肌。
日光対策としていつも持ち歩いている黒い日傘を脇に挟んで、部活活動報告のファイルと二人の顔を交互に見る満月のような金色の瞳は背中がぞっとするほど禍々しいかつ、美しい。
冷たい視線。
そこから感じられるのはただひたむきの距離感のみ。
彼女こそ、この学校のみならず全世界から圧倒的な人気を得ている大人気アイドルユニット「Fantasia」のボーカル、「
魔界の上級種族の一人、「
大手企業「赤城財閥」の令嬢である彼女は本来天才ピアニストとして世界を飛び回っていましたが、先輩と同じ音楽特待生として高校に入学した途端、突然オーディションを受けて「Fantasia」の新メンバーとしてアイドルに転向、芸能界に入りました。
「Fantasia」が3人体制になってからの本格的なツアーライブはありませんが、彼女はピアニストとして鍛えてきた音感と生まれつきの優れた歌唱力を駆使して、一気に一流のボーカリストとして世界から認められるようになりました。
古代、吸血鬼は人を惑わすために様々なことができて、とりわけ芸事に長けているという話は聞きましたが、ここまでの成長の速さを見せつけるとは、誰も予想できなかったそうです。
というわけで彼女は今、この学校で最も話題になっている人物なのですが、その割に彼女はどこかとても寂しそうだと、先輩はそう感じたそうです。
そして、
「なな…」
彼女はかな先輩と何らかの因縁を持った人物だったのです。
「この同好会は部活として機能の全く果たしていません。
郊外ボランティア活動はやっているみたいですが、それだけではここを存続させておく理由にはなりません。
ここはアイドル関連の部ですから、ちゃんとアイドルとしての実績を出してもらわなければ。」
「そ…それはそうですが…」
あまりの正論に言い返す言葉も忘れてしまった先輩。
先輩は自分の代になってから凄まじいスピードで衰退していく同好会のことをずっと気にかけていました。
そしてそれが仇になって挙句の果てに廃部という最大のピンチまで招いてしまった。
それがどれだけの絶望感をもたらしてしまったのか、今の私には想像もつきません。
「他の部員と言っても助っ人が一人。
それでちゃんと部活ができている言えますの?」
「じゃ…じゃあ…!ちゃんと部員を集めて来れば部活として認めてくれるの…!?」
その時、廃部の危機から同好会を救い出すために、精一杯案を出してきたのは、同好会の唯一の助っ人であるかな先輩でしたが、
「…いいえ。それでもあなた達を認めるわけにはいきませんわ。」
副会長の赤城さんは決して彼女の意見を受け入れてくれなかったのです。
そして、
「どうして…!?お願い…!なな…!」
かな先輩の口から彼女の名前が飛び出た時、
「…その嘘まみれの口でわたくしの名前を気安く呼ぶのではありませんわ…!」
彼女のかな先輩への敵意は最高潮に達しました。
「あ…赤城さん…!」
挟んでいた脇から一瞬で飛び出してきた日傘。
彼女はその黒い日傘をかな先輩の方に向けて、
「汚らわしい…!あなたごときの嘘つきが気安く呼んでもいい名前ではありません…!離れなさい…!」
「赤城さん…!ちょっと落ち着いて…!」
いきなり怒鳴りつける赤城さんの勢いに驚いて、慌てて彼女を落ち着けようとおたおたする先輩。
そんな先輩と違って、肝心なかな先輩は、
「なな…」
ただひたすら悲しそうな目で、自分に日傘を向けている真っ赤なくるりんとしたツインテールの小さな吸血鬼の少女を見ているだけでした。
恨み。そして悲しみ。
その時の彼女の目に宿っている感情、そのすべてが自分によって生じたものであることを分かっていたかな先輩は赤城さんに何も言ってあげられませんでした。
「あなたなんて…大嫌いですわ…」
震える小さな体。
今でもそのか弱い肩を抱きかかえて元気づけてあげたいという気持ちは山々だけど、二人の間にできてしまった大きな壁はもう自分一人でどうこうできるものではものではない。
そう思ってしまったかな先輩は赤城さんの言う通りに彼女から離れる以外、何もできませんでした。
そして、ついに宣言される最後通告。
「今ここではっきり通告いたしますわ。
世界政府付属第3女子高校生徒会はあなた達のアイドル同好会の活動を決して認めません。
よって現時刻を持ってアイドル同好会の活動禁止、及び廃部を宣言しますわ!」
それは先輩たちにとどめを刺す最後の一言だったです。
入賞ところか目立つ実績もないしょぼい部活。
最低限の部員も確保できなかくて、いつ潰れてもおかしくない隅っこの弱小の部活。
それでも先輩はここの同好会のことが本当に大好きで、諦めずに頑張ってきました。
自分達で歌を作って夜遅くまでダンスの練習をして、部員を集めるために手作りのチラシを配りました。
正式の部ではないから部費は全くもらえませんでしたが、それも自分達でなんとかやってきました。
衣装だけは先輩の友人の方に頼っていましたが、それを除いたすべてを自分達でやるのはなかなか骨の折れることであることを私はあまりにもよく知っていました。
それでも先輩は楽しかったと言いました。
人は少なくてもアイドルを続けられるということに心から感謝していると、ここでの大切な思い出は嘘ではないと、先輩は同好会のことをずっと大切にしていたのです。
かな先輩が助っ人で加わるまではずっと一人で守ってきた小さな部活。
そしてここには決して離れられないもう一つの理由があると、先輩はここへの大切さを表したのです。
だからこそ廃部宣言という残酷な現実をどうしても受け入れられなかった。
あの時、先輩はこの学校に来てから初めて絶望という感情を覚えたそうです。
「ミラミラ…!しっかりして…!」
そしてついに腰の力まで抜けてその場に崩れてしまった先輩。
気を失いかけている先輩を支えて、かな先輩は赤城さんにこう訴えかけました。
「やっぱり私のせい…?ななが私のことが嫌いだからこんなことをするの…?じゃあ、私、もうここに来ないから…!」
泣きつくように同好会の存続を懇願したというかな先輩。
そんなかな先輩のことを凄まじい殺気で睨みつけた赤城さんに最後までかな先輩の声が届かなかったことに気づいたのはその後でした。
「わたくしの時は簡単に見捨てたくせに…」
聞こえないくらい小さな声。
かな先輩には聞こえませんでしたが、自分には赤城さんがかな先輩にははっきり聞こえたと、先輩は確かにそう言いました。
そしてその後、赤城さんはかな先輩から背中を向けて二度とかな先輩と目を合わせなかったそうです。
「この同好会の廃部は厳密な審査基準によって決定された結果ですわ。
ご覧の通りこの同好会はあまりにも活動実績がなさすぎますわ。
それになんですの?そのでかい肉の塊は。」
っと二人のでっかい胸のことを指差す赤城さん。
凄まじい大きさの二人と違って赤城さんはどことなく落ち着くサイズの胸だったと、ゆりちゃんはそう覚えているらしいです。
「なんだか親近感のある胸でしたね。」
「どうして?ゆりちゃんだってそこそこ大きいじゃない?」
「…それ、もしかして嫌がらせです?」
っといきなりムットするゆりちゃんでしたが、なんで急に怒るのか、私にはちょっと分かりませんでした…
「みもりちゃんったら…子供の頃はあんなに可愛かったのに、もうすっかりメスになりやがって…」
「メスって…」
そして一番分からなかったのは、今の私のことを「メス」と呼ぶゆりちゃんのことでした…
「二人揃ってこんなみっともない袋を垂らして何がアイドルなんですの?
もしかして今、舐めてますの?」
「そ…そういうんじゃ…!というか今、胸との関係性が全く見つかりませんけど…!」
「いっそアイドル止めて「牛乳搾り体験部」の方に変えた方がよろしいのではなくて?」
「そういうとこ、全然変わってないな…なな…」
どういうわけが胸に対して人一倍の敵意を持っているという赤城さん。
そういえば「Fantasia」は実力的にも世間に認められた実力派アイドルですが、また有名なところがあります。
それはつまり「胸」!
赤城さんの除いた残りの二人の方は大人顔負けの凄まじい大きさの胸を誇っていて、前代未聞の「巨乳アイドル」として圧倒的な支持を得ています!
そしてそのデカパイ達の中で唯一常識内の大きさの胸を持っているのが赤城さんというわけで、
「確かにあんな大きさの隣には立ちたくないかも…」
「どうしたんですか?みもりちゃん。」
私はいつの間にか見つめていた先輩の胸を見て赤城さんの気持ちがちょっとだけ分かるようになりました。
でも赤城さんからの話は廃部の最後の通告だけではありませんでした。
「あなた達は今、この学校で起きていることを分かってますの?」
この際、彼女たちにははっきり現実を知ってもらう。
あの時、そう思った赤城さんは、
「ちょうどいい機会ですからもう一度教えてあげましょう。
最もこれは桃坂さん、あなたにも関係のある話ですから。」
改めて今、学校で起きているある争いについてもう一度話すことにしました。
そしてそれが先輩と深い関係があるかも知れないと、私はその時の先輩の暗い表情から察するようになってしまったのです。
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