第8-2話
「へえーこんなにたくさん…
聞いてはいましたが、実際に見るとさすがに迫力が違いますね。」
「でしょでしょ?」
部屋全体を埋め尽くしているたくさんのグッズを見ながらその絶景に驚きを禁じ得ないゆりちゃん。
ゆりちゃんは特に時代、ジャンルにこだわることなくまんべんなく好きになれる先輩のアイドルへのパッションと愛情にすごく強い思いを感じ取ったそうです。
「これはまるで私のみもりちゃんへの愛情に等しい感情。お見事です。」
「つまり先輩のアイドルへの気持ちはそれだけ真剣だってことだよね…?
そう言ってくれるのは嬉しいけど…」
って感じでなにかにこれほど没頭できるのもまた才能の一つだと、ゆりちゃんは私達の関係を例えにして先輩への尊敬心を表しました。
つぶらの目を大きくして、まるで初めておもちゃコーナーに来た子供のように楽しんでいるゆりちゃん。
普段ビシッとしている分、こういうの結構珍しくてやっぱり可愛いなー…
「もう…♥みもりちゃんったらー…♥また私が味わう前に下着の選択を済ませちゃいましたね…♥
全然残ってないじゃないですか…♥」
「何が…?」
全然ビシッとしていませんでした。
まあ、普段のゆりちゃんのことは置いといて、これでゆりちゃんがまたアイドルに興味を持ってくれたらといいなと、私は内心そう思います。
「あなたが悲しむことはもう嫌です。あなたのゆりのアイドルはここでおしまいです。」
だってあの時、あんた形でゆりちゃんのアイドルは幕を閉じてしまいましたから。
まあ、ずっと逃げているばかりの私が言うのもなんですけど。
「私達も…あるのでしょうか。」
その時、先輩のコレクションを見ていたゆりちゃんはなにかを探しているように見えましたが、
「ないみたいですね。」
結局見つけられなかったみたいにほんのちょっとだけ名残惜しい表情でそう呟いてしまいました。
「お二人共♥お茶が入りました♥」
「あ!わざわざすみません。いただきます。」
っと二回目のお茶会の準備が整ったことを知らせる先輩。
私とゆりちゃんは席について先輩から用意してくれたお茶をありがたくいただくことにしました。
「へえーこれが例の先輩の
「うん…まあ…」
そして私は、その時、少し火照た顔で胸元を濡らしている先輩を見つけ、少し複雑な気分で先輩が入れてくれたお茶をいただくことにしました。
「この紅茶、確か学校のお土産店で売ってる高級品なんですよね?
私の方こそ気を遣わせてしまってごめんなさい。」
「いえいえ。昨日はみもりちゃんが大変お世話になりましたから。」
私達のために先輩が心を込めて入れてくれたミルクティー。
香ばしくてまろやかな香りとほんのりした甘みが絶妙に調和して、幸せのハーモニーを奏でる。
確かにゆりちゃんが用意してくれたこれは学校内にあるお土産店で買ったものですが、これは外ではなかなか手に入らない相当な高級品です。
この学校は半分は私立という形で運用されていて、毎年外からすごい数のお客様も来るので、こういう店の収益も大事です。
令嬢やお姫様のようなセレブのお嬢様がいっぱい通っている学校だからどれも豪華で、値段もかなり高価です。
こう見えてもゆりちゃんだって名家「緑山」家の令嬢ですから、結構簡単に買うんですもんね、こういう高いもの。
もちろん私みたいな庶民も多くいて、奨学金ももらえますからそこはちゃんと感謝しています。
でもこの学校で一番の収益を上げているのは、何と言ってもライブ!
つまり「アイドル」です!
この学校は伝統的な芸術文化系の名門で、毎年すごい数の入学希望者が集まりますが、その中でも音楽科が一番人気です。
今は「神樹様」になった救世主「光」様は世界を飛び回る時、よく歌で傷ついた人々の心を癒やしたそうで、音楽は今もこの世界における一番のエンタテインメントとして根強い人気を得ています。
たくさんの音楽家と芸術家、そしてゆりちゃんが目指している官僚も排出したこの学校にコネなどを求めて入りたがる生徒は他にもたくさんいますが、私みたいにアイドルに憧れて入学を決める子も少なからずいます。
そしてそのアイドルの頂点の一人としてこの学校に在籍しているのが、
「あ!「Fantasia」!」
全員が生徒会役員である超人気アイドルユニット「Fantasia」です。
部室の壁に貼られている大きなブロマイド。
そしてそれが第3女子校を代表する生徒会所属の有名アイドルユニット「Fantasia」であることにゆりちゃんはすぐ気づきました。
プロレベルの高いパフォーマンスと圧倒的な歌唱力で現在のアイドルシーンにおいてトップとして君臨している彼女たちは「エルフ」、「
もちろん私も大好きです!
元々はリーダーの一人だけのグループでしたが、去年突然3人体制になって幅広い活動を見せてくれる「Fantasia」。
メンバー全員は生徒会所属の役員で、ゆりちゃんはもう会ったことがあるらしいです。
私は入学式の時にあった新入生歓迎会でしか見たことがありませんが、あのライブはもう本当に素敵でしたよね。
皆キラキラしてかっこよくて可愛かったです。歌も上手だったし、ダンスも完璧。
あんな人たちと同じ学校に通えるなんて夢見たー…
…どうしたの?ゆりちゃん…?そんなにじっと見つめて…
「みもりちゃんは私じゃなく彼女たちと同じ学校だから喜んでるんですか?」
なんかすねてる…
「違うよ…!もちろんゆりちゃんとまた同じ学校に通えるのはすごく嬉しい…!私一人じゃ何もできないから…!
それにずっと一緒だって約束したし…!」
「ならいいですけど。」
ってたまりこうやって私に自分への愛情を確かめてくるゆりちゃんですが、一緒に同じ学校を選んでくれて嬉しいということに嘘はない。
少なくとも私はゆりちゃんとまた一緒に学校に通えることがすごく嬉しいから。
もう二度とゆりちゃんと別れたくないから…
「みもりちゃん?大丈夫ですか?」
「…うん?ううん…!全然大丈夫…!」
思わず飛び出てきた嫌な思いに少し鬱々気味だった私の様子を確かめるゆりちゃんに、私は強いて平然を装いましたが、長い間、ずっと一緒だったゆりちゃんには多分今の私の気持ちが分かっていたと思います。
「みもりちゃん…」
だからああやって自分から離れないように私の手をギュッと握ってくれたのでしょう。
もう別れたくないと思っていたのは私だけではありませんでした。
「このブロマイドって新体制になってからのものですよね?
前は一人だけのグループでしたから。」
「詳しいですね。さすがみもりちゃんです。」
っと今もアイドルに人一倍の興味を持っている私のことに感心した先輩は、
「実はこちらの「セシリア」ちゃんは私の大親友なんです!」
この学校で最も人気のあるスーパースターの一人が自分の親友であることを私に教えてくれました。
先輩と同じ3年生で、生徒会長を務めている「ハイエルフ」のアイドル。
そして彼女の名前が先輩の口から、しかも友達ということを聞いた時、私は心の底から、
「えええ!?」
って感じでびっくりしてしてしまいました。
その反応を予測していたような先輩は、
「よかったら後で紹介してあげましょうか。
セシリアちゃん、きっとみもりちゃんのことを気に入ると思います。」
後で会わせてあげますという約束してくれたのです。
私はテレビでしか見たことのない有名人に会えるということにすごく喜んで舞い上がるようになりましたが、
「でも実際のセシリアちゃんはもうちょっと普通で可愛い女の子ですから。」
先輩はそれはあくまで舞台の上の姿で、本当は私とあまり変わりのない普通なJKだということを予め話してくれたのです。
それには、一度名前で会ったことがあるゆりちゃんも、
「そうですね。実際話してみたら割と普通な人だということが分かりました。」
それには同感だと、彼女の印象についてそう言いました。
「普通と言っても華やかで気品があって、とても素敵な人だったということには変わりありませんけどね。」
「緑山さんもそう感じましたね。緑山さんならきっとセシリアちゃんともっともっと仲良くなれると思います。」
「そうですね。お互い共通点みたいなものもあってなんだか親しみも感じましたし。
あ、よろしければ私のこと、下の名前で呼んでくださいませんか。
その方が呼びやすいと思いますので。」
っと自然な流れで先輩に呼び捨てまで許すゆりちゃん。
当然先輩は私の時と同じく大喜びして、
「いいですか?じゃ…じゃあ、ゆりちゃん!」
早速ゆりちゃんのことを「ゆりちゃん」と呼ぶことにしました。
最上級生に対して物怖じせず堂々とするゆりちゃんもすごいですが、何より一番驚いたのはゆりちゃんのことを私と同じく親しく接する先輩のすごい親密感です。
ゆりちゃん、ああ見えても結構人を選びますから先輩みたいに気安く触れてくる方は珍しいです。
「みもりちゃんだけいればいいです。他人のことなんてどうでもいいです。」
っと私以外の人にはいつも心に壁を立てて、距離を置く態度を取っているゆりちゃん。
でも本当は根は優しくて、正義感もあって、私はそんなゆりちゃんのことが本当に大好きです。
今は少しマシになりましたが、前はもうちょっとヒリヒリしてましたし、体も大きくて、近づきにくい雰囲気を出しているから、それがずっと心配だったんです。
でもそんなゆりちゃんにも親しく接してくれる先輩を見て私は、
「あ、この人は見た目だけで人を簡単に決めつけたりしないんだ。」
っと心の底から先輩のことを尊敬して、偏見なくゆりちゃんを受け入れてくれて感謝までするようになりました。
入学式の時に見た「Fantasia」のライブは本当に凄かったのです。
皆、すごくキラキラして歌も、振り付けも完璧で、どうして彼女たちがアイドル界のトップになれたのか、その理由が頷けるほどのクオリティーでした。
新入生の皆はその素晴らしいステージに魅了されて、しばらくそこから一歩も動けなくて、歌が終わった時は、一丸となって感動の拍手喝采を彼女たちに送りました。
当然、私もその中の一人で、今もその感動の渦潮から抜けてないまま。
でも私はその夢幻のような感動を昨日の先輩たちのライブからまた感じられたのです。
去年のその悪夢から抜け出したような実感がするほど、嫌な気持ちを一気に吹き飛ばしてしまうほどすごいライブ。
それと同じ経験を私は昨日の先輩たちの練習からしました。
自分が本当にあの地獄から抜け出したという生きている感覚と日常の大切さを教えて、大事ななにかを思い出させてくれた先輩たちの歌。
ここで、やっと戻った日常でまた触れることができた自分の大好き。
それを教えてもらったから私はこの同好会がなくならないで欲しい。
先輩に悲しまないで欲しい。
だから勇気を出すんだ。
ちっぽけな自分でもなにかできるものはきっとあるはずだから。
ゆりちゃんが私のことを信じて、私も自分自身と勇気を出してみようと約束したから。
でも…
「ミルクですか?よかったらちょっと搾ってみます?」
「あ、いいえ、結構です。みもりちゃんのミルク以外はあまり興味ないんで。」
やっぱりいざ面と向かったらなかなか言葉が出てこなっー…って今、なんて?
これからもずっと先輩たちの歌を聞きたい。
先輩たちがステージの上で踊るところを見たい。
そのために、私はここに来たのだから。
「よし…!」
言うんだ…!やっぱりここでちゃんと言うんだ…!
断られてもいいからここで自分の気持ちをありのままで話すんだ…!
先輩とお友達になった昨日みたいにちゃんと自分の思いを伝えることができれば、先輩はきっとその気持ちに応えてくれるはずだから…!
そう心を決めて前に踏み出しましたが、
「そうだ。実はこの前、やっと審査に通って例のステージに参加できるようになりました。」
突然、私達に言っておかなきゃことがあるという先輩の言葉に言いそびれてしまった私は、また何も言えませんでした。
「どうしたんですか?みもりちゃん。」
「あ…いいえ…なにも…」
「みもりちゃん…」
っと何もないですってはぐらかしてしまう私のことをゆりちゃんはただ心配そうな目で見ているだけでした。
「そ…それより例のステージって…?」
「あれですよ、あれ。期末テストが終わったらすぐ行われる「発表会」のこと。」
「さすがゆりちゃんです。」
生徒会に入ったばかりなのに、もう学校の大体のスケジュールを把握してゆりちゃんのことに感心する先輩。
それは1学期に予定されている行事の中でも最も大きい行事だと、ゆりちゃんは私にそう説明してくれました。
「部活成果発表会」、通称「発表会」。
オープンキャンパスも兼ねているその行事は世界政府付属高校で行われるどの行事よりも大きい一大イベントです。
テレビ番組で特集として扱われる発表会は外からたくさんのお客様が来て、そのお客様の前で自分たちの実力をお披露目する恒例行事です。
それでお客様は学校のレベルを図り、それによって入学希望者になる確率が上がる。
音楽科、芸術科、演技科、普通科などのそれぞれの科のアピールももちろん大事ですが、何と言っても発表会では部活のアピールタイムがあって、ここでたくさんの将来の入部希望者を確保するということです。
「この学校は割と部活を大事にしてますからね。」
「勉強だけが全てではないということです。」
っと今、先輩とゆりちゃんが言った通り、この学校は生徒たちの自主性を重んじて、通常の授業ほど部活を大事にしていて、部活のアピールもとても重要となります。
それ故に部活同士の掛け持ちも認めていて、生徒たちはより多くの部活を体験できる。
確かに学力のレベルの高い学校なのですが、それだけではないということを知ってもらうのが、この部活政策の趣旨だそうです。
そして厳しい審査をくぐり抜けた一握りの部活だけに許されるのが、学校紹介の後のアピールステージですが、
「実はそこでライブすることになりました。私達。」
「本当ですか!?すごいです!」
まさかそのステージに先輩の同好会が立つとは!
これは同好会のことを皆に知ってもらう大チャンスだと、私はそう確信して、先輩もここで同好会のすべてを出し切るとすごく張り切っていました。
「でもこれも全部セシリアちゃんのおかげです。
私一人だったら絶対できませんでしたから。」
でもこれはいろんな人たちの協力があってこそできたものだと、先輩は私達にそう話しました。
ここまで来るのに本当は大変だった。
特に生徒会のある人物との関係が思わしくなくて、そのまま廃部にされる危機が何度もあったという先輩の話。
そしてその話を、先輩は今、同好会に関わった私達に聞かせてくれました。
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