第8話
「もう30分も経っていますよ?
昨夜、自分で言ったじゃないですか。先輩たちのお力になりたいって。」
「それはそうだけど…」
放課後、勢いでゆりちゃんと一緒に部室まで来たのは良かったのですものの、いざ入ろうとしたら急に怖くなってもう30分も部室の前でおどおどしている自分。
こんな自分が情けなくて仕方がない。
それでも私は先輩たちに拒絶されることを恐れてゆりちゃんからの催促にもなかなか中に入ろうとする勇気を出せませんでした。
「うぅ…やっぱり緊張する…なんかお腹まで痛い気がする…」
「大丈夫ですよ、みもりちゃん。私がついてますから。
ほら、あなたのゆりがあなたの可愛いお腹をナデナデしてあげますから。」
「も…もう赤ちゃんじゃないってば…」
「うふふっ♥いつ見てもぷっくりしてフニフニの可愛いお腹です♥」
すぐ赤ちゃん扱い…ってここでナデナデする気!?
でもその後、ゆりちゃんはうずくまっておどおどしている私の肩に手を乗せてなんとか私に勇気を吹き込んであげようとしてくれて、
「頑張って。みもりちゃん。」
その心強い声に少しほっとした私はじっくり目を閉じて昨夜のゆりちゃんとの、そして自分自身との約束を思い返しました。
些細な変化でもいい。ほんの少しだけでも勇気を出してみようと。
それが私に前に進んで欲しいと言ったゆりちゃんにできる私の精一杯でしたから。
ここで逃げちゃったら私は自分との、そしてゆりちゃんとの約束を違えることになる。
それだけは絶対いや。
そんなことをしたらきっとゆりちゃんが悲しむだから。
私は大切なゆりちゃんを絶対悲しませたりはしたくないのです。
っとそろそろ覚悟を決めた私の背中を押してくれたのは、
「大丈夫。あなたのペースでゆっくり進めばきっとー…」
ゆりちゃんのその一言でした。
そよ風のようにそっと私の背中を押してくれた優しくて温かい声。
その声に押されてやっと前へ一歩踏み出した私は後のことは考えるな!今はただぶつけるだけ!っと何度も自分に言い聞かせて、中に入るためにドアを叩こうとしたその時、
「あら?みもりちゃん?」
振り向いたそこにはまたここに来た私を見つけて喜んでいる先輩が立っていました。
両手にライブのためのいろんなものをいっぱい抱えている先輩。
いつ見ても華麗できれいなその桃色の先輩は、
「また来てくれたのですか、みもりちゃん!」
私に会うために一走りに駆けつけて、
「私!みもりちゃんならきっとまた会いに来てくれるって信じてましたから!」
私の手をギュッと握って私との再会を喜びました。
「い…いいえ…私の方そこ喜んでくださって嬉しいというか…」
私なんかをこんなに嬉しく迎えてくれるのはちょっと小っ恥ずかしい気もしますが、そんなに嫌な気分ではない。むしろ喜んでもらえてちょっと嬉しい。
そう思っている私に、
「ほら、みもりちゃん。お礼しなきゃ。」
「あ、うん。そうだったね。」
昨日のお礼、ちゃんと言わなきゃと小さな声で言ってくれたゆりちゃん。
ゆりちゃんの話に私はお礼として持ってきたお菓子を先輩に渡しながら、
「き…昨日はどうもありがとうございました…!これ、受け取ってください…!」
昨日のお礼をしました。
ゆりちゃんが用意してくれた高級のお茶菓子。
自分で買ったものではありませんですが、それでも先輩は、
「ありがとうございます!大切にします!」
っと満面の笑みで私からのお土産を喜んで受け取ってくれたのです。
そのことに少しほっとするようになった私は、
「ありがとう、ゆりちゃん。」
小さな声でゆりちゃんにありがとうって言って、ゆりちゃんはただいつものような穏やかな笑みで私のことを見ているだけー…
ってあれ?ゆりちゃん、なんか自分ではない女の子と私が仲良くしているのに全然怒ってない…
ただ先輩が上級生だからと言うには、あまりそういうことにこだわらない性格ですから…珍しいですね…
「すごい…」
その時、つい目についた先輩の胸に目が離せなくなったゆりちゃんのことを見つけた私は、
「あ、これか。」
ってとっさにその理由を察してしまったのです。
「何度見てもすごいですね、この部長さん…
本当に人間ですか…?」
「あはは…」
生徒会のことで何度も先輩を見たことがあるゆりちゃんでも生はやはり迫力が違ったのか、なかなか先輩の胸から目が離せないゆりちゃん。
でも初めて会った時も、確かに私も似たような反応でしたから。
スイカやボウリングボールでは比にならないほどの凄まじい大きさ。
それなのにこんなに弾力があって、僅かなたるみもなくきれいな形を維持している。
こんな胸、私たちは今まで一度も見たことがありません。
「すごい…」
いくらゆりちゃんでもさすがにこの大きさは反則すぎだったみたいですね。
「みもりちゃんのお友達ですか?」
そして私以外の視線にようやく気がついて、自分を訪ねてきたもう一人のお客様に興味を示す先輩。
嬉しさのあまりに今まで気づいてなかったのがまた無邪気で純粋に見えます。
そんな先輩に身なりを整えて正式に自分を紹介しようとするゆりちゃんでしたが、
「こうやって正式にご紹介するは初めてですね。
初めてお目にかかります。
みもりちゃんの花嫁となる「
以後お見知りおきを。」
「え!?」
まさか高校に入ってもなお、その自己紹介をするとは…
ここはなにか誤解されないように私がちゃんと説明しなきゃと思いましたが、
「なんと!」
幼稚園の頃からずっと続いてきたその自己紹介を真に受けてしまう先輩もまた只者ではありませんでした。
「もうすっかり大人だったんですね!みもりちゃんって!
しかもこんなに可愛いお嫁さんがいらっしゃるなんて!」
「あらまあ♥可愛いだなんて♥」
照れてる…
「あ、そういえば昨日の生徒会室にいた方ですよね?
はじめまして。3年の「
よろしくお願いします、緑山さん。」
「こちらこそよろしくお願いします、桃坂先輩。」
私の時と同じくゆりちゃんのことを笑顔で迎えてくれる先輩。
見覚えがあるのか、すぐゆりちゃんが生徒会であることに気づいた先輩を見て、正直に言って私はほんの一瞬だけ焦ってしまいましたが、先輩は何も気にしてないって顔でゆりちゃんの訪問を心から歓迎してくれました。
今、この同好会はゆりちゃんがいる生徒会と微妙な関係に置かれていますから、ゆりちゃんのことを煙たがったらどうしようって、一人で内心そわそわしていましたが、この様子だと大丈夫みたいです。
やっぱり先輩って本当に人がいいですね。
「昨日は「
今日はそのお礼参りです。」
「これはご丁寧にどうも。お嫁さんのお気に召すおもてなしができたか、ちょっと心配です。」
「いえいえ、みもりちゃん、すごく喜んでましたから。」
「そうですか。それなら良かったですね。」
なんか勝手に話を進めている…
「こんな所で立ち話するのもあれですから、中に入ってお茶でもいかがですか?私、お二人ともっともっと話し合いたくて。」
「いいんですか?私まで。」
っと自然な流れでまたお茶会をしようとする先輩。
今度はゆりちゃんまで誘ってやるつもりです。
「もちろんです。いつでも大歓迎です。」
私と再訪問に加えて、今度はゆりちゃんという新たなお客さんまで来てよほど嬉しそうな先輩。
そんなに喜ぶことでしょうか、私がまた来たのが…ゆりちゃんはともかく私みたいな…
「私、今日、本当に嬉しいです!みもりちゃんがまた来てくれたのがすごく嬉しいです!
お友達と一緒に同好会に興味を持ってくれたのが、本当に…本当に嬉しくてもう涙まで…」
っと急に後輩ちゃんたちの前で涙を見せてしまう涙もろい先輩!
それには少なからずの戸惑いを感じてしまいましたが、
「泣くほど嬉しかったんだ…」
私はそれほど私達の訪問を喜んでくれる先輩のことに、本当はすごく嬉しかったのです。
というかどれだけ感情が豊かなんですか、この先輩って。
「じゃあ、入りましょうか。
ちょうどこのお茶菓子に似合いそうなミルクティーが入りましたから。」
「それは楽しみー…」
ん?ミルクティー?
「あのね、ゆりちゃん…先輩が入れるミルクティーはちょっと特殊かも知れないから…」
「はい?」
ふと昨日のことを思い出した私はゆりちゃんが驚かないように、予め先輩のちょっと変わったミルクティーのネタを教えましたが、
「大丈夫ですよ、それくらい。
みもりちゃんだってゆりの「愛の蜜」で作ったスイーツを子供の頃からずっと食べてきたのになんともないでしょう?
むしろ私への愛がのびのびになったのですから。」
「そ…そうなんだ…すごいね、ゆりちゃんって…あまり気にしてないところがー…って」
愛の蜜ってなに?っと聞く私のことを、なぜかうっとりした目で見つめて、
「知ってますか…?みもりちゃん…♥
私から出た愛の蜜がみもりちゃんの血と肉となってあなたの一部になっているんですよ…?♥」
「え…?出たって…?どういう意味…?」
なにか意味の分からないものをブツブツと言っているゆりちゃん。
結局ゆりちゃんはその怪しげな食材について教えてくれませんでしたが、それ以来、私はゆりちゃんが作ってくれたスイーツを少し複雑な気持ちで食べるようになってしまいました…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます