第117話
かつて「悪魔の壺」と言われた「
昔はただ原生生物や闘士達が集まって己の力を競い合い、強くなるための混沌が今は外圧によって統制されている。
その中で
「聞こえませんでしたか。私は「怪物」の復帰の件について反対します。」
この「
世界的な大犯罪集団「Family」、極端環境主義団体「Nature」、インチキ宗教「運命の時」、宗教絡みのテロリスト組織や世界政府の崩壊を望む各大手企業と数々のマフィアまで。
あるゆる悪が集まるここでもダントツで圧倒的な存在感を表したのがクソババっ…じゃなくみもりちゃんの祖母が親玉にいる「大家」です。
もはや裏世界の支配者と言っても過言ではない「大家」。
「精霊」の内戦に介入して武器を支援したり、あらゆるテロ事件をバックアップしたり、表の世界での全ての事件には必ず「大家」が関わっているという噂がするほど彼らの影響力は脅威的です。
当然「大母」と呼ばれるみもりちゃんの祖母「
「「大母」様はご多忙でしてとてもここには来られません。代わりに私が代理として「大母」様のご意思をお伝えいたします。
ご心配なく。こういう掃き溜め程度なら私一人で十分ですので。」
その代わりここに派遣されたのがこのクソッタレの薬師寺ってわけです。
他の組織より「影」との接続が遅かったという「大家」。
当然当時の「ベルセルク」達は人間主義の「大家」の「影」への進出意思について反対し、それを阻止しようとしましたが
「こんなものですか。期待外れです。」
その結果、クトゥルフさんとガイアさん、鬼丸さんを除いた他の4人の「ベルセルク」が薬師寺の手で切り刻まれてしまったのです。
それが私がここに来る前の話だったので私は薬師寺の戦うところを見たことがありませんがクトゥルフさんはこう言いました。
「まるで黒い死神が懐にその4人の命を取り入れているようなあっけないほどあっさりとした戦いぶりだった。」
っと。
薬師寺の目的は唯一つ。
「大家」と「影」の中に自分が渡橋になってその2つの世界の間に繋がりを作ること。
それが達成できた時、薬師寺はあまりこっちには来なくなったらしいです。
この「影」を支援することでスポンサーの組織は必要な逸材を調達したりコネを作ることができる。
それによって組織はさらなる利益を手に入れることができるというわけですが「ベルセルク」の正体は徹底的にここの「主人」によって隠蔽されて「主人」と「ベルセルク」、両方の許可がない限り外部は決して闘士と接続ができない仕組みとなっています。
「ベルセルク」を含めてここの住民は全員ここでの出来事について口外無用にしなければなりません。
お互いの正体を知っている「ベルセルク」でさえそれは必ず守るべきの鉄の掟です。
それが守れなかったらいくら「ベルセルク」と言っても即ここから追放されておまけにここでの全ての記憶を取り立てて外での地位まで危うくなってしまいます。
その同時に「伏魔殿」と呼ばれたここを敵に回されて命まで狙われかねない。
それがここの「主人」で「悪魔の壺」を管理している「ジン」様との約束です。
でもジン様は「ベルセルク」にここでの決定権を全て託してあまり「影」の管理に熱心ではありません。
目的はいつだって「ランプ」に祈られる「呪いの願い」を叶えてあげることだけ。
彼女は私達はただここの「影」という名前の「ランプ」に願いの力を溜めるための要素だと言って誰が入って誰が死に去るのか割りと無頓着の態度で一貫しています。
そのジン様に次いで一番の権限を持っているのがここの一番の後ろ盾である「大家」のナンバーツーのこの薬師寺ってわけですが
「一度ここを出たものに戻る資格なんてありません。」
どうやらこのクソッタレの薬師寺はどうしても私の復帰が思わしくないようです…
みもりちゃんとのこともあって食いちぎっても気が済まないのにまた私とみもりちゃんの仲を邪魔しやがってくる憎たらしい女。
私はまだ自分でここを抜けたことがなかったため、
「そういうことですので私はこれでお先に失礼させて頂きます。」
っと言って部屋から出ようとする薬師寺を呼び止めて即こう言い返しました。
「私は一度たりとも自分でここを抜けたことはありません。」
特に嘘はついていません。
確かに私はあの家からみもりちゃんを助け出した後、ここでの出入りを止めるようになりました。
「もうあそこには行かないって私と約束して欲しい、ゆりちゃん。私、ゆりちゃんが怪我するの嫌だから。」
っと私の体を重んじてくれたみもりちゃんに免じて来なかっただけで自分の意思で「ベルセルク」の座を諦めたわけではない。
私は未だにここの支配者の一人である「ベルセルク」の地位を維持していましたがそれは同時に
「ではあなたはお嬢様とのお約束を守らないということですか。」
大きな矛盾を生み出してしまうことになりました。
「あなたのことを少し買いかぶりすぎたようですね。あなたはみもりお嬢様のためであればどのようなことも厭わず取り掛かる人だと思ってましたがどうやら私の見間違いだったようです。」
「そ…それは…」
まるでこんな簡単な約束も守れないお前なんかにお嬢様はふさわしくないと言っているような辛辣な言葉につい喉が詰まって何も言い返せない。
私のことを振り向いたその黒い髪の仮面の女はもう分かったら早速帰れって言っていました。
それがあまりにも悔しかった私はただ全身を震わせながら悔しがるだけでしたが
「じゃあ…あなたに勝てば許してくれるということですね…?」
私は自分が最も自身を持っていて手っ取り早く全てのことを解決できる手段を選んでその暗い「死神」に挑むことにしました。
「私だって「ベルセルク」です。最初からあなたも含めてあの家の全員をふっとばすつもりで私はここに来たのですから。」
「ほお。大した自信ですね、お嬢様。」
声は笑っているがその中に微塵の楽しみさもない。
この女はいつだってこうやって乾いて凍った笑みで物事を眺めていました。
「ご忠告しますが私はあまり手加減できません。下手したら殺しかねません。最もあなた相手に余裕なんてかましている暇はありません。」
「上等ではありませんか。望むところです。」
自分には一度だけ薬師寺に恩があります。
もし薬師寺が架け橋になって「大家」との交渉の席を用意くれなかったらみもりちゃんはもっと長い時間をあの家で苦しんでいたかも知れません。
その間、もしみもりちゃんの精神が耐えきれず崩壊してしまったら私達はきっとまともな生活が送れなかったのでしょう。
そのことにはちゃんと感謝はしています。
でももし今度は薬師寺が私とみもりちゃんの行く末を阻むのなら私は全力で彼女を排除するまでです。
「誰にも私とみもりちゃんの「楽園」の邪魔はさせません…」
その時、私は自分から見てもあまり正気とは言えない状況でした。
一刻も早く誰にも邪魔されない私とみもりちゃんだけの「楽園」を築きたい。
その一心で再びここに戻ってきた自分はもはやブレーキがぶっ壊れて暴走機関車。
その終着点ではきっと私達の「楽園」が待っていると信じてやまない私はこの時、薬師寺のことを再び自分の敵として認識しました。
「ちょっ…止しなさいよ、二人共…」
「さすがに抜け駆けは見逃せないぞ、天真。」
一触即発の緊迫な状況。
緊張感だけが漂っているそのピンピンと張られている空気を真っ先に引き裂いて口を開けたのは
「ですが私にはあなたと戦おうという意思がありません。私の役目はあくまでこの掃き溜めに我々「大家」との繋がりを作り、維持するのみ。
「大母」様は今の状況を維持しておきたいとおっしゃいましたのでこちらとしては何のメリットもない戦いなどに付き合う必要も、義理もありません。
よってあなたの復帰の計画は頓挫、打つ手なしということです。」
相変わらず私の復帰について反対の意見に声を上げている薬師寺でした。
結局私は何の収穫もなく学校へ戻ることしかできませんでした。
「大家」の事以外にあんなに私のことに頑なな態度で出る薬師寺のことには少々驚かされましたが結局薬師寺の許可がない限り私の「影」への復帰は叶わない。
当然誰にも邪魔されない私とみもりちゃんだけの「楽園」を手に入れることも不可能となる。
「ジン様は絶対協力してくださらないはずですしどうしたらいいのか…」
それだけで私を挫折させるだけの理由には十分でしたがそれよりもっとまずいことが水面の下から着々と進んでいたことに私はまだ気が付きませんでした。
「ゆりちゃん…私に何か隠してることとか…ない?」
それはみもりちゃんが私が企てようとしている今回の計画のことをそろそろ気づいてきたことでした。
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