第114話

最近私は充実した学校生活を送っています。


「ようこそ!アイドル同好会へ!」

「ええ。よろしくですわ。」


なんと!我が同好会があの大人気アイドル「Fantasia」のメインボーカル、生徒会副会長「赤城あかぎ奈々なな」さんを新入部員として迎え入れることができました!パチパチパチー


「色々あってけど皆仲良くして欲しい。」


っと今回赤城さんの入部の立役者であるかな先輩のその言葉になんだか心当たりがあるような少し気まずそうな顔で正式に挨拶をする赤城さん。


「自分の手で潰そうとした部活に成り行きで入ることなるのってやっぱり変な気分ですわね…今までご迷惑おかけしてしまい大変申し訳ございませんでしたわ…

ですが皆さんと一緒に歌いたいという気持ちはとても真剣なものなので何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたしますわ。」


「合唱部」や「百花繚乱」などの大型部を牽制するために全ての部を生徒会の下で管理すべきと強硬な態度を取ってきた赤城さんは最初のターゲットとしてこの同好会を潰そうとしたことを心を込めてちゃんと謝罪しました。

当時私は学校内の事情が全く分からなくて悲しんでいた先輩を見てなんという酷い仕打ちなんだろうっと赤城さんのことを少し本当は悪い人だったりするのかなって思った時もありましたが今なら分かりそうな気がします。

赤城さんだって本当はただこの学校を守りたかっただけであることを。


赤城さんさんにとってお母さんも、そのお母さんも通っていたこの学校はどうしても守りたい特別な場所でその気持ちが他の人より強すぎて少し自分を追い詰めていたかも知れないと私達に話してたかな先輩。

まるで赤城さんご自身より赤城さんのことをよく知っているような強い絆にふと羨ましいなって気持ちが湧いてきたんです。

私はお二人さんみたいなああやってお互いのことを支え合う関係が築きたいって思って。

でも私はやっぱり赤城さんはかな先輩だけにはちゃんとした学校生活を送ってもらいたかったと思います。

自分にはもうできなくても先輩には楽しい毎日を過ごさせるためにって自ら悪になって。

とことん不器用な人ですね、赤城さんって。


「本当によく来てくれたね、なな。心から歓迎するよ。」

「と…当然ですわ…このわたくしが入部してくれたんですから精一杯感謝するのがいいですわ…」

「もちろんしてるよ。ありがとう。」


かな先輩も、赤城さんもめっちゃ嬉しそう。

まあ、喜ぶのも無理ではないでしょうか。だってお二人共、一緒にアイドルやるのが夢でしたから。

少し遠回りしたんですが無事にアイドルがやり直すことができて見ている私まで嬉しくなっちゃいそうな気分ですよ。


でもやっぱりこの部屋で一番喜んでいたのは


「いらっしゃい!赤城さん!」


この同好会の部長である「桃坂ももさか未来みらい」先輩だったと思います。


昨日3年生は校外見学を無事に終了して今日から通常通り登校することになりました。


「はい、みもりちゃん。これ、お土産です。」

「わぁ!桃饅頭!ありがとうございます!先輩!」


部室で会った先輩は現地の神社で売っている桃饅頭をお土産で渡してくれて私は後で皆と一緒に食べることにしました。


「見学は楽しめましたか?先輩。」

「はい。とても。」


すっかり旅行気分になって思う存分楽しめたという先輩の話。

秋には1年生の私達が行く予定ですからもう行くのが楽しみですね。


「得るものたくさんありましたしみもりちゃんにもぜひ精一杯楽しんでもらいたです。」


っと私の期待感を更に高める先輩でしたが


「そういえばゆりちゃんはまだなんですか?」


ゆりちゃんのことを聞くその話に私はなんだか心のところで少し重い気分になってしまったのです。


ここんとこゆりちゃんに変わったところはありません。


「はい、みもりちゃん。今日のお弁当です。」


普通に学校に通っていて毎朝欠かさず私のお弁当も用意してくれて本当に異常なところなんてありませんでした。


「じゃあ、私は生徒会の仕事がありますのでこれで。」

「うん。頑張って、ゆりちゃん。」

「ありがとうございます。」


真面目に生徒会のお仕事もこなしていますし普通に会話できて本当に問題なんてどこにもありません。

ただ…


「なんというか…」


妙に大人しいところが逆に不安なんですよ…

いつもベタベタして私がどこへ行っても必ず付いてくるのに


「お手洗いですか?じゃあ、私はここで待ってますね?」


って感じで前とはなんか別人みたいになったっていうか…


「お手洗いですか!?じゃ…じゃあ…!みもりちゃんの…!ぜひこのボトルに…!」


前だったら絶対こうなってたはずなのに…

まあ、それはそれで助かりますがなんかそういうゆりちゃんって調子狂っていうかとにかく落ち着かないんですよ…


「そうですか…これ、ゆりちゃんへのお土産なんですが…」

「これって…香水…?」

「フェロモン香水らしいですー同い年の女の子によく効くらしくてー」


お土産に何買ってくるんですか!?先輩!?でもありがとうございます!


「緑山さんですの?そうですわね…多少疲れているように見受けていますが…」


同じ生徒会の赤城さんに聞いても特に異常はなさそうですし…


「まあ、昨日まで会長も含めて3年生全員が不在でしたから少し張り切りすぎたせいなのかも知れませんわ。

緑山さんは次期生徒会長と言われるほどの逸材ですし人一倍は努力する人ですからきっとそうでしょう。

あ、そうですわ。これ、バイキングビュッフェの入場券ですが良かったら緑山さんとお二人で楽しんでくるのはいかがでして?」

「あ…ありがとうございます…!赤城さん…!」


ってなんか気を遣ってくれた赤城さんのお言葉に甘えて昨日早めに仕事を片付けたゆりちゃんを誘ってみましたが


「ごめんなさい、みもりちゃん。最近少し太り気味で食事制限中でして。」


ゆりちゃん、なんか最近ダイエットみたいなことをやっているらしくてあっさりと断れちゃいました…


「せっかくですし黒木さんと楽しんでくるのはどうですか?みもりちゃんのお友達ではないですか。黒木さん。」


っと急にクリスちゃんとの同行を勧められた時はちょっと…いや、かなりびっくりしましたが


「別にいいんじゃないかと思いまして。友達は大事にするものでしょう?」


いつの間にかクリスちゃんのことを受け入れるようになったようなゆりちゃんのことは純粋に嬉しかったです。


「じゃ…じゃあ、行ってくるから夕飯、先に食べてね?」

「はい。行ってらっしゃい。」


っと笑顔で私のことを見送ってくれたゆりちゃん。

でもあの時も私はそんなゆりちゃんのことに小さな不安感を感じていました。


結局ー


「今日は誘ってくれて本当にありがとうございます、みもりちゃん。みもりちゃんとのお食事とは夢みたいです。」

「ん…そんなに喜んでくれるとなんだかすごく心が痛いかな…」


ってクリスちゃんと二人っきりで市街まで出かけることになった私でしたが私はクリスちゃんのその言葉に良心の呵責を感じせざるを得なかったのです…

これってまるでゆりちゃんの代わりって感じでなんかめっちゃくちゃ失礼じゃない…って思われちゃって…

本当はもうちょっと正式な形でクリスちゃんとの時間を過ごす予定だったのに…


「そんなに気にする必要はないんですよ、みもりちゃん。せっかくお姉ちゃんからもらった入場券なのに無駄にしたらそれこそ失礼じゃないですか。」

「そりゃそうだけど…なんか本当にごめんね、クリスちゃん…」


分かってくれるクリスちゃんのことにますます面目が立たなくなった私。

でもクリスちゃんはむしろ自分のせいで私とゆりちゃんが喧嘩をしたことをずっと気にかけていました。


「私の方こそごめんなさい、みもりちゃん。私がもう少し自重していればみもりちゃんと緑山さんが喧嘩なんてせずに済んだはずなのに…」

「ううん。前にも言ったけどあれはクリスちゃんのせいじゃないから。どっちかと言うとやっぱり私がゆりちゃんに酷いことを言ったのが一番まずかっただけだし。」


それについてはちゃんと謝って許されたはずなのに未だに私とゆりちゃんの間に残っている見えない凝り。

それはきっと今自分の目の前にいるこの黒髪と褐色の肌を持ったきれいな魔界のお姫様であることを私は本能的に感じ取っていました。


でもこんなクリスちゃんだからこそゆりちゃんのことが相談できたのです。

私のことだけではなくちゃんとゆりちゃんのことまで心配してくれる優しいクリスちゃんなら私の悩みにも共感してくれるはずだって思って。

実際クリスちゃんは誠心誠意に私の悩みに耳を澄まして一緒にゆりちゃんとの問題を悩んでくれました。


「緑山さんが変…ですか?」

「うん…なんか妙に大人しいしまたなんか変なことでも思ってるんじゃないかなって…」


赤城さんはただ疲れているだけかも知れないと言ってましたが私はやっぱり心が落ち着かないんです…

ゆりちゃんって暴走しやすい気性ですしたまに何考えているのか分からない時も…


「みもりちゃん♥今日こそ赤ちゃん作りしませんか♥もう頃合いだと思いますしそろそろ一人くらいは欲しいところなんですが♥」


って言っても十中八九自分のことのはずなんですけどね…


「そうですか…やっぱりまだ少しむしゃくしゃしているかも知れないですね…」

「やっぱりクリスちゃんもそう思う…?そうだよねー…ゆりちゃん、まだ怒ってるんだよね…平気そうに振る舞ってもやっぱりまだ怒ってるんだ…

ゆりちゃん…結構根に持つタイプだしやっぱりそうなるよな…」


っとへこんでいた私に


「だったらこういうのはどうですか?こそこそこそー…」


何かいいアイデアを教えてくれるクリスちゃん。

その計画に些細な緊張感を持つようになった私でしたが


「わ…私…!やってみるよ…!」


私はこここそ踏ん張る時だと腹をくくることにしました。


その後、私は食事の間、クリスちゃんとその計画のことについてたくさん話し合って


「じゃあ、クリスちゃん、明日からよろしくね。」

「はい。一緒に頑張りましょうね。」


クリスちゃんと別れてゆりちゃんが待っている寮に戻ることになりました。


「黒木さんと何の話をしましたか?みもりちゃん。」

「え…!?特に変わったことは何も…!」


ってゆりちゃんに聞かれた時はさすがに焦りましたが


「そうですか。お湯、沸いてますから冷える前に入ってください。」

「あ…!うん…!分かった…!ありがとう…!」


それ以上、ゆりちゃんから何も聞いてくれなくて本当に助かりました…


って感じで心のところで色んな思いを抱えている私ですが


「えへへーまさか赤城さんが入部してくれるとは思ってもみなかったんですーこれからも一緒にアイドルを盛り上がっていきましょうね。」

「ええ、もちろんですわ。わたくしも桃坂さんと一緒に部活ができて光栄ですわ。」


今はやっぱり赤城さんの入部のことを素直に喜びたいです。


「赤城さんが入ってくれてこれからはもっと曲のできる範囲が広がりそうですねー赤城さん、編曲もできますから本当に助かりますー」


久しぶりの赤城さんという新入部員にかな先輩よりも喜んでいる先輩。

先輩は特に赤城さんに音楽的な相談ができるところが好きだと言ってましたが


「わたくしが来たからもう安心ですわ。この同好会が潰れないようにわたくしがビシバシ締めていきますから覚悟してくださいまし。

今までのぬるいやり方なんて片っ端から叩き直して差し上げましてよ?」


どうやら赤城さんはアイドルに関してはゆりちゃんや会長さん以上の厳しい方針を立てていたようでした。


「私達…そんなにぬるかったんでしょうか…」

「ってこの流れだと統廃合の話はなしになるんじゃないの!?」


っと思っていた筋書きとはまた違うようになった流れに思い切り疑問を提示するかな先輩でしたが


「何を言ってるんですの?そんなの、ダメに決まってるのではありませんの。」


相手はあの鬼の副会長である赤城さん。

いくらかな先輩が所属している部活であろうとも特別扱いはしてくれなそうです…


「良いですの?わたくしが入ってからと言って未だに危機から完全に逃れたわけではありませんわ。」

「あ、なな、もう眼鏡かけてる。」


もう仕事モードに入った眼鏡の赤城さん。

なんだかすごく事務的でインテリな雰囲気をアピールしたいって気持ちがガンガン感じられますが赤城さんの言う通りに私達にはまだいくつかの危機が残っています。


「まず統廃合の話自体をわたくし一人でなんとかできる権限はありませんわ。生徒会には複数の部が付いていてそれぞれのトップからの同意がなければ仕事に取り付くことができませんの。

副会長と言ってもその全員を黙らせるほどの権力はないっということですわ。」


自分はあくまでその猶予に必要な時間稼ぎで調律のための仲裁役。

赤城さんはまず自分の方から地道に周りの人達を説得していくつもりだと話しました。


「それにわたくしは依然としてここの同好会のような弱小部は生徒会から守るべきだと思ってますから。

大型部に飲み込まれたところでいいことがあるとは到底考えられませんわ。」


それがせめての生徒達の自由な活動を保障できる方法だと未だに自分の意志を曲げない赤城さん。

もしかして赤城さんの本来の狙いはこれだったかも知れないと私はふとそう感じるようになりました。


「こんな弱小部なんてすぐ飲み込まれて卒業するまでこき使われるだけですわ。違いまして?」


っと私達の意見を問う赤城さんでしたが


「…」


私達はその質問に簡単に答えを出せなかったのです。


「ほ…本当にそうでしょうか…」


特に今回の派閥争いの中心に立っている青葉さんのことを直接指し示している赤城さんのその話は今も青葉さんのことを大切にしている先輩にとって更に残酷に聞こえていたと思います。


でも赤城さんは決して青葉さんのことを悪党扱いしたかったわけではありません。

赤城さんは青葉さんのことを先輩に負けないくらい大事に思っている青葉さんのライバルの一人でした。


「大丈夫ですわ。わたくしはわたくし達のやり方でこの学校に仕組まれた異常な構造を打ち破れば良いのですわ。そうしたら青葉さんだって目を覚ましてくれて全部丸く収まるはずだとわたくしはそう信じていましてよ。」

「赤城さん…」


一気に皆にやる気を吹き込んでくれる頼もしい赤城さん!

赤城さんは本気でこの同好会で「アイドル革命」を起こそうと思っていたのです。

その時、私は同好会に吹いてきた赤城さんという新しい風になんだかすごくいい予感を抱えるようになりました。

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